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7.エルフ姫は肉が好き?




「じゃあこれから試しに魔導具を創ってみるから助手の二人はよく見ておいてくれ。盗める技術はいくらでも盗んでくれて構わない」





 王城に仕える武官の人達が運んでくれた金属塊の銅と魔石の一部に魔導具作成に必要な物その他を工房の作業台に準備した。


「了解しました師匠!!!」「しっかりとメモメモメモメモ...」


 真剣に俺の話を聞いてくれてる、国から派遣された助手の双子兄妹ライジ・ライラ。

メモメモはその儘、二回で良くない?


「これからどんな魔導具を創るのですか?ケントさん♪」


「最初の試作品ですし村や街で暮らす魔法が得意じゃない人達でも攻撃魔法を放てる盾でも作ろうかなと。姫様ならそういう魔導具があるのは知ってますよね」


「勿論知っていますが細かな創り方までは」


『万感予知』のサリー姫なら全て知っていそうなんだけどな。ライジ・ライラの勉強にもなるしまあいいか。


「これを魔導具に取り付ければ可能です」


 そう云って俺が3人に見せたのは付与魔術解放の魔法陣(サーキット)が描かれた小型の起動装置(スイッチ)だ。

この起動装置(スイッチ)のツマミを回すと魔法陣(サーキット)の模様が揃い、魔導具に付与された魔法が解放具現化される。


 自作出来なくもないが手間がかかるので、昨日転移魔術を使い、久しぶりに訪れた外国にある魔法技術学院でこの起動装置(スイッチ)や魔色紙を購入してきた。


「そんな装置が外国では手に入るんですね!」「便利便利です...」


「機会があれば魔法学院に一度行ってみるといい。魔導士としての幅が広がる」


 俺も魔法学院を訪れるまで付与魔術の概念なんて全く知らなかったからな...

正直祖国メルフェスは色んな側面で遅れていると言わざるを得ない。


「それでその魔導具にはどんな魔法を込めるのですか♪」


「村や街に住む人達が自衛に使うくらいなら村や畑を襲うゴブリンにオーク、コボルト、猪、熊、ブラウンワーグ辺りは倒せる威力は必要かな」


「ワーグとはたしか魔狼の事ですよね?」


「ええ。巨体の狼です。このメルフェスではよく出没するんです。田畑を荒らされて困ってる人も少なくないですし」


「ブラウンワーグって偶にオークを背中に載せてますよね?初めて見た時ビビりましたよ」

「連携連携なら私と兄さまも負けない...」

 いやライラがくっつくから兄が剣を振り回せないらしいぞ。


態々(わざわざ)美味しいお肉を運んできてくれるなんて素敵な狼さんですね♪」


 もう既に姫様の認識は『オーク=美味い肉』らしい。



「巷の噂だとブラウンワーグってその背中のオークを食べる時もあるみたいですねよ。えげつない...」

「私私も兄さまになら食べられてもいい...」

 何を言ってるんだこの子は。


「やっぱりその狼さんも何時でも美味しいお肉が食べられるようにしてるんですね♪」


 【エルフ姫】がえげつない云われてる魔狼と同じ思考回路でいいのか。



「...じゃあ魔導具創作の工程に入る。先ずは土魔法で魔導具の鋳型を造る」


 ドワーフ族から習熟した魔法鍛冶技術なら鋳型も別段必要ではないが魔導具創りを初めて体験する二人に解り易いように型取りから始める。


『≪耐熱土型成形≫』


 土魔法で盾の鋳型を造った。次は選んだ銅塊と魔石を融解合成させてその鋳型に流し込む。


『≪融解合成(フェルメランジュ)≫』


 揺らめく蒼白の焔球が作業台に置かれている銅塊と魔石を呑み込み溶かし混ぜ合わせていく。

液状化して混ざり合った銅塊と魔石の溶湯を盾の鋳型に流し込む。


『≪氷塊≫』


 土魔法の鋳型ごと、氷の塊で包み込み凝固冷却させる。


「これで暫く様子見だな」


「師匠はどうして盾を創ってるんですか?」


 ライジの質問を受ける。


「国の防衛力を高めたいからな。それに魔法剣はこの国でも普通に出回っているだろう。」


「でも稀少品(レアアイテム)扱いで高いんですよね~。王国に仕えてる身だとちょっと手が出し辛いというか...」


 確かにこのメルフェスに存在する魔法剣は殆どが外国製だ。

世界を旅した後だとメルフェスはこれといった特所も無い国で、強いて挙げれば豊饒な土地に恵まれ飢饉や食糧不足の心配は皆無の農業大国と云える。

この国の魔導具の大半は食糧危機に喘いでいた諸外国へ食糧援助した際の返礼品というのが通説となっている。


「まあ実力があるなら冒険者の方が稼げるからな。魔導具が創れるようになれば自分で創ればいいんじゃないか?」


「でもやっぱりSランク魔導士である師匠の魔法が込められた魔法剣を装備してみたいです。それなら剣を振り回す必要なさそうじゃないですか?」


「ライラがくっついてる前提で話すな」「戦闘中も私の事考えてくれる兄さま素敵素敵...」


「私もケントさんが創った魔導具を装備してみたいです♪エルフ族ですし弓には自信がありますよ♪」


「弓かぁ。まあそれは時間がある時に...そろそろ再開しようか」



 盾の鋳型を冷やしている氷塊を消し、土魔法の鋳型も消滅させて残ったのは銅黒色の盾だった。


「これに魔色紙を押し当てながら火魔法を付与する」


『火魔法≪炎矢≫x10付与』


 銅黒色の盾は火魔法の魔力を吸い込んでいく。そして魔法陣(サーキット)付きの起動装置(スイッチ)を盾の持ち手の近くに溶接合する。


「これで完成ですか?」


 金色髪に麻服の作業着姿のサリー姫が尋ねる。


「まだちょっとしないといけない事があります」「???」





「...これで完成だ」


 10発分の≪炎矢≫が装填された魔法盾が完成した。

出来る事ならこれをこの国の全ての村へ供給したい。どうやって量産するか悩みどころではあるが。


「少しお聞きしていいですか?」「何です?」


「盾を創り攻撃魔法を付与した工程までは順調だったと思うんですが、最後の作業に時間がかかりましたよね?アレは一体?」


「ああ。この魔法盾が暴発しないように安全装置の術式を練り込みました」


「安全装置?」


「それをしないと起動装置(スイッチ)のツマミを回すだけで魔法が解放具現化されて危険なんです。人に向けて放ったら無効化する術式を加えました」


「へえ~。そんな術式まであるんですね」「暴発阻止大事大事...」正に経験者は語る。



 俺が創りたいのは『人々の役に立つ魔導具』であって人を傷つける魔導具ではない。


「しかしその工程が存在するとその盾の量産は難しいんじゃないでしょうか?」


 耳が痛くなる意見だ。

制限術式に関しては複雑でライジ・ライラも習熟出来るか分からない。


「でも魔導具を悪用する人間が現れたら大変ですし...」


「悪用する人間というのは?」


「盗賊...とかですかね?」




「ではこの国の盗賊さん達を全員生け捕りにしましょうか♪」


 俺は本当にとんでもない【エルフ姫】に掴まったのかもしれない。



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