37.紫蝕不死鳥《イロウシェンフェニックス》
『召喚!≪紫煙不死鳥≫!!!!』
魔晶核獲得の為のダンジョン『草魔の穴』攻略も漸く最後敵が待ち構えている30階層の大部屋まで辿り着いた。
30階層の最後敵は無慮数百もの魔物が無理やり何重にも繋ぎ合わされていた醜形の巨大合成獣だった。
どこが顔なのか嘴なのか眼なのか判別できない、もしくは判別できる全てが顔であり眼なのかしれない、そんな悍ましい合成獣に対してまたも姫様の導きが俺に告げられた。
新たな古代魔術でこの合成獣を屠れというモノだった。
サリー姫やアヤネによれば俺の魔力総量が暴走寸前だったこの『草魔の穴』攻略により伸びたので新たな古代魔術を駆使できると云われた。
魔色紙に魔力を込め、古代文字の詠唱により展開された紫の魔法陣から顕現したのは紫の霞を纏った不死鳥だった。
静謐に燃ゆる紫の不死鳥がどこから発せられているのかも解らない金切り声を響かせる巨大合成獣に直進し、
不死鳥はその巨体に溶け込んでいった。
合成獣の中に溶け込むというより幾重にも重なっている硬質の外皮を不死鳥の紫の霞が溶かしているのだ。
巨大な合成獣の体内を翔け溶かす紫煙不死鳥。
不死鳥により爛れて風穴が目立つようになった合成獣を構成している魔物達の鬼哭の断末魔が木霊する。
「うわぁ……エグい」「こんなの喰らったら終いだにゃ……」「心の傷になりそうぴょ」
俺の新たな古代魔術にドン引きしているライジや猫耳兎耳メネ&ライ。
紫煙不死鳥がその炎翼を羽ばたかせるのを止める頃にはそこにはなにやら正体不明の水溜まりを残した地面があるだけだった。
俺もこんな古代魔術が駆使できるようになるとは思わなかった。自分でも引いてる。
「流石ケントさん!【勇者】パーティーの魔導士だっただけはあります♪」
「どうして俺の魔力総量はこんなに伸びたんだろう?……」
「それはケントさんが長い間、【勇者】パーティーで闘った莫大な習熟値を活かす魔導士としての修練の場が無かったからだと思います」
金色髪のエルフの姫様が俺に対してにっこりと微笑む。
たしかに【勇者】パーティーの一員として本格的に魔族に狙われ始めいつ奇襲・強襲を受けるか解らない日常に突入してからは、安易に魔法を使い、魔力を減らす事は出来なくなっていた。
俺もダンジョンに潜りLv.だけが勝手に伸びていったアヤネ同様、Lv.という数値だけ上がっていてその実、強さが伴っていない状態だったのか。
アヤネの育成だけでなく俺もこの『草魔の穴』で姫様によって修行させられていたとは。
「……俺にもまだ伸びしろがあったんですね」
「はい♪まだまだ全然イケますよ!」
「やっと終わった。これでお家に帰れる……」
アヤネはダンジョンの魔物退治が終わった事に安堵していた。
初めてダンジョンでアヤネは瞠目する程、成長してしまった。
今ならもう仮に暗殺者に襲われても独力で撃退できるだろう。
「最後に魔晶核を確保しないといけません。それが終わるまでは気を抜いてはいけませんよアヤネさん♪」
「……お家に帰るまでがダンジョン攻略なんですね」
アヤネは妙な言い回しをしていた。
***
「ここが魔晶核部屋か」
30階層の大部屋を突破したすぐ傍にその部屋は存在していた。
今思えば『素直』なダンジョンで助かった。たしかに魔物の数は尋常じゃなかったが、例えば魔族がダンジョンを根城していた場合ならもっと悪辣で致命的な罠や、状態異常域、魔封結界域が用意されもっと攻略が困難だった筈だ。
魔晶核部屋に入るとソレがあった。
禍々しい膨大な漆黒の瘴気を滾らせている人間の身長の程の黒結晶が存在していた。
人族が触れたら即座にその漆黒の瘴気に取り込まれ、絶命するか魔族に変容しそうだ。
「そう云えばこれどうやって触るんですか?」
「女神様の【加護】を持つアヤネさんに確保して貰います♪」
「私ですか!!??」
「はい。アヤネの『光球神壁』でしたら魔晶核の瘴気を祓う事が出来る筈です。魔晶核に手を伸ばしてもらえますか?他の皆さんは離れて下さい♪」
「ちょっ!私一人にしないで下さいよ~」
皆、避難する様子を見て涙目になるアヤネ。
不承不承と云った様子で瘴気を滾らせる魔晶核へ手を伸ばす。
アヤネの手が魔晶核の瘴気に覆われそうになった時、眩い光の壁が顕現し、バチバチッと強烈に弾き合う音が連綿と続いた。
神聖な光に強く抗うも魔晶核を纏う漆黒の瘴気は徐々に浄化されていった。
暗い洞窟の部屋に残ったのは黒光りする結晶体だった。
「これで普通の人が触っても実害は無い筈です♪」
「この魔晶核、どうやって持ち帰るんですか?かなり大きいですけど」
「魔石同様、アヤネさんの【収納】スキルの亜空間に収めてしまいましょう♪」
「魔晶核を確保したのは良かったですけどどうやって魔導砲なんて圧倒的魔導具を創るんですか?」
「さあ?私も詳しくは知らないです」
「さあって……」
ここでそんな可愛く惚けられても……
「ケントさんの伝手で魔導砲の創り方を探し出せませんか?」
もう無茶振りどころか丸投げじゃない?
「と、兎に角、魔晶核の魔力が消えていつダンジョンが崩壊するか解らないし、とっとと撤退しましょう」
かくして俺達のダンジョン攻略は無事終了した。今回攻略に参加したメンバーは皆、確実に強くなった。
そして魔晶核を失ったダンジョンの『草魔の穴』は消失する事になった。
***
王都の城下町にある迎賓館に戻ってくるとそこにいたのはこの国メルフェスの宰相であるグラウス様だった。
白髪白髭で高貴な礼服を着ている宰相様に何故迎賓館を訪れたのか尋ねた。
「それがじゃな……アヤネ様にこれを渡しに来たのじゃ……」
「え?私ですか?」
グラウス様が差し出したのは王族が扱う封蝋が施された手紙だった。
「我がメルフェス国王陛下ブルスケッタ様がアヤネ殿を妃殿下に迎えたいと仰っているのだ」
「ブルスケッタ陛下ってあの居酒屋風の男の子ですよね?」
『イザカヤ』風って言わないで!




