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一度でも意識してしまえばあとは坂を転がり落ちていくようだった。
自分の急激な変化にただただ混乱するばかりで。
目が合わせられない。
甘い声にふわふわする。
ふれられると、心臓がぎゅっとなる。
意識するってどうやって?なんて言っていた時が嘘のよう。
自分の気持ちを持て余し、上手く慣らせないままあっという間に誕生パーティ当日になった。
「おはよう、リーナ。いよいよ今日だね。」
「きゃあ!おおおおはようございます!ずいぶんと早いですね!?」
勝手知ったるなんとやらで、朝も早い時間から突然カート様が現れた。
やだもう心臓に悪い!
どっきんどっきんと心臓が爆発しそうなほど鳴り出す。
「前に言ってた髪飾り、持ってきたんだ。心配しなくてもまた出直して来るよ。リーナが着飾っていく様子も見たいけどね。それは結婚してからのお楽しみかな?」
「なっ!?だっ駄目です!結婚してもそんなの見せません!!」
「ふふ。残念だな。」
そうだ、結婚。
婚約したからには結婚もする。
カート様とけっこん。
毎日、一緒の家で、暮らす…。
カート様と。
ぶわっと一瞬で真っ赤になったのが分かった。
えぇええなにこれなにこれ!?
どうしようどうしよう!?
「リーナ?」
「っななななんでもないです!!」
「顔赤いけど…?」
手が頬に伸びて、そっとふれる。
「ひゃっ」
肩を竦ませ、思わず出た声にカート様が困ったような顔をした。
「そんなふうにされると、なんていうか…勘違いしたくなるな。」
「ふぇ…?」
「もしかして、リーナも俺の事…想ってくれてるんじゃないかって…」
「ふぁっ!?」
「違う…?」
違うともそうだとも言えない。
ぐるぐると頭が廻る。
意識はしてる。
ええ、それもう。
好き…たぶん、これが好きだということなんだと思う。
でも、いいの?本当にこのまま好きになっていいの?
その事を考えるともやもやしてしまう。
もしかしたら、好きと言われて舞い上がっているだけなのかも…?
…いやいや、私そんなタイプじゃないわっ!!




