8.エルフ姫は盗賊が大嫌い
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「それではメルフェスの安寧を脅かす盗賊さん達を一網打尽にしちゃいましょう♪」
俺が創った魔導具がどうすれば悪用されないかという話から国内の盗賊団の殲滅作戦が始まってしまった。
国中の盗賊を全員生け捕りにするなんて到底不可能に思えたが『万感予知』の特殊能力の持つ【エルフ姫】はこのメルフェスの地図を一見しただけで「今日どこの村が、どこの街道を走る馬車が襲われる」と予知し始めた。
更には盗賊団の拠点の場所まで指定してみせる有様だ。
襲撃予告なんてされたら現場に急行せざるを得ない。
しかも2ヵ所で同時多発的に襲撃が起きる時間帯も存在するようで俺と姫様と、ライジ・ライラは別行動する事になった。
双子組が不安だったので魔力込めるだけで魔法陣が展開できる魔色紙を数枚渡しておいた。二人とも興味津々で魔色紙を使い切る気満々だった。
「次はナルルカ村ですね♪」
既に行商人の馬車を襲おうとした盗賊達を二組制圧した。
殺傷事件を起こしそうだった現行犯の盗賊達は問答無用で転送魔法陣を駆使して纏めてソリウス城内の地下牢へ送り飛ばした。
まあ後の処理は王城の武官達がしてくれるだろう。
前の二件は転移魔術で移動可能だったが、ナルルカ村は初めて行くので≪有翼一角氷獣≫を召喚して有翼獣に跨って村へ急行している。
「次から次へと...メルフェスは何時からこんな治安が悪くなったんだ?」
「【勇者】様が旅立った影響はかなり大きいようですね。次の盗賊団は数十人の大所帯みたいですね気を付けてください」
「数十人を俺一人が相手にするんですか?人使い荒いなぁ...」
「S級魔導士のケント様が行かないと落命してしまう人が出てしまうかもしれませんよ?それにいつも私が添い寝してあげてるじゃないですか♪」
新居に移っても続いていたあの悪戯は御褒美だったのか?
「解ってますよ。じゃあサリー姫にはこれを一つ渡しておきます」
そう云って俺は左手首に装備している腕輪の一つを姫様に手渡す。
「これは?...」
「魔法装備の一つですね。その金色の腕輪は念じるだけで防御障壁を展開してくれます。それで自衛してもらいたいんです」
「まあケントさんからの贈り物は初めてですね。大切にします♪」
戦闘が終わったら返してと言い辛くなった。
メルフェスの空を翔ける≪有翼一角氷獣≫は田畑、草原平野、牧草地に緑の樹々が生い茂り、一面に黄色く咲くトロールブルーメ等の高山植物で溢れた丘陵地帯をも通過し眼前に聳え立つ山も迂回ぜずに飛び越え、目的のナルルカ村が見えて来た。
上空から見下ろすと丁度盗賊達が村へ続く畦道を馬に乗り移動していた。本当に30人近く居た。3頭の馬に牽かせている集団用の荷車まであった。
まだ俺の存在には気づいてないようで相手の数が多すぎるし上空から奇襲を仕掛けるしかない。
『≪眠り時雨≫』
まずは眠気を誘う雨を上空から降らしてみる。この雨は対人より馬達に対して顕著に効果が表れた。
盗賊達数人も落馬したり、夢現へ意識を飛ばしている。
盗賊達も異変に気付いたようで上空の俺と姫様、有翼一角獣の存在を視認して攻撃を仕掛けて来た。
『≪聖氷壁展開≫』
有翼一角氷獣の角が光り、氷の聖障壁が展開され、盗賊達が放つ矢、投擲用のダガー、攻撃魔法も難なく弾き返す。
「反撃だ。『≪雷気拘束≫』」
無数の光輪が盗賊達に直撃して全身を痺れさせて気絶させ、輝く光輪が盗賊達の身体に巻き付き拘束具の役割を果たしていた。
それでもまだまだ戦闘可能な者が5人以上いる。それ相応の実力者のようだ。元冒険者か?
姫様は有翼一角獣に乗せたまま俺だけ地面に降りた。
「一体お前は何者だ!!??」
この盗賊集団の頭とおぼしき筋骨隆々として肩首左頬に刺青を入れた大男が空からの襲撃者に動揺していた。
「この方は魔導士ケント様ですわ♪」
「何だと!?何故【勇者】パーティーの魔導士が此処にいる?」
「落魄して破落戸となったお前達が知る必要はない」そのパーティー追放になったからなんだけどな
「スカしやがって...魔導士なら近接戦闘に持ち込めばいくらでもヤれますぜ旦那!!!」
自身の敏捷性に自信があるのか俺を殺る気満々な男が居た。
確かに魔導士は白兵距離まで詰められての肉弾戦に持ち込まれると厳しい。身体の鈍痛もまだ残っている。
盗賊達との距離を保ちながら携帯していた≪魔瑠璃珠の杖≫を構え、次の魔法の準備をする。
「それにあの女エルフじゃないですか?捕まえたら高く売れますぜ。ヒヒヒ」
有翼一角獣に跨っているサリー姫がエルフ族だと気づいたようで男は不気味な嗤いを浮かべている。
王都の城下町を離れてからは本人の希望で認識阻害の魔術を解いていた。その時だった...背筋に悪寒が走る。
「...テメェ今なんつった?エルフを売り飛ばすだぁ!?」
『あの声』が俺の背後から聞こえた。振り向くのは止めよう...
「よくも人族との交流を楽しみしていた私の国の可愛い子達を攫い、呪具で拘束し奴隷のように扱い酷い目に遭わせてくれたな盗賊共...」
これはいつもの毒舌じゃなくてエルフ族の皇女として本気で憤っているようだ。
「やっちまえケント!!!無間地獄を見せてやれ!!!!」
でも無間地獄まで見せちゃいかんだろ。
「返事は!!??」「ワカリマシター」
「来るぞ!!二人共嬲り殺しにしてやる!!!!」
【エルフ姫】の発破を引き金に盗賊達が一斉に襲い掛かってくる。俺は杖を地面に向けて振り下ろす。
『≪悪滅重力層≫』
「何地面に魔法撃ってやがる!もらったぁ!!!ウガァ!」
「グギャ!!」「ダギャァ!!!」「お前らどうし―グハァ!!!!」「カバァ!!!!!」
カバ??
俺の周囲に展開された黒い魔法陣が襲い掛かってきた盗賊達に十倍近い重力を浴びせ、盗賊達は地面に叩きつけられて動けない。
盗賊団の制圧完了を見届けた後、姫様が地上に降りて来た。
「ケントさんちょっと外してもらえますか?」「ワカリマシター」
俺は明後日の方向の向き、緑が生い茂る山々の美しい稜線を鑑賞する。初めて来たけど絶景だなぁ。
「グハァッ!!!」
何か踏みつける音がしたけど俺は知らない...
「...お前ら全員エルフの国キュリーメイズで奴隷にして一生こき使ってから魔樹の餌にしてやろうか?」「ヒイィ!!!」
このまま姫様を放っておいたら
『―――そしてここからエルフ族の逆襲が始まった』
と逸話が後世まで残ってしまいそうだ。いかんいかん。
「あの...サリー姫。国家間の奴隷の遣り取りは流石に難しいかと」
「それは残念ですね。ブルスケッタ様に一度お願いしてみたいですわ♪」
ニッコリ微笑む【エルフ姫】。若き国王ブルスケッタはあっさり認めそうで怖い。
「兎に角!その盗賊達も王城の地下牢へ転送しますから!!!」
***
「これでメルフェス国内の盗賊拠点全て制圧か。疲れた...」
「お疲れ様ですケントさん♪」
洞窟や中規模都市のスラム街、全部で5カ所回った。もう夜中にもなりそうな時間帯だ。
「眠らせる」→「痺れさせて無力化」→「地面を這いつくばらせる」の対人魔法の三連発でなんとか盗賊全員捕縛。
酒を含んで騒いでる夜の方が拠点の制圧、盗賊達の捕縛は容易だった。
拠点の制圧に関しては現地近くに駐在する王国騎士団と連携して殲滅作戦を行った。盗賊達の身柄は彼等に預けた。
捉えられていた女性や子供、それに猫耳族や兎耳族の亜人の娘達も救出する事が出来てとても感謝された。
盗品、武器は勿論没収、悪事を働けないよう盗賊達は捕縛呪具『償いの枷』を課せられるだろう。
人攫いまでしていた集団は当然牢獄逝きだが。
「魔導士ケント様!此度はメルフェス国内の盗賊団の制圧、誠に有難う御座いました!!!」
鎧姿の王国騎士の青年から感謝された。
「魔物退治じゃないし盗賊を捕縛したくらいで大袈裟だよ」
「いえ、最近は盗賊の数が急増していて盗賊達もギルドを創って組織化し、手口も悪辣化巧妙化していくと王国騎士達も脅威を感じていたので王国騎士団一同ケント様には感謝しております」
「盗賊がギルドを創るって意味解らんな」
「盗賊団の一斉捕縛の報せは明日明後日にも国内に広まり、国民達もケント様の御帰還を歓迎する事になるでしょう」
それを聞いてどこか安堵した俺が居た。【勇者】パーティーを追放になり一人でノコノコ祖国に帰ってきた俺が民衆にどう思われるかずっと不安だった。
「良かったですねケントさん♪」
最初は途方もない無茶振りをされた気がしたがサリー姫は俺の心中を察してくれていたのか。頭が下がる。
「それにしてもこれ程美麗なエルフ族の皇女様が婚約者なんて羨ましいです。私もいつか素晴らしい伴侶を娶りたいです」
今日のサリー姫はいつもの瑠璃色の軽装束や装飾品で華美に着飾っている訳ではないがそれでも滑らかな金色の髪と大きな碧い瞳だけで一廉の美貌の持ち主である事が解る。
「なんか俺達、婚約者って云われてますけどやっぱり誤解している人いるじゃないですか?」
「別に良いじゃないですか♪正式発表されてる訳でもない只の噂です。それに後で困るのはケントさんだけですし」
「え?...」
「【勇者】パーティーを追放になり、恋仲のエルフ族の皇女にも愛想尽かされたとなったらケントさんはどうなるのでしょう?では明日からも一緒に素敵な未来を創っていきましょうね♪」
俺はなにかの悪魔と契約でもしたのだろうか?...




