36.追放魔導士、新たな古代魔術に挑む
「あの巨人ってやっぱり首の裏側が弱点なんですかね?」
【エルフ姫】の導きによりダンジョン『草魔の穴』の魔晶核獲得を目指して現在は26階層まで辿り着いた。
この階層からは遂に巨人種の登場だ。地上に出てくれば滅災級とも云われる隻眼巨人の姿も見られ始めた。
いよいよこの『草魔の穴』攻略も佳境に近づいて来たようだ。
習熟値を稼いで更なる特殊能力を得たアヤネはなにやら巨人種には思い入れがあるようだ。
「アヤネの世界にも巨人がいるのか?」
「い、いえ空想上の物語は超有名だったってだけです。それにしてもあんなに大きいのどうやって倒すんですか?」
俺達からはかなり距離がある所に鈍色の肌の隻眼巨人が彷徨っているが遠方からでもその大きさ、存在感は脅威を与える。
「ゴーレムにしろ巨人関係は膝元から狙って崩していくのが定石だな」
「その役割はアタシ達に任せろにゃ」「ケントは援護頼むぴょ!」
猫耳兎耳コンビ、メネ&ライは緑に輝く斧槍・大剣を既に構え、隻眼巨人の攪乱役に名乗りを挙げる。
「あ。できたら私もその緑色の大剣、貰えませんか?複製するんで」
「「え?」」
目を白黒させる2人の獣人娘。アヤネが緑輝の武器に興味を示した。
たしかに攻略を重ね、より強く外皮も硬くなっていく魔物達に対してミスリル製の魔法剣をもってしても中々致命の一撃を与え辛くなっていた事をアヤネも痛感してたようだ。
「別にいいけどアヤネはこの緑輝大剣を使いこなせるぴょ?」
「分からないですけど挑戦してみたいんです」
「解ったぴょ。複製すればいい。獣人国で採れる緑輝石で創られたこの大剣は破壊力抜群ぴょ」
「あ……俺も挑戦させてください!」
ライジも新しい武器が手に入れるチャンスを逃さない。
結局アヤネは2本の緑輝大剣を複製した。
「その大剣、重くないか?」
俺がアヤネに尋ねた。
「いえ。思ってるよりは軽いです。これなら扱えそう」
「当たり前にゃ。緑輝石は軽くても硬く攻撃力を最大値まで高められる獣人国自慢の武器素材なんだから」
闘身化で狙った雄を必ず捕まえる蠱惑的な雌の雰囲気を醸しだしている猫耳族のメネがその胸を大きく張って自慢げにしている。
「緑輝石か。一度訪れた事はあるけどまた行ってみたいな。獣人国」
「獣人国に行けばモフり放題!?私も行きたいです!」
「だったら獣人国のお勧め行楽地、後で教えてあげるにゃ」
「ふふっ。機会があれば皆さんで訪れましょうか♪あ。巨人さん私達の存在に気付いたみたいですよ」
ほのぼの和気藹々と獣人国話をしてたらかなりの数の隻眼巨人がこっちに迫ってきているようだ。
「じゃあまずは私が隻眼巨人さんの眼を射抜きますね♪『必中矢≪穿光≫』」
まず姫様が遠距離から隻眼巨人達に向けて光の魔法矢を放つ。
見事に巨人達の隻眼に命中させる。視界を失った巨人達は半狂乱となり神殿の柱と見紛うような巨大な棍棒を乱雑に振り回す。
次は俺が重力魔法陣を展開して巨人達の動きを封じる。
『≪悪滅重力層・極≫』
上位鬼人達の時よりも更に広範囲の加重力の網を巡らせた。
「……グググアアガガアアアア」
滅災級だけあって、巨人達の動きは鈍ってはいるが、その巨躯を動かせている。
「ケントさん魔力ポーションのおかわりです。どうぞどうぞ♪」
ずっと飲み続けているからか、今はもうこの上級ポーションを2本を飲んでも魔力が全回復しない。
一度に3本飲まないといけなくなってしまった……
「アタシ達が隻眼巨人の下半身を崩すからその後、頭部をお願いにゃ」「ぴょ!」
メネ&ライが緑輝の武器を構えたまま、巨人達に向かっていった。
「……私も挑戦してもいいですか?」
新しい武器を装備したアヤネが緑輝大剣をその両細腕で支えながら巨人に挑んでみたいらしい。
「手負いで動きも阻まれてるとはいえ、相手は滅災級の巨人だ。絶対に気に緩ませるなよ」
「分かってます。『瞬時飛脚』―――」
俺の眼前にいた筈のアヤネの姿が消える。
瞬く間にその隻眼を姫様の矢に潰され、やや前傾姿勢で呻いてる巨人の後ろにまで回り込んでいる。
そしてなんと巨人を蹴り上げながらその巨躯を駆け昇り始めた。なにあれ?
「えいやあああぁあああぁあ!」
巨人の後頭部まで駆け上ったアヤネは豪快に緑輝大剣を振り上げ一閃した。
頭部に致命の一撃を喰らった巨人は力なく鈍い音と共に頽れた。
「やりましたぁ!!」
着地も華麗に決めたアヤネは誇らしげだった。
「あんなのアタシ達でも無理だにゃ」「ぴょ……」「……(唖然)」
戦闘は嫌だって言ってた女の子が遂に隻眼巨人まで倒しちゃったよ。
姫様の弓、俺の魔法、アヤネの緑輝大剣。実質3人で滅災級の巨人を屠れるようになってしまった。
巨人をも倒せるようになった俺達の障害になる魔物はもう存在しなくなっていた。
29階層には淫魔が誘惑してきたが、姫様やアヤネが居たので事無きを得た。
男だけのパーティーだったら巨人と闘って消耗した後の淫魔の誘惑に負けていたんだろう。29階層は肩透かしで終わった。
いよいよ30階層だ。
アヤネの【地図】スキルでもこの先の大部屋の最後敵を倒せば、魔晶核に辿り着けるようだ。
「じゃあ最後敵と闘おうか」
「「はい!」」「にゃ」「ぴょ」
「ケントさん宜しいですか?」
最後の闘いに向かう俺達を姫様が静止する。……またなにか無茶振られるのだろうか?
「な、なんですか姫様?」
滑らかな金色髪が美しい姫様がにっこりと俺に向かって微笑む。
「やはり最後の闘いはケントさんの古代魔術で派手に〆たいと思いませんか?」
「いいですね!師匠の大魔術見たいです!」「わ、私も」「にゃ」「ぴょ」
姫様の提案に仲間達が盛り上がっている。
「≪有翼一角氷獣≫で闘えって事ですか?」
「いえ。別のヤツです」
別の……俺の魔力量で他の古代魔術を再現できるだろうか?
「他のだと俺の魔力総量じゃ足りないと思います」
「今のケントさんでしたら大丈夫ですよ。あれだけ魔力を枯渇させては魔力ポーションを限界まで飲んでらしたじゃないですか♪魔力総量も以前より伸びている筈です」
この魔力ポーション一気飲みにも意味があったのか。
それだけで魔力総量が本当に伸びてるとは俄かに信じ難かった。
「確かにケントさんのマジックポイント、1700くらいだったのが2500くらいに伸びてます!」
アヤネの異世界千里眼のお墨付きらしい。
たしかに魔力枯渇から魔力総量が伸びる事があると魔法技術学院でも一聞した事はあるけどそんなに伸びる?
「……解りました。挑戦してみます」
「このダンジョンの最後敵ですし大部屋に入ったらすぐ古代魔術を発動させて下さいね♪」
「了解です。じゃあ入るぞ」
魔法衣の内側に潜ませていた古代魔術の魔法陣を記してある魔色紙に魔力を込めておく。
30階層の大部屋の入り口である特大の岩扉が重低音を響かせながら開き始める。
開き始めた瞬間から古代文字で古代魔術の詠唱を始める。
俺達の目の前に現れたのは様々な魔物が乱雑に繋ぎ合わされただけの醜形をした合成獣だった。
耳を劈く大音量の奇声に怯む事なく詠唱に集中する。
「बुलाने! «बैंगनी क्षय फीनिक्स..............」
『召喚!≪紫蝕不死鳥≫!!!!』




