30.異世界召喚者とは張り合えない?
久々の更新となってしまい申し訳すみません。
全く想像してなかった事があって右往左往してました。
「流石にもうアヤネ様の≪神壁≫を警戒して魔物達も襲い掛かって来ませんね」
【エルフ姫】の無茶振りによりダンジョンの魔晶核を獲得する事になった俺達魔導具工房メンバーはダンジョン『草魔の穴』を攻略中だ。
『草魔の穴』は暴走寸前で洞窟内を埋め尽くさんばかりの魔物で溢れる中、3階層に居た俺達は大量のオークと魔狼の挟撃に遭ってしまう。
異世界から召喚された少女アヤネが危難に陥ったがこの世界を司ると謳われている女神の【加護】により『光球神壁』が展開され窮地を乗り切り、死霊系の魔物が跋扈していた4,5階層は『光球神壁』の威光で悠に踏破した。
6階層辺りから、アヤネや俺達を守護する神光の壁に対して魔物達も濫りに突っ込んで消滅する事もなくなってきた。
初級クラスの魔物達と異なり、魔物も中級、上級ともなると知恵が働くのか、本来持ち合わせている戦闘本能からか、この光の壁が危険であると認識できるようだ。
当面の危機は脱したと判断したかの如くアヤネの≪神壁≫は消失してしまった。
「ああ……光の壁なくなっちゃった」
アヤネは消失して光の壁を名残惜しそうにしていた。
正直俺は安堵した。神壁が展開されてからは歩いているだけでダンジョンを踏破できたとか、苛烈な修行を課し、己の身体を痛めつけてまで研鑽している冒険者や祖国を守る者達が聞いたら失意に打ちひしがれそうだったから。
「また役立たずになっちゃいますね私……」
「何を言ってる。アヤネのお蔭で皆戦闘の緊張感から解放され暫く休む事が出来た。4,5階層踏破はアヤネのお蔭だ」
『光球神壁』のお蔭で俺達パーティー全員、十分な休息が取れた。
特に死霊系の階層は冒険者の精神を苛み易い。明らかに冒険者然としたゾンビまで存在するからだ。
このダンジョンで力尽きた冒険者達の魂も女神様の神光によって安息の魂域へと浄化された筈だ。
「それにまたLv.とやらも大幅に上がって、新たな特殊能力も習得したんだろ?」
「はい!今度は『万物収納』っていう【収納】スキルみたいです!それと前より更に力が漲る感覚です!」
食物や薬草、武器を亜空間に保管する事が出来る空間魔術と同等の効果がある特殊能力のようだ。
やはり希望の職業【商人】から派生している特殊能力のようだ。
自身の身体の変化を実際に魔物退治して確かめてみたいようだったので、初心の者には難しかった弓は止め、ライジが佩いている魔法剣をアヤネの神力で複製させた。
ライジの魔法剣には俺の上級攻撃魔法も付与されているので、アヤネも十分戦えるだろう。
「ま、負けませんよ!アヤネさん!」
「へ?」
「兄さま頑張って頑張って……」
「不肖ながら私も御二人と切磋琢磨させて頂きたいです」
「皆さんどんどんLv.上げちゃいましょう♪」
埒外の成長を見せ、Lv.という数値上ではアヤネに並ばれてしまったライジにも意地があるようだ。
兄を溺愛している妹も兄がこれから己の誇り、王国騎士?の矜持を賭けて闘うとしているのを理解している様だった。
「『紫電一突』!」
妹が離れ、剣を自在に操れるライジは中々に強かった。
この階層に棲息していたリザードマン程度の魔物なら一振りで十分だった。
アヤネもライジの剣戟を見様見真似で実践しようとはしているが同じくリザードマン相手に簡単にはいかないようだ。
リザードマンが乱雑に振り回す斧槍に苦戦し、距離を取らざるを得ない様子だ。ただその身のこなしは軽やかだった。
「魔法剣の魔法は使わないのか?」
「今は自分の実力を知りたいんです!」
「だったら俺も使いませんよ!」
俺が尋ねるとアヤネはそう返す。ライジも裂帛の気合いを見せる。
ライジやアヤネにとっては丁度良い研鑽の機会になっていた。
暴走寸前のダンジョンに飛び込むなんて正気の沙汰では無いが、修行の場と一考するならこれ以上の環境は無いかもしれない。
自分が倒せる魔物の数に困らないのが大きい。勿論、火急の事態に対応できる実力者が同行してるという大前提が必須だが。
普通に冒険者として生きていれば、自分の実力より少し劣る丁度良い魔物なんて現れてなどくれない。
自分より強い魔物と遭遇すれば、あっさり落命する事もあるのが冒険者の常だ。
命からがらでも逃げられれば幸運、そんな幸運も幾度も続く筈がないのは言わずもがな。
だからといって弱い魔物に圧勝した所で大して強くもならない。
このダンジョンの攻略を終えた頃にはライジもアヤネもライラもアルーさんも飛躍的に成長するかも。
6階層ではライジが習熟値を荒稼ぎしてアヤネを再び引き離した。俺達は7階層への階段を下った。
「ここダンジョンですか?地上の草原みたい……」
7階層の階段を下り終えた先には緑の草が辺り一面生い茂る、『草魔の穴』に潜る直前に見た地上の景色となんら変わらない草原だった。
僅かに風の流れも頬に感じる。周囲も明るくランタンを灯し続ける必要もない。
「地下の洞窟の中なのにどうして明るいの?それにこの景色……」
「これはダンジョンの魔晶核が取り込んだ、今は亡き冒険者達の記憶の風景らしい」
「冒険者の記憶?」
ダンジョンに潜れば志半ばで倒れる冒険者も多くいる。
命尽きた冒険者はダンジョンに飲み込まれゾンビ等に変貌させられる事も多々ある。
そういった人達の記憶の断片をも魔晶核は飲み込み、こういった景色を創造すると世界的に著名な博学士は主張している。
「それにしても静かだな」
今まであれだけいた魔物の姿も見えない。
「アヤネ魔物はいないか【地図】スキルで確かめてくれ」
「はい。あっ沢山います。ゴブリンのなんか強くなってそうなのが。草叢に隠れてますね」
ゴブリンの強そうなの?恐らくゴブリンモンク、ゴブリンメイジ、ゴブリンナイトあたりか。
腰から胸くらいまでの長さしかないこの草叢ではそのクラスが関の山だろう。
それにしても場数を踏んだゴブリンは昇階するから厄介だ。ロードやエンペラー、ジェネラルまで存在する。
訳分からんのはゴブリンが何をどうしたら魔法を使えるようになるのかだ。
もっと訳分からないのは人間の衣服を蒐集したがり着飾りたがる、『ゴブリンモデル』なんて異種も存在する。
ゴブリンがいくら着飾ってもゴブリンだから。魅了されたりとかしないし。
「皆、アヤネの展開地図で魔物の位置をしっかり確認してくれ」
「はい!」「了解了解……」「小賢しい魔物達ですね掃除しないと」
「小鬼さんの方がかくれんぼなんて珍しいですね♪」
俺も経験あるけど何処に隠れているかバレてるのって恥ずかしいだよなぁ……
「ギイィ!!ギ??」
「逝きなさい」「ゴバァ!!!」
アルーさんがミスリルの箒で出現した中級ゴブリン達を土竜のように叩き潰している。
奇襲がバレバレだったのを自覚したゴブリン達はその刹那、顔を真っ赤にして屠られていった。
奇襲しようとするのが悪い。魔法を扱うゴブリンメイジだけは要注意で姫様が弓で長距離射撃で倒した。
7階層も踏破した。次は8階層。
「なんだ?ここは?劇場?」
階段を降り切ると、岩や土や樹で創られた大衆劇場のような場所が存在した。
いつぞや観覧した王都の演劇舞台を思い出した。
「これも魔晶核が飲み込んだ冒険者の記憶の断片から形成された場所なんでしょうか?」
「多分そうなんだろうな……」
「どうやら何か始めるみたいですよ♪蔦の緞帳が開いていきます」
姫様が指差す方向に視線を移すとなんと舞台上でゴブリンが芝居を始めた。
「ギョギョギョギョ~」「ギョッギョギィ!」
「なんだアレは?……」
「……私の視えるステータスによるとアレは『グレイトゴブリンショーマン』『グレイトゴブリンアクトレス』という名前の魔物らしいです」
「そんな進化の仕方ある!?」
情報をくれたアヤネも困惑気味だった。
ゴブリン劇場開幕!?




