カテリーナの社交界デビュー
誕生日から数週間後、私は社交界デビューを迎えた。
エスコートはもちろんカート様だ。
それもドレス、靴、アクセサリーまで一式プレゼントされるという徹底ぶりだった。
そんなカート様はどこに行っても注目の的だ。
「あのロックウェル侯爵子息」がエスコートしている「噂の婚約者」である私も当然注目される。
「あのカート様、ずっと私に付いていなくとも大丈夫ですよ?私にも友人はいますし。」
「駄目だよ。どんな輩がリーナを狙うとも限らないしね。」
「…自覚はありますし、一応対処には慣れてますよ?」
「私が嫌だな。牽制をしておくに越したことはない。」
駄目か。
少しだけでも人の目から逃れたかったのに。
見目も良く昔から人に見られるのは慣れているとはいえ、今までの茶会などとは規模も格式も違う。
ふう、と息をつく。
「…疲れた?」
「えぇ、まあ。カート様から横滑りしてくる視線もありますし。」
「そう…。ごめんね。」
「いえ…でも少し休みたいです。」
会場に入ってからずっとカート様の友人知人と様々なひと紹介され気力が限界を超えていた。
「あっちで休憩しようか。」
すっと腰に手を回されドキッとする。
さすがに慣れている…こういう所で経験や年の差を感じる。
そして慣れない私はどうにもギクシャクとしてしまう。
そんな私を、周りの…いやカート様を狙う女性達はどう見ているのだろう。
「私がもっと大人だったらよかったのに。」
はっと思った時にはもう口について出ていた。
驚いた顔をしたカート様と目が合う。
「リーナ?」
「いえ、なんでもありませんっ。」
「…誰かに何か言われた?」
途端に今まで見たことがないような冷えた視線を周囲に向ける。
「いえっ。本当になんでもないのです!誰かに何か言われたわけでもありませんっ。」
「本当に?」
「はっはい!ちょっと空気に飲まれちゃったかなって。お茶会とはやっぱり違いますしっ。まだまだ子供だなって。」
咄嗟に誤魔化したものの、なんとなく後ろめたくて目を合わせられない。
「カテリーナ、こっちを見て。」
「…はい。」
「リーナは子供じゃないよ。それは私が良く知っている。」
それに、と周囲を見回してから私に向き直る。
「誰でもない私が選んだんだよ。だから周りの目なんか気にせずにそのままのリーナでいてくれればいい。」
ね、と笑ったカート様の甘い瞳と。
「好きだよ、リーナ。」
これまた甘い声とともに頬に口付けをされた。
「…カート様、公衆の面前では控えて貰いたいです。」
「そう?残念だな。でもお互いに利もあると思うよ?」
「それでも駄目ですっ!!」
噂のふたりの様子を伺っていた周囲は
うわ、あっま…胸焼けするわ…甘すぎて吐きそう…イチャイチャするなら他所でやれ、無理無理あんなのに割って入れないと囁かれていたのでした。




