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27.追放魔導士一行、ダンジョンに挑む





「此処が今回潜るダンジョン『草魔の穴』だ」




 【エルフ姫】の無茶振りによりダンジョンの魔晶核(コア)を獲得する為にいつもの魔導具工房メンバー+姫様専属メイド、アルーさんとダンジョン攻略をする運びになってしまった。


 国が『潰してもいい』ダンジョンとして指定したのが周囲を見渡せば草原しか映らない、近くに村も街も存在しない草原平野のど真ん中に点在するこの『草魔の穴』だった。

街や村の近くに存在するダンジョンにはそこで暮らす人々が生きていく為の手段、必要悪の一面がある。

 というのも狩った魔物の素材や肉・魔石により街や村の経済が循環し、冒険者達も素材や肉・魔石を売る事で生計を立てていけるからだ。

経済を循環させるだけでなく、王都付近のダンジョンには王宮騎士や王宮魔導士達が研鑽を積む為の場として完全に整備(カスタム)されたダンジョンまで存在する。


 近くに街や村も存在せず、冒険者も中々訪れないこの『草魔の穴』は洞窟内で生み出された魔物が増えすぎた結果、洞窟の外へ大量の魔物が溢れ出す、暴走(スタンピード)現象を起こす危険性が高く、冒険者ギルドが有力な冒険者にこの『草魔の穴』の『間引き』を指名依頼する事が多々あるダンジョンだった。


 俺が在籍していた【勇者】パーティーも諸外国へ救世の旅に出立する前にギルドから依頼され、このダンジョンの『間引き』をした事がある。

一度訪れた事があるので転移魔術一発でこのダンジョンの入り口に到着することが出来た。あの王城での会見からダンジョンへ潜る準備を始め、数日が経った。


「本当にこれから洞窟(ダンジョン)に潜るんですね……」


 異世界からやって来たアヤネは初めてのダンジョン攻略に表情が強張っていた。

そんなアヤネが身に纏っているのは神々しい光を放つオリハルコンの鎧だ。


 アヤネに首ったけな若き国王陛下ブルスケッタはこのメルフェスで唯一存在するオリハルコン製の鎧をアヤネに貢ぎ……いや下賜したようだ。


「大丈夫ですアヤネ様。アヤネ様の命は不肖ながら私がこの身を賭して御守り致します」


 そう頭を垂れるのは戦闘もいけるらしいバターブロンド髪に紅いブリムのメイド、アルーさん。


「アヤネヤネ、きっときっと大丈夫」


 双子兄妹の妹ライラも励ましている。


「アヤネさんには女神様の【加護】がありますから大丈夫です。いざとなったらケントさんの転移魔術で退避しましょう。私の傍を離れないで下さいね♪」


「分かりました。頑張ります」


 サリー姫もアヤネを励ます。女性陣からの激励を受けてアヤネもダンジョンに臨む覚悟が出来たようだ。


「じゃあ潜るぞ!」「はい!!」


 裂帛の気合いを見せたのは双子兄妹の兄、ライジだった。

国から借り受けたミスリル製の装備が似合っている。相変わらず兄の背中にぴったりライラがくっついていた。


草を揺らす柔らかな風が吹き続ける中、壮大な草原の真ん中に空く大穴の中へ俺達は侵入した。




「やっぱり洞窟の中って暗いですね……不気味」


洞窟の入り口から光が差し込む部分から更に歩を進めた辺りで急に周りが暗闇の状態に陥った。


アヤネが見えない恐怖を感じ始めているので灯りを焚く事にした。


「じゃあ先頭の俺が魔導具のランタンに火をつけますね」「兄さまは常に私私の光……」「ライラ恥ずかしいから」


灯り役を買って出たのはライジだった。ライラも洞窟内でも普段と変わらずライラだった。

ふと後ろを振り返ると姫様とアヤネがかなり遠く離れた位置にいた。


「どうして姫様そんな遠くにいるんですか!」


声を張り上げないと届かないくらいの距離に2人がいた。


「気を付けてくださいー!」


「えっ?」


「よし、ランタンに火が灯ったぞっと……え?」「ギィ!?」



 ライジが(かざ)した魔導具のランタンの灯りが照らす先に映ったのは暗緑の頭の海だった。暗緑の頭が波を打っている。

洞窟内を隙間を探すのが難しい程の莫大なゴブリンの群れだった。



「ギイイィ!!????」

「ギァ!?」「ギィ!?」「ギゥ!?」「ギェ!?」「ギォ!?」

「「「「「「「「「「「ゴオォォォォォ!!!」」」」」」」」」」


 これがゴブリンの鬨の声なのか。暗緑の波が一斉に俺達に向かって襲い掛かる。


「緊急退避!皆下がれ!!!」


 俺が退きながら号令を発するもライジが経験した事の無い眼前の衝撃の光景に硬直してしまっている。危険だ。


「兄さま兄さまは私が守る……『≪蔦蔦(つたつた)≫』」



 ライラが翳した手から緑色の燐光が顕現し、次の瞬間、洞窟内の地面から植物の太蔦が生え出し格子状の防壁を創った。

大半のゴブリン達は蔦の防壁に行く手を阻まれるが、防壁が完成しきる前にすり抜けて来た、数匹のゴブリンが双子兄妹に襲い掛かる。



「やらせません!『一掃き』」


 メイドのアルーさんが手にしている(ほうき)でゴブリン達を薙ぎ払った。ゴブリン達は魔石に姿を変える。瞬殺だ。

箒で魔物を瞬殺なんて通常なら有り得ないが、箒は箒でもミスリル製の箒だ。


 ダンジョンに潜ると決まってから箒で戦うと云うアルーさんの為に俺が魔法鍛冶技術で謹製したミスリル箒だ。

まさかミスリルの箒を創る日が来るとは思わなかった。


 とにかくライラとアルーさんの二人が予測不能の事態に冷静に対処してくれて助かった。豪胆な女傑達だ。

予測不能……あの人がいてそんな訳ないんだよなぁ。



「どうして教えてくれなかったんですか?このゴブリンの数は尋常じゃないですって!」


 俺は最初から離れていたサリー姫に近づく。


「そうですね。暴走(スタンピード)寸前状態みたいですね」


「要事前報告!」


「事前に聞いていたら大規模な討伐隊を組みますよね?それでは駄目なんです」


 少数精鋭で暴走(スタンピード)寸前のダンジョンに臨む事に大義があるのか?姫様の狙いはいったいなんだ?


「少数精鋭で臨む以上、勿論私も闘います。ケントさんに弓を創って頂きましたし♪アヤネさん事前の打ち合わせ通りお願いしますね」


「はい……」


 ライラの独創魔法(オリジナル)の格子状の蔦の防壁により莫大なゴブリン達の波はこっちに襲い掛かっては来ないが

アヤネは禍々しい暗緑の魔物の波に顔面蒼白状態だ。


「大丈夫か。アヤネ。それにライジも」


「不甲斐ない所を見せてしまい、申し訳ありません……クソッ」


 突然の事態に硬直してしまったライジも平静を取り戻しつつあった。

せめて最初から剣を構える事が出来てたらライジも唯のゴブリンにあそこまで動揺しなかっただろう。


 (ライラ)を背にしながらというのはライジの命が危険だ。無理矢理にでも引き離すべきか?


 ライジは腰に佩いていた魔法剣を鞘から抜いた。

ゴブリン如きに遅れをとった事に王国に仕える身として憤懣やるかたないといった様子だ。


「ライラ……10秒だけでいい。離れろ」「はい兄さま」


 あれ?普通だ。


 スチャとライジが構えた魔法剣の鍔が鳴る。


「喰らえ小鬼ども!『爆裂雷斬』!!」


 ライジが怒声と共に魔法剣を振り下ろすと褐色の閃光が太蔦に行く手阻まれている、暗緑の魔物の波に直撃し、大爆発を起こした。

ゴブリンにぶつける魔法ではなかった。爆発により洞窟内に舞った粉塵が落ち着いた頃には地面に大量の魔石が転がっているだけだった。


「ゴブリンども見たかっ!!」「兄さま兄さまやっぱり素敵……」


ライラが兄から離れたのは本当に束の間だった。安心出来たのも束の間だった。



「なんでこんなにゴブリン多いんですかっ!?キリがない」

「私と兄さまの想い出の数の方が多い……だから勝つ。殲滅殲滅」

「その根拠は良く解りませんが負ける気はしませんね。掃除しなくては」



 倒しても倒しても洞窟の奥から溢れ出て来るゴブリンやヘーゼルウルフ等、初級魔物の波。

それでも前衛組は頼もしかった。後衛の俺や姫様も魔法や弓で応戦する。

アヤネは後衛で魔物たちに挟み撃ちにされないか周囲の警戒をしているだけだった。初めての戦闘だし仕方ない。


 結局今日は1階層の魔物達を殲滅するだけで終わってしまった。

今の暴走(スタンピード)寸前の状況でこのまま2階層へ行くのは危険だと判断したので莫大な量の魔石を王都の冒険者ギルドへ転送魔術で送りつけ俺達も王都の迎賓館に帰還した。


 

 迎賓館で湯浴みをして汗を流し、食事をした後、俺が泊っている部屋をアヤネが尋ねて来た。


「アヤネどうした?」


「今日は全然役に立てなくて御免なさい……」


「気にする事はない。誰だって初めてダンジョンに潜るのは怖いさ」


「それが私はなんかおかしいんです」


「おかしい?」


「やけに体が軽いというか力が漲るというか、妙な気分です」


「それはダンジョンを経験した事で習熟値が向上したかもしれないな。ステータスを確認してみると良い。自分のステータスもいつもの千里眼で解るんだろ?」


「はい。じゃあステータスオープン……嘘?」


アヤネは少し視線を落とし虚空を眺めている。俺には見えない。


「どうした?」


「私のLv.が1から7に上がっています」


レベル?兎に角この1日でアヤネの能力が向上したらしい。これが姫様の狙い?





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