41.追放魔導士、魔導車教習所を創る
「これでレジル村と隣街を繋ぐ道の整備は完了っと」
俺達魔道具工房のメンバーで魔法技術学院のある魔法大国イルジョニアスを訪れる事が決まった。
……のだが、それを知ったこの国唯一の呪術師のワンデさんは俺達についていきたいと言い出した。
メルフェス王都でその噂が広まり、俺達と一緒に魔法大国へ行き、研鑽を積みたいという魔導士が殺到していると云う。
その事を俺が知ったのは王城にいる宰相グラウス様に異世界からやって来た少女アヤネと若き国王陛下ブルスケッタとの縁談の返事とダンジョン『草魔の穴』でアヤネが借りて装備していたオリハルコンの鎧の返却をしにソリウス城に訪れた時だった。
縁談の返事は『まだこの世界に慣れてもいない中、誰かと婚儀を結ぶ事は考えられない』というアヤネの主張を素直に伝えた。
陛下や宰相様に申し訳なかったのでアヤネの神力で『無彊複製』でこの国に唯一存在していたオリハルコンの鎧をメルフェスの王国特級騎士団員分の20領ほど複製してお返したら、宰相様は目玉が飛び出るくらい驚いていた。
アヤネにかかると伝説級の素材オリハルコンの価値すらペラッペラになる。
アヤネの神力を国や商業ギルドで管理したくなるのも当然か。
「じゃからな。この国の魔導士も数人ほど魔法大国へ同行させてやって欲しいのじゃ」
白髪白髭ながらまだまだ矍鑠としているグラウス様に頼まれてしまった。
「それでその同行する人は誰になりそうなんですか?」
「それが……皆行きたい行きたいと云っていてのぅ……中々決まらんのじゃ」
「皆って例えば?」
「王宮魔導士は全員じゃな。純粋な魔法勝負だと負けるのが解っている者は『殴り合いで決めるべきだ』なんて云いだす始末じゃ」
「もう魔法関係ない!?」
「済まぬが魔法大国への出立はもう少し待っといてくれ……」
そんな感じで今は俺の故郷であるレジル村に久々に戻ってきていた。
創作した魔導車・魔導二輪車を実用する為の道を土魔法で整備していた。
レジル村と隣街の街道の整備は一晩かかった。爽やかな朝が訪れたのに瞼が重い。
「これなら魔導車も安全に乗れそうな立派な道になりましたね」
「はい♪道に真ん中に岩の仕切りまであってこれなら正面衝突の心配もありませんね」
迎賓館から朝、転移魔術でこっちに来てもらった姫様とアヤネが俺が一晩かけて創った新しい道を眺めていた。
新しい街道での魔導車の試運転はアヤネと姫様に任せる事にして俺は魔導車工房の自室のベッドで床に就く事にした。
目を覚まし工房の2階の窓から新しい道を覗くと魔導二輪車を乗りこなすレジル村の人達で溢れていた。
レジル村の人達は俺達が『草魔の穴』を攻略している間に、自分達でこの村の魔導二輪車に関する独自の規律を練り上げていたようだった。
レジル村の村長から村の皆で考えた規律の草案を記した羊皮紙を見せられた。
この村を魔導車の村にして盛り上げたいという想いは村の人達も共感してくれたようだ。
この熱意があるなら魔導車の大量複製を始めても大丈夫かもしれない。
「この村を魔導車の『教習所』にしたらどうですか?」
アヤネが主張したのはこの村に訪れた人に魔導車の操縦技能をこの村の人々が教えて合格基準を認められた人に魔導車を安価で売り渡すという仕組みだった。
勿論、数日間の指導を受ける間は村の宿に宿泊してその適正な代金をきちんと払ってもらう。
そう云う形で行商人や観光客、そしてお金をこの村へ呼び込むのだと云う。
彼女の世界でもそういった『有料合宿旅行』が存在してるらしい。
いずれこの国の魔導車道の整備が完了すれば、このレジル村はあくまで国に何ヵ所か存在する『教習所』の一つになるだろうとアヤネに云われたがそれで十分だと思った。
国内有数の名地に俺の故郷がなるだけで親父が生涯かけて愛し抜き、妹のエウレルとその子供レウズが今も暮らすこの寒村が続いてく上ではそれで十分だ。そして―――
「素晴らしい建物が完成しましたね♪」
「ああ」
「これが『ホテル魔導車』かぁ。人がこの村に沢山訪れるといいですね」
俺の初級建築魔術だとこの4階建ての紅煉瓦造りの宿泊施設が精いっぱいだが、まずはこのくらいが丁度いいんだろうと思う。
迎賓館のふかふか天蓋ベッドをどんだけ複製したか。旅人が心地よく眠れる施設ではある筈だ。
ただ未来が視える姫様は「この宿泊施設、ちゃんと正しく使われるといいですが……」とどこか不安げだった。
とりあえず『ホテル魔導車』の運営は村の人達に全面的に任せた。
それに魔導車の操縦訓練場や数百台の魔導車が収まる土地も確保した。
そのあと、魔導車もアヤネの神力で数百台ほど複製した。
ただ、魔導車の文化・規律が完全にメルフェス中に浸透するまでは『高速』の起動装置は使用できない状態の魔導車を大量複製した。
規律には『高速回転の起動装置は周囲に人や動物などの対象物が確認できないのみ使用可能』の条項が存在してはいるがまだまだ不安だからだ。
魔導車に乗った人達が事故を起こさない事が最優先だ。
この村の為に今の俺が出来る事は十分できたと思う。
金色髪のエルフの姫様は満足げな俺の顔を見ながら、優しく云った。
「それでは今度こそ行きましょうか。魔法大国イルジョニアスへ♪」




