賭けの実情
「カート、有難い話だが侯爵家に嫁ぐなどあの子には荷が重すぎる。悪いが受けるわけにはいかん。」
一瞬頭が真っ白になった。
仮にも結婚相手を探そうか、というところだ。
他の候補もいるだろうし、保留くらいならあるとは覚悟してはいた。
まさか即座に断られるとは。
「…納得いきません。」
なんとか頭を切り替えたものの、思ったより動揺した声が出た。
その声に小父上の片眉が上がる。
その顔にはありありとまだまだだな、と書いてあった。
「お前なら喜んで嫁いでくる令嬢も多い。その中にはカテリーナより優れているご令嬢はいくらでもいる。何もカテリーナじゃなくても良いだろう?」
「いいえ!俺はカテリーナがいいのです!」
「いや、駄目だ。」
「小父上!!」
「カート、お前ではカテリーナには身に余りすぎる。わかってくれ。」
ギリッと歯を噛み締める。
小父上にはそれほどの権力欲はない。候補に上がるのはきっと同じくらいの爵位の子息なのだろう。
自分の身分が思った以上に邪魔になろうとは。
「ではせめてカテリーナに」
「駄目だ!リーナがお前に惚れたらどうする!」
「何言ってるんですか!それこそ望むところです!!」
「下心丸出しじゃないかっ!駄目なもんは駄目だっ!」
お互いにこれでもか、というくらいに睨み合う。
「…分かりました小父上。賭けをしましょう。」
「…賭けだと…?」
「俺が勝ったらリーナと婚約させてください。小父上が勝ったらこの話はなかったことにします。」
「ほぅ。男に二言はないな?」
「もちろんです。」
賭けには証人がいるだろう、と小父上がレイナードを呼び、どうせならと賭けの内容を決めて貰うことになった。
「賭けの内容ねぇ。」
事を楽しんでいるようにしか見えないレイナードがニヤリと笑いながらよし、と呟いた。
「じゃあ、明日の天気。」
「…は?」
「む?」
「明日の天気は晴れか。晴れじゃないか。これでいこう。」
「よし!晴れだ!!私は晴れに賭けるぞ!」
「あっ!小父上っ!」
「早いもの勝ちだ!」
「ずるいですよ!」
「年長者に譲れ!」
「ぐっ」
まさか明日の天気などという軽い内容になるとは思っていなかった俺は完全に出遅れた。
突拍子もないレイナードに小父上は慣れているのだろう。
俺も産まれたときからの付き合いだが、さすがに父親には勝てなかった。
この時期は晴れが多い、確実に勝つためには晴れに賭けたい。
しかし年長者であることを盾に、結局小父上に押し切られてしまった。
翌日。
晴れていたら負けだ。
負けたらどうするか、いや、話がなかったことになるだけだ、別に会えなくなるわけじゃない、そうだ、この求婚だってもともとの予定にはなかったんだ、このまま前倒ししてアプローチを始めればいいんだ、問題はない…はずだ。
カーテンを開ける前に頭のなかでこの後の算段をし始める。
しかしこのままでは埒が明かない。
気合を入れ、カーテンを開け放った。
「勝ったああああああぁぁぁぁぁぁぁ」
──曇り空だった。
ちなみに同じ頃伯爵殿は自信満々にカーテンを開け放ったらしい。




