25.エルフ姫、やっぱり無茶振りする
「アヤネ嬢の為!いや祖国の子供達、未来の為に『学校』を設立して見せます!」
俺と【エルフ姫】サリーティス、異世界少女アヤネは俺の祖国のメルフェスの王城、ソリウス城で若き国王陛下ブルスケッタと会見していた。
どうやら陛下は菫色のドレスに濡れ羽色の髪が麗しいアヤネに一目惚れしたようだ。
アヤネが『お願い』したらあっさり子供達の学び舎の設立が決まった。
「誠に有難うございます陛下♪では次の話へ移させて頂きます。此度魔導士ケント様が魔導車の開発に成功したのです」
姫様は次の懸案事項に話題を変えた。
「魔導車だとっ!?」
「はい。そしてその魔導車をアヤネさんの神力により大量に複製する事が可能となりました」
魔導車が容易く複製できるというにわかに信じ難い状況にやはり参列者の喧々諤々さは収まらない。
「い、いったい如何程の魔導車を複製できるのでしょうか?」
若き陛下は恐る恐る姫様に訊いた。
「アヤネさんの神力であれば万に及ぶかもしれません」
「魔導車が1万台!!??」
陛下は思わず玉座から跳ねとびそうになるのを堪えた。
「ですがそれだけの数の魔導車を貴国で普及させるには街道の改装や魔導車に関する規律を作成しそれを国民の皆さんに広く周知させなくてはなりません。陛下の御力添えが必要なのです」
「街道の改装……公共工事が必要という事ですね。工事に関しては国家予算も有限ですし財務大臣とも綿密に話し合わないといけません。それと規律の布教ですか。どうするべきか?……」
街道の改装には土木に長けた人材もそれを雇い入れるだけの資金も必要だ。簡単に決まる話ではないのは当然か。
「アヤネさん、陛下に再び『お願い』して頂けますか?」
「わ、分かりました」
アヤネは菫色のドレスを気遣いながら装飾椅子から立ち上がった。
「陛下様、私が複製した魔導車が多くの人に広まり、この国の人達の暮らしが豊かになったら私とても嬉し――――」
「はい喜んで承りましょう!!このメルフェスを魔導車が席捲する国に変えて見せます!!アヤネ嬢の為、いやこの国の民の暮らしの為に!!」
今この瞬間、メルフェス全土の公共工事が陛下の鶴の一声で決定した。
陛下の傍に居られる宰相様の顔が引き攣っていた。
何度も陛下に『お願い』しているウチにアヤネが俺が跪いている位置まで近づいてきていた。
そんなアヤネが俺に耳打ちをする。
「陛下、なんか居酒屋の店員さんみたいなんですけど大丈夫なんですか?」
彼女の云う『イザカヤ』が街酒場の意味合いである事は俺でも理解できた。
「ブルスケッタ陛下はまだ最近戴冠されたばかりで16歳と若いんだ。アヤネと同じ歳だろう。寛大な目で見てあげて欲しい……」
頼むから本人に対して『イザカヤ』っぽいとか云わないで欲しい。
さておき今回の会見で陳情したかった事は話し終えた。アヤネの活躍で問題を解消できそうだ。
宰相様を始め、仕官している役人・官僚の皆は今度大変だろうけど頑張って。
「陛下、もう一つ宜しいでしょうか?」
「な、なんですか?サリーティス様?」
ん?
「そうですね。もし貴国の王城を大量の魔物達が強襲してきた場合、その群れを殲滅できるような『魔導砲』が欲しいとお思いにはなりませんか?」
「ま、『魔導砲』ですか!?」
突然の【エルフ姫】の申し出に吃驚するブルスケッタ。
……なにそれ、『魔導砲』とか俺も全く聞いてないんですけど。急に背筋に悪寒が走る。
「た、たしかに魔物達を一網打尽にするような圧倒的魔導具が存在すれば王城を守護する者たちの命も守る事出来るので垂涎ものではありますが……」
「ではケント様に『魔導砲』を創作して頂きましょう♪」
「『魔導砲』の創作だとっ⁉︎」
この発言には俺も驚嘆した。
たしかに【勇者】パーティーの一員として魔族の手勢である大量の魔物の群れに囲まれた時なんかに一斉殲滅が可能な『魔導砲』みたいな武器があればと何度も思ったけどさ。
「『魔導砲』というのはそんな容易く作成できるモノなのでしょうか?」
陛下が姫様に尋ねる。圧倒的魔導具がそんな簡単に創れる訳がない。
最低でも龍の魔石が必要だ。俺単独で龍退治をしないといけないの?絶対死ぬ……
「そうですね。『魔導砲』ともなると洞窟の魔晶核が必要になるかもしれないですね♪」
「「「洞窟の魔晶核!!??」」」
魔晶核とは夥しい数の魔物を生み出すダンジョンを形成する為の動力源と目されている、禍々しい瘴気を滾らせた水晶体の事だ。
【勇者】パーティーの一員として何度もそのダンジョン内の最強敵を打ち破った経験ならあるが、あの禍々しい漆黒の魔晶核には触れた事は無い。
魔晶核の扱い方を一寸でも間違えたら俺は確実に死ぬだろう……
「ですから陛下には『潰してもいいダンジョン』の情報を提供して頂きたいのです」
「情報提供は構いませんが、そのダンジョンに潜るのは?……」
「はい。勿論メルフェスが誇る魔導士ケント様です♪」
……ですよね。
周囲からは「流石ケント様だ」「元【勇者】パーティーの一員だけの事はある」と称揚されている。
断れそうもない。女神様の魂域にいる母さんと親父今から逝くよ。
「ケントさん宜しいですか?」
聳え立つほどデカい超装飾椅子の上から姫様が俺を手招きしている。
超装飾椅子の階段を昇っているとまるで天界へ昇る感覚を全身で感じている。
この昇り心地、これが王都の職人たちの力なのか。
手招きをしている壮麗な姫様が天使に見えて来た。
金色髪の美麗な【エルフ姫】の口元に俺は耳を寄せた。
「……安心せい。ちゃんと骨は拾ってやるけぇのお」
天使の笑顔から放たれるドスの聞いた声。
やっぱり俺は死ぬのか。それなりの奇妙な口調が気になった。けぇのぉ?
「なんですかその口調?」
「おんどれが最近、わしの毒吐きにすっかり慣れてしまったようだからアヤネェに良い凄み方はないか聞いたんじゃぁ」
これが異世界の凄み方と云う事か。口調が気になって怖さは感じない。
「ダンジョンの魔晶核なんて俺には扱いきれませんよ姫様」
「おんどれの仲間やコレが今も最前線で魔族達と闘こうとるのに自分だけ命張りたないとかそれでぇも漢かおんどりゃあ」
「……そういう訳じゃ」
「漢じゃなぁ奴にはそこの宝珠二つ必要ねぇなぁ。我が弓で射潰してぇやらぁ」
「頑張りますから股間に弓は止めて!」
言葉の遣い方が違う気がするが貞操の危機のようだ。ダンジョンに潜る事が確定した。
「あの~。ダンジョンに潜るのになにか必要なモノはありますか?ケント兄、いや魔導士ケント殿でも単独では厳しいと思いますし」
ブルスケッタが助け舟を出してくれた。ああ陛下から後光が差してるように見える。
「そうですね……ではアヤネさんの装備を用意して頂けますか?それと上級の魔力ポーションをおひとつで結構です♪」
「わ、私も洞窟に入るんですか!!??」
「か、彼女もですか!?」
どうやらアヤネも姫様の無茶振り仲間らしい。どんな時でも仲間がいると嬉しいと実感。




