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5.追放魔導士、エルフ姫と婚約!?




「魔導士ケント殿とエルフの国の第一皇女様が婚儀を結ぶだと!?」





 【エルフ姫】サリーティア・アメルの思わせぶりな発言により、俺と国王陛下との謁見?国王陛下とサリー姫の会見の場に参加にしていた政職者や警備の王国騎士・魔導士達が喧々諤々と騒ぎ出す。


「ケント兄!これはどういう事ですか!?」


 若き国王陛下ブルスケッタは完全に陛下の立場を忘れて素に戻り、昔の俺の呼び名で尋ねて来る。後で宰相グラウス様の指導だな。


 【勇者】パーティーの一員だった魔導士の俺とエルフの国の姫様が恋仲という誤解により玉座の間の喧噪が収まらないのでサリー姫を窘める。


「サリー姫がそんな事言うから皆誤解してますよ」


「うふふ♪特にお若き国王様は反応がとても面白いですね♪」


 姫様は手を口元に当てて国賓に相応しい上品な笑い方をしていた。


「失礼致しました。ブルスケッタ国王様。私がケント様と素晴らしい未来を歩みたいと言うのはケント様の魔導具創作能力を高く評価しての事なのです」


「ケント兄の魔導具ですか?」


 ブルスケッタは不思議な顔をしている。

俺が魔導具を創れるようになったのは【勇者】と共に世界を旅して得た様々な魔法知識・魔導技術の蓄積によるものだから知らなくて当然だった。


「はい♪ですのでケント様は魔導具の創作に専念できるように国王様に取り計らって頂きたいのです」


「そうですか...しかし...」


「ケント様は長きに渡る魔族達の闘いで御身体が万全ではありません。せめて全快する迄は第一線で指揮を執るのは厳しいのです...」


 姫様は俺の古傷の事も理解しているようだ。


「勿論これは私個人のお願いではなく、貴国メルフェスと我がエルフ国キュリーメイズとの交易の申し出と受け取って頂いて構いません」




「エルフ国との交易だと!!??」




『エルフ姫と恋仲?』に続いて『エルフ国との交易』という強烈な言葉(パワーワード)が飛び出した。

再び玉座の間は喧々諤々となる。


本来エルフ族は閉鎖的な民族として人族とは積極的に関りを持とうとしないのが通例でエルフ国との交易はその国家に莫大な利を(もたら)すと伝承されている。

冒険者ギルドが幾多の白金貨を差し出そうとも手に入れたい稀少品(レアアイテム)がエルフの国には千の山程ある。


「交易って本当ですか!?嘘でしょ!!??」


ブルスケッタとはサリー姫が繰り出す強烈な言葉(パワーワード)にグラグラ揺れまくりだ。陛下の品格は既に遥か天空へ翔けていってしまった。

玉座から立ち上がり前のめりになるほど興奮している。『エルフ国との交易』は自国に恩恵を(もたら)すだけでなく強力な外交手札にも成り得るから興奮するのも無理はない。

若くして国王の座を継承してしまっただけに早く周囲の雑音を封じ込めるだけの大きな成果を上げたいのだろう。


そんな様子の若き国王を【エルフ姫】はクスクスと上品な立ち振る舞いの儘、笑っている。

生きて過ごした年数・経験の差に加えて未来まで視えるのだからブルスケッタが赤子同然の扱いになるのは至極当然か。

そう云えばサリー姫って何歳なのだろうか?


それにいくら第一皇女とはいえ国同士の交易なんて勝手に決めて良いのだろうか?

俺がこれから創る魔導具にそれだけの価値が生まれるとは思えなかった。この金色髪で十全十美の【エルフ姫】には一体何処まで視えているのだろう?


「それにしても交易まで考えてるとは思いませんでしたよ」


そう話し掛けながら姫様の方を見るとサリー姫はこっちに顔を近づけて耳を貸してと俺を手招きしていた。俺は耳を【エルフ姫】の口元に近づけた。



「テメェがちょっとした身の上話聞かされただけで流されてるからだろうが。『役立つ魔導具創る』って夢はどうした?男がテメェの夢、簡単に夢捨ててんじゃねえよ。そんなに流されたいなら黄泉の霊川まで流してあげましょうか?それと淑女に年齢を聞こうとしない。解った?」



毒舌エルフ姫が御光臨された...また下らない未来が視えていたらしい。

顔を見れば上品な姫の笑顔の儘だった。これが怖い。


しかし若き国王陛下を支えるという判断は下らない未来なのか。少し腑に落ちない。


「国王様?」


「は、はい!なんでしょうか?」


「前国王様は心労で御静養されているとお聞きしましたが御体調は如何ですか?」


「そ、それが今ではすっかり元気になって外遊したり競争黒馬集めに執心しております。お恥ずかしい限りで。はは」


...本当に下らない未来だったようだ。

ブルスケッタの近くにいる宰相グラウス様を見る。あっ目を逸らされた。



「そ、それで交易の件は?...」


「問題ありません。ケント様が我が国キュリーメイズに恩恵を(もたら)す価値ある魔導具を御創り頂けたら必ずその対価となる品を御返し致します。ただエルフ族の性質上、大大的な交易は難しいとお考え下さい。転移魔術を使用できるケント様が貴国メルフェスとキュリーメイズを往来する形での交易になる事をご理解下さい」


「例えばどうような品を提供して頂けるのでしょうか?...」


ブルスケッタは息を呑みながらサリー姫に尋ねる。周囲も固唾を飲んでいる。


「そうですねぇ...では『樹霊草』は如何でしょうか?」




「『樹霊草』だと!!????」




『樹霊草』というのは万病を癒す薬草とされ、更には特級の錬金術師が魔法生成すればあの不老不死の逸話まで残る伝説級の霊薬『エリクサー』までも誕生させる事が出来るという超稀少品(SRアイテム)

しかしこのメルフェスで『樹霊草』を部位欠損をも完全回復させ、老いた肉体の若返りも可能と云われる『エリクサー』まで昇華できるのは【賢者(ニコラ)】くらいでは無いだろうか?


それでも具体的なエルフ国との交易品として挙げられた『樹霊草』という強烈な言葉(パワーワード)が我が国メルフェスの権力者達に完全にトドメを刺した。

玉座の間にいる者達はその殆どが【エルフ姫】に対し最敬礼状態だ。


「ほ、本当に『樹霊草』を寄贈して頂けるのでしょうか?」


「はい♪その代わりにケント様が魔導具創りに集中できる環境を是非用意して頂きたいのですが宜しいですか?」


「はい!!!!なんなりと申し付け下さい!!!」


既にブルスケッタとサリー姫の間には上下関係が出来上がってしまっていてこれはもう「外交」と呼べるものではなかった。



「では先ず、魔導具創作が可能な武器工房を用意して頂けますでしょうか♪」


「はい喜んで承ります!!!」


俺は『魔導具の工房』を手に入れた。



「次に、魔導具創作に必要な資金、素材を最初の期間だけでいいので提供して頂きたいのです」


「はい喜んで承ります!!!!」


俺は『魔導具創作の資金と素材』を手に入れた。



「ケント様の魔導具創作が軌道に乗るまでは少人数で連携したいので魔導士の方を二人ほど助手として配置して頂けないでしょうか?戦闘に不向きな方で結構ですので」


「はい喜んで承ります!!!!!」


俺は『魔導具創作の助手』を手に入れた。



「あとはケント様と私が暮らせる住居も用意して頂けると有難いですね。親交が深まれば本当にそういった未来が訪れるかもしれません♪」


「はい喜んで承ります!!!!!!!!」


俺達は『新居』まで手に入れてしまった...


若き国王ブルスケッタが赤子ではなく元気の良い街酒場の店員に見えて来てしまった...

このメルフェスは大丈夫だろうか?私的に会える機会があれば俺からも注意しよう...



そして【エルフ姫】無双の儘、この会見?謁見?は終わった。

俺とサリー姫は再び絢爛豪華な応接間で暫く待機する事になった。本日の宿泊場所を国が用意してくれるらしい。


「流石に今日のはやり過ぎじゃないですか?サリー姫」


「ケントさんに任せていては話が中々進まず難渋しそうだったので仕方なくです。私も望んで口を悪くしている訳ではないのですよ」


そう可愛く頬を膨らませているが、毒舌状態のサリー姫は怖かった。



「それにしても私も初めて『外交』というモノを体験しましたがとても楽しいですね♪」


でしょうね!


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