侯爵家当主と伯爵家当主の会談
「なにも本気だったわけじゃないんだ。少し心配になって、軽い気持ちで言ってみただけなのに、ひどいと思わないか?」
「奥方どのには本気に見えたんだろう。レイに知られたのも敗因かな。」
「あぁああぁああぁ」
2人だけの応接室になんとも言えない叫びが放たれた。
頭を抱えて苦悩するモーズレイ伯爵をロックウェル侯爵が宥める。
「まあ、私が言うのもなんだが我が侯爵家にリーナが来てくれるのは大歓迎だ。リーナなら間違いがない。」
「それはそうかもしれんが、まだ早い!まだ!成人もしていないぞ!」
「あともう少しで成人するだろう。それにリーナはのんびりで、ほっといたら行き遅れるかも、と言ったと聞いたぞ?」
「うっ。」
「そうは言ってもあの子は可愛いからな。デビューをすれば周りがほっとかないだろう。変な男に持っていかれるくらいならうちのカートでいいじゃないか。幸い、良い男だ。」
「うぅっ…。」
それはわかってる、わかってはいるんだ、と呟きながら項垂れている。
侯爵はそれを見ながらこれが娘を持つ複雑な父心か、と妙に感心していた。
そしてもうひとつ、知らないであろう情報を伝える。
「どのみちカートが動かなくても我らが奥方たちが動いたんじゃないか?」
「どういうことだ。」
「ふたりをお見合いさせようとしていたらしい。」
「な!」
「つまりどのみちうちに来る運命だったってことだろう。諦めろ。」
「あぁあぁぁああ」
再び叫んだ伯爵に追い打ちをかけるように侯爵は話を進めた。
「さて、婚約の発表はいつにしようか?婚儀の日取りは?決めなければならないことはたくさんだ。」
「お前も敵だな!!」
「そんな、とんでもない。だって賭けに負けたんだろう?」
「ぐぬぬぬ」
「男に二言はない、そうだろう?」
息子によく似た笑みを浮かべる侯爵に彼はため息をついた。
「はあぁ…分かったよ…無駄な足掻きはやめにしよう。」
さっと表情を変え父親から当主の雰囲気になる。
さっきまでぐだぐだと文句を言っていたのが嘘のようだ。
切り替えが済み、さくさくと事を決めていく。
あらかた決まり、やれやれと息をついた。
「まあこんなものか。あとはその都度本人達と相談だな。」
「そうだな。それにしてもあの子たちが結婚か。なかなか不思議な縁だな。」
「私はそんなつもりなかったがな!」
「まあそう言うな。…しかし賭けの場に居たかったな。さぞかし面白いことになっていたかと思うと…。」
「それが本音かっ!!」
結局私には味方がいないんだ!と叫ぶ声が廊下まで響いたのだった。




