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「カート様、お聞きしたいことがあるんですが…。」
「ん?何かな。」
「あの…私のこと、いつから?婚約のお話を頂いた日まで、そんな素振りありませんでしたよね…?」
婚約発表を1ヶ月後に控えたある日。
比較的まとまった時間が取れ、久々にゆっくりとカテリーナと向き合う。
「そうだな、1年はたってないよ。」
「…思ったより最近ですね。」
「うん、自分でも予想外。」
申し込みをしてから1ヶ月、時間が取れず少ない時間でしか話せなかった。
そこまで深い話はしていなかったな、と気付く。
「そんなこと、聞きたいの?」
「だって不思議で…。カート様から見た私はまだ子供でしょう?お仕事をされるようになってからはあまり顔を合わすこともなかったですし…。」
子供…というよりは彼女にとって俺が兄のようなものなら俺にとっても彼女は妹のようなものだった。
カテリーナは母に招かれ良く家を訪れていたようだったが、父の補佐として仕事をするようになっていた俺とは疎遠になっていた。
「一年くらい前かな、レイに用事があって家に行ったんだ。ただレイが部屋にいなくて。探している時に庭でリーナに会った。覚えてる?」
「一年前…?もしかして薔薇の花を取ってくださった時…?」
「そう、あの時も久しぶりに会ったでしょう。リーナはさ、久しぶりに会った私をどう思った?」
「どう…?久しぶりだわ、くらいしか…」
リーナの言葉が嬉しい。
その、普通のやりとりが今はなかなか難しい。
「昔から、私を見る周りの目が変わってもリーナは変わらなかったよね。」
「周りの目?」
「大人になるにつれてね。変わるんだよ。昔は普通に接してた子も、私の未来の爵位、地位…それに目が眩む。」
「…そんな…」
リーナの顔が悲しそうに歪む。
「リーナはただありがとうございます、お兄さまはあっちにいますよって昔と同じ笑顔で言ったんだ。他のご令嬢だとね、ここぞとばかりに引き止め自分を売り込む。私に気に入られようとね。」
泣きそうな顔の彼女の手にふれる。
そっと指先に口付けた。
「リーナも、同じになってしまったかも、と声を掛けるのを躊躇ったんだ。でも、変わらなかった。」
ビクリと揺れた手を握る。
「少し大人になった、でも変わらない笑顔に惹かれたんだ。」