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カテリーナには断るという選択はない、と告げたが実の所小父上には断られていた。
ありがたい話だが侯爵家に嫁ぐなどあの子には荷が重すぎる…そんなふうに言われ、でも諦められずに賭けを持ちかけた。
モーズレイ家とロックウェル家は夫人同士が仲が良く、お互いのパートナーを巻き込み、それから今に至るまで家族ぐるみの交流をしている。
そこには爵位だのなんだのというしがらみはない。
だがどちらにも遠慮がない、簡単に断れる縁談であることをカテリーナには告げなかった。
卑怯な手段だ。
彼女の、無限にあったかもしれない可能性を潰した。
「首尾はどうだった?」
家に帰り着き自室に入るとモーズレイ家に不在だったレイナードが寛いでいた。
「なんでこっちにいるんだよ」
「なんとなく?リーナが突撃してくるかもと思ってな」
「はあぁぁ」
「お疲れさんーあの可愛い顔に困惑です!って全面に出された感想は?」
さも見ていたかのような質問し、ニヤニヤと俺の傷を抉ってくるこいつは鬼か。
「つらい」
ぶはっ!と遠慮のない馬鹿笑いをするレイナードにいつか報復を誓いソファに座る。
「これからの作戦は?」
「とりあえず当初の予定通りに」
「ふうん?勝算は?」
「ないね」
再び馬鹿笑いを始めた悪友に憮然とする。
当初の予定通り──そう、本来は2ヶ月後にあるカテリーナの16歳の誕生日からアプローチを始めるつもりだった。
幸い家は安定し政略結婚をするようなほどでもなく、両親にも結婚や婚約をせっつかれていなかった。
ゆっくり、時間をかけて彼女の気持ちを自分に。
そう考えていた。
レイナードから小父上がカテリーナの誕生日パーティで結婚相手を探すことに決めた、と聞くまでは。
「小父上と賭けまでして権利を手に入れたんだ。もうこれで時間はいくらでもある。」
「時間ねぇ。」
「せめて死ぬまでにはなんとか…」
「人生かけすぎだろ!」
三度目の馬鹿笑いが部屋に響いた。
カテリーナの心も欲しい、そう思うのは欲張りなんだろうか。