32.ポーションは複製しすぎない方がいいかもしれない
「こんなダンジョンさっさと攻略だ!『爆砕魔』」
俺達魔導具工房メンバーは魔晶核を獲得する為、ダンジョン『草魔の穴』を攻略中だ。
8階層で遭遇した『グレイトゴブリンショーマン』と『グレイトゴブリンアクトレス』のその素晴らしい歌声、演技力にすっかり騙されてしまった俺達は怒り心頭に欲していた。
今までは後衛で仲間達の支援に回っていた俺だが、前衛に出て行く手を阻む魔物達相手に攻撃魔法を連発しまくった。
9階層は瞬く間に踏破した。10階層の大部屋にいたバジリスクも俺の魔法で一発だった。
【勇者】パーティーの魔導士として長く闘って来た俺の魔法が10階層の難敵崩れに後れを取る訳はなかった。
11階層以降も異世界少女アヤネの【地図スキル】を頼りに俺の攻撃魔法で猪突猛進した。
「これが師匠の本気……」「師匠師匠凄い……」「流石ケント様です」
「凄い……」「ケントさん頑張って下さ~い♪」
より下の階層に進み度に魔物達の実力も上がっていき、ライジやアヤネも俺が魔法剣に付与しておいた上級の攻撃魔法を駆使するようになった。
俺自身も攻撃魔法の威力を上げていかねばならず魔物を倒す度に魔力の消費量も逓増していった。
「はい!ケントさん魔力ポーションです♪」
「姫様ありがとう」
姫様が差し出した魔力ポーションは澄んだ青色の液体だった。
味は苦みがある訳でも旨味がある訳でもないが飲み易い液体だった。
王国が用意した上級ポーションだけあって魔力の回復量も中々だった。
予備の魔力ポーションもアヤネが『無彊複製』の神力で十分用意していた。
予備はアヤネが新たなに習得した【収納】スキルによって別空間に保管しているらしい。
「ケントさん魔法剣の魔法が発動しなくなりました」「師匠俺もです」
「解った。魔力ポーションを飲んでから攻撃魔法を付与補填しよう」
以降も攻略自体は順調でライジやアヤネ、ライラやアルーさんも習熟値を伸ばしてLv.も上昇させていった。
アヤネには負けられないとライジのLv.が一番高くなった。更に階層攻略は進む。
「ケントさん新しい魔力ポーションです♪」
「ありがとう」
「ケントさん今度は一気に2つ飲みましょう♪」
「解った」
あれ?
「ケントさんグググイっと飲んじゃいましょう。気合いです!」
「こ、これ以上は……」
腹が徐々に膨らみ始めタプタプして苦しくなってきた。
何故か頭まで痛くなって来ている。
「師匠!頑張ってください。俺達も頑張りますから!」
「師匠一気一気……」
「ケント様の負担を減らす為に頑張らないと」
「わ、私も魔法剣で頑張ります!」
皆、俺の事を気遣い、闘う者としてのこれまでの研鑽の成果を信じ自身の限界に挑戦する中、俺は腹の限界に挑戦していた。
これがパーティー解散の一因に陥り易い『パーティー間格差』か。いや違うな。
アヤネの神力により魔力ポーションを無限に用意できる事で資源不足に陥らず本日のダンジョン撤退の時機を逸してしまっている。
皆が頑張っているのだから俺も魔力の枯渇による失神寸前ギリギリまでポーションを飲まなくて済むように粘りながら魔法で奮闘し、気絶する直前に再びポーション一気飲みに苦渋した。
腹が破裂しそうなど程、膨れている状態で漸く20階層の大部屋まで辿り着いた。
20階層の大部屋に居たのは三頭岩犬だった。
上級の攻撃魔法数発を叩きこめば問題なかった。哀しきかなダンジョン攻略続行。
21階層以降は上級の魔物だけでなく地上では滅多に見られない特級の魔物も僅かばかりだが、姿を見せ始めた。
特級と云ってもまだ更にその上に厄災級や破滅級も存在するのだが。
皆頑張っているが、凶悪な魔物達に対して自身の渾身の攻めが通用しなくなって来ている。
このパーティーメンバーでの攻略は厳しくなってきてしまったかもしれない。これ以上は皆の命の危険に関わる。
俺も今日はもう撤退しないとポーションの飲み過ぎで落命した魔導士として後世に名を遺しそうだった。
「今日は此処までで撤退しませんか?」
「そうですね。ケントさんも御身体の限界が近いようですし」
「ずっと頭が痛くて……何度も枯渇ギリギリまで粘ったからか?」
「ケントさんそれ水中毒で危険です!」
アヤネが俺の事の心配している。水中毒と云う言葉は初めて聞いた。
ポーションも大量摂取すると危険らしい。
「クソッ!俺がもっと強ければ師匠の腹がこんなだらしない腹にならず済んだのに……」
「心配してくれて嬉しいけど女性陣の前で酷い腹って強調しないで」
「ケント様のその膨らんだお腹は勲章です」
「私もケントさんのぷっくりしたお腹、妊婦さんみたいで好きですよ♪」
「が、頑張って仕事した人のお腹って素敵だと思います」
「無理矢理フォローしてくれてるのが恥ずかしくて堪らない」
肚に一撃喰らえば全て吐き出しそうだ。本日の攻略は終了する事にした。
ダンジョン『草魔の穴』から脱出した。そろそろ新しい助っ人を誰かに頼まないと厳しいかもしれない。
***
王都の迎賓館に転移魔術で帰還した俺達を待っている人物がいた。
「久しぶりだなぁケント。ん?なんかお前腹出過ぎてないか?」
「アヤネに姫様、久しぶりね。ん」
王都冒険者ギルドのマスターである祖国メルフェスの【英雄】ダグラスタ・オルスと蒼みがかった白髪のショートカットに白皙の肌の豊かな胸下に真下にある青薔薇の刺青が蠱惑的な商業ギルドの女性マスター、もう一人の英雄、【氷艶戒女】マリリノ・オルスだった。




