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29.追放魔導士一行、早くもグダグダ




「えーと3階層は主にオークが棲息しているようです」




 【エルフ姫】の無茶振りによりダンジョンの魔晶核(コア)を獲得する事になった俺達魔導具工房メンバーは夥しい数の魔物が溢れ暴走(スタンピード)寸前だったダンジョン『草魔の穴』を攻略中。

ダンジョン攻略途中、成長を見せたアヤネは『地図戦略』と云う特殊能力(スキル)を獲得した。


 アヤネの【地図】スキルが(もたら)す魔物の情報、階層地図により階層攻略の戦略も立て易くなったので袋小路など逃げ場のない場所で大量の魔物達に追い詰められない様に配慮しながら次の階層への最短経路を邁進する事にした。


 3階層への階段を下れば、アヤネの情報通り苔緑色の巨体をしたオーク達が洞窟内を埋め尽くさんばかりの光景だった。

矮躯だったゴブリン達は波のように蠢いて見えたが、巨体のオーク達は幾重にも張り巡らされた壁のようだった。



「グガァ?」

「「「「「「ガァアァァアア!!!!」」」」」」


 オーク達も魔導具のランタンを灯している俺達の存在に逸早く気づき戦闘が始まる。


「オークは胴体ではなく頭部を攻めろ!!『貫通焔針』」


 俺が翳した掌から鋭く紅い細線の束がオーク達の頭部に向け放たれる。

焔針に頭部を穿たれたオーク達は断末魔を遺す事無く魔石へ姿を変える。


「『裂裂(ザクザク)』」「『風刃斬首』」


 ライラとメイドのアルーさんも風魔法で追撃する。

この階層も順調に進めそうだったが、やはりオークの数が多すぎた。

最短経路を一点突破する予定だったが予定より進行速度が遅い。なにより誤算だったのが…


「どうして姫様はオークを弓で迎撃しないんですか?」

「ケントさんから頂いた魔法矢を使いオーク(お肉)を倒してしまいますと、魔力作用によりせっかくのお肉が魔石が変化してしまい勿体無い気がして……」

「お肉じゃなくてオーク!この討伐進度じゃ囲まれますよ!」

「はぁ。解りました。私もオニーク討伐します」

「好物だからって2つの言葉を混ぜないで!」


 (ようや)く姫様も嘆息しながらではあるが弓に矢を(つが)えてくれた。

でも明らかに未練アリアリだった。2階層の時のように連射してくれない……

それでも階層突破は出来るだろう。そんな時だった。



「ケントさん大変です。後方から凄い勢いで魔物の群れがこっちに向かって来ます!」


「なっ!?そんなに早く?」


 今しがたアヤネの『地図展開(マッピング)』を確認した時には、まだまだ挟撃されるような状況じゃなかったのに何故?


 前方の戦線はライジ&ライラとアルーさんに任せて俺はアヤネの立ち位置(ポジション)まで後退した。

後方を確認するとまだ魔物の姿は見えないがたしかに一気呵成に迫りくるような乱音が耳朶を打つ。


「ワオオォォォ!」「グガァグガァ!!」


「アレは魔狼か!」

「オークが狼に乗ってる……なにあれ?……」


 たかだか3階層で魔物達が連携技を駆使して来るとは思わなかった。

これが暴走(スタンピード)寸前のダンジョンか!アヤネの【地図】スキルに依存し過ぎたのかもしれない。


「きゃあ来ないでっ!」

「アヤネ早まるな!」


 アヤネが慌てて放った魔法矢は無情にも物凄い勢いで迫ってくる魔狼(ワーグ)&オークには当たらず、中途半端な弓撃は魔物達の忿怒(ヘイト)を集めただけだった。

駆ける魔狼(ワーグ)達の標的がアヤネに絞られてしまった。


「『貫通焔針』。姫様も援護頼みます!」

「お任せを♪『必中矢≪氷槍≫』」


 姫様が再び弓で魔法矢の連射を始めた。 

しかしよく見ると魔狼(ワーグ)に命中させてばかりでオーク(お肉)は無事だ。

オーク(お肉)は俺が退治した。近くから恨みがましい視線を感じるが無視無視。

後方からの猛攻も凌げそうだと思った。そんな刹那だった。


「ライラ危ない!」


 ライジのその声に反応してしまった俺は後方の魔狼(ワーグ)&オークから一瞬目線を切ってしまった。

どうやらライラが魔法を連発した後、少し姿勢を崩しただけらしい。



「グガァアアアアアアアア!!」


 俺が魔法による迎撃を緩めてしまった瞬間に一体のオークが跨っていた魔狼(ワーグ)を踏み台にしてアヤネ目掛けて宙を舞う。


「嫌ぁあああああああ!!」


 アヤネは自分に向かって飛びかかってきた苔緑の巨体の怪物に慄き尻餅をついてしまった。

俺の魔法では宙に舞っていたオークを捉えきれず間に合わない。


「アヤネ!!!!!」


 女神様、どうかアヤネに御加護を!そう祈るしかなかった。


 その瞬間にアヤネの周りに球状の光の壁が顕現し、その光の壁に衝突したオークは黒い靄に変わり、一瞬で消滅した。

魔石の存在すら許さない神々しい光がアヤネだけでなく近くに俺や姫様、前方で戦っていたライジ&ライラやアルーさんをも包み込み。

この光の壁が何を意味するのか露にも知らないオーク達は変わらず『光球神壁(ライトスフィア)』に突っ込んで来て魔物の構成要素である瘴気を祓われ消えていく。



「これが伝説の『光球神壁(ライトスフィア)』……凄いっ!すごぉぉい!!」

「アヤネヤネ、凄い……」

「これが女神レミール様の力…その霊験に深く感謝致します」



アヤネはまだ尻餅をついた儘だ。アヤネが腰を抜かしている今この瞬間にもオーク達が偉大な神力の前に次々と消滅していく。



「良かった。助かって……」

「無事で良かったよ」

「アヤネさんご無事で良かったです♪どうにかその偉大な力でお肉だけ残せないでしょうか?」

「ダンジョンで肉は諦めて!」


 姫様のご機嫌斜めが暫く続いたので仕方なく、メイドさんのアルーさんが数匹のオークを肉が残る殺し方で屠り、オークの死体を王都の商業ギルドの解体所へ転送した。

魔石ならともかく魔物の死体を無言で送りつけるのは罪に問われないだろうか?



 ともあれ『光球神壁(ライトスフィア)』が展開されてからのアヤネは無敵となった。

ダンジョン内を闊歩するだけで周囲の魔物達を消滅させていく。


 4,5階層はアンデッドや骸骨兵士、魔魂霊(ゴースト)が大量に幽在していたが神の光により皆容易く浄化されていった。

しかもアヤネは習熟値は荒稼ぎしてLv.も大幅上昇し、瞬く間にライジ&ライラと同じ基準まで到達したらしい。


その事実を知ったライジは膝をついてしまった。


「俺が今まで頑張ってきた研鑽の日々は……」

「ライジ、気持ちは解るぞ……俺もあの神壁を見て【勇者】パーティー諦めた」

「ケント様にはそんな事情があったのですね。たしかにあれが女神様による『掃除』なのですね筆舌に尽くし難いです……」

「私は兄さまとLv.もずっと一緒一緒だから……」


「アヤネさん凄いです。どんどんダンジョンを掃除しちゃって下さい♪」

「えへへ。頑張ります!」



異世界からの召喚者って正直反則過ぎると思った。




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