10
肯定も否定もしないカテリーナは許容量がいっぱいに見えた。
「ごめんね。ゆっくりでいいから。」
そのまま頬から耳に手を滑らせ柔らかな感触を堪能する。
恥ずかしそうに俯く姿に、うっかり理性が焼き切れそうだ。
「じゃあ、またあとで。」
いつもの指先ではなく、頬に口付けをする。
「っ!!?!!」
カテリーナの声にならない声を背に部屋を後にした。
小父上から俺とカテリーナの婚約が発表された。
親しい友人しか招いていない、そう多くはない人数でもかなりのざわめきになった。
これであっという間に婚約の話は広がるだろう。
ふと隣を見るとカテリーナが不安そうな顔をしていた。
「…大丈夫?」
「はい…。やっぱりというか、結構な騒ぎになるのですね。カート様は年頃の令嬢ならば皆憧れていますし…。」
そういう認識はあったのか。
その認識があっても俺に興味がなかったのか。
ちょっと複雑だ。
思わず目頭を押さえる。
「どうかしましたか?」
「いや…なんでもないよ。」
でもここ最近の様子から、悪い方には行っていないとは思う。
焦りは禁物と思っていたが、もう少し攻めてもいいんじゃないか。
身を屈めカテリーナの顔を覗き込む。
「リーナ。」
「っ!?ふぁいっ!?」
「せっかくだから見せつけてみる?」
「みっ見せつけっ?」
ぐっと腰を引き寄せ耳元に口を寄せる。
「そう、こんな風にね。」
「きゃあ!」
「いやぁ役得だね。」
「かっカート様っ!皆見ていますからっ!」
「見せつけると言ったでしょう?」
「ででででもっ」
ガシッと肩を掴まれ振り向くと小父上が引き攣った笑みを浮かべていた。
「カート、最近仕事のほうはどうだ?あんまり浮かれてるもんだから心配でな?」
「いやだなぁ、小父上。きちんとやってますよ。ご心配なく?」
「そうか?お前もまだ若い。なんだったらまだ仕事に集中しててもいいんじゃないか?」
「いやいや可愛い新妻が家で待っているほうが頑張れるじゃないですか。」
お互いはっはっはっと乾いた笑いでやりとりをする。
最大の敵は小父上だ。
その横でカテリーナが「新妻」、と呟きあわあわとしていたのを見逃さなかった。




