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24.エルフ姫、やっぱり外交無双する?





「コルセットなんて初めてです。キ、キツイ……」




 故郷のレジル村で魔導車の創作としていた俺達はいざ完成した魔導車を普及させるとなった時、道の問題、魔導車に関する規律(ディスシプリ)の創作やその布教など様々な問題に直面した。

なのでその問題を解決する為、祖国メルフェスの王都にあるソリウス城で暮らす若き国王陛下ブルスケッタに再び拝謁する事にした。


 今回はエルフ国の皇女であるサリー姫だけでなく異世界からやって来たアヤネも陛下との謁見に参加してもらう事になった。

ソリウス城に到着するや否や、見慣れた瑠璃色のドレスに煌びやかな装飾品(アクセサリ)に身を包んだ尽善尽美な【エルフ姫】の姿を視認した警備兵達が大慌てになる。

 

 前回も謁見前に通された来賓用の一番絢爛豪華な応接間にいるのだが、そこに現れた宰相グラウス様がアヤネの『ジャージ』姿を見て流石にその格好で陛下の御前に通せないと王城の侍女達を呼びつけアヤネを何処かへ連れて行ってしまった。


 半刻ほど待った後に現れたのは(すみれ)色のビロード生地のドレスに白銀に輝くサークレットまで額に飾っている貴族と見紛うほど麗しい姿のアヤネがいた。

普段の紺色の『ジャージ』姿でも美少女だなと感じるアヤネの容姿が侍女さん達の手入れにより一層引き立っていた。

あの流れるような黒髪も光沢を増して、一瞬見惚れてしまった。


「ど、どうですか?こんな本格的なドレスを着るのは初めてなんですけど……。コルセットめちゃくちゃキツいし」


「い、いやとてもよく似合ってるよ」


 アヤネの表情からは少し照れが見える。

豪奢な『セレブ』な暮らしをしてみたいと以前語っていたが、初めて着るドレスに狼狽していた。


「駄目ですよ~。ケントさんはアヤネさんの後見人のようなモノなんですから」


「わ、解ってるよ」


 またそれから四半刻ほど待った後、ようやく謁見の準備が整ったようだ。

こちらの待機中に今回の謁見で、何を陛下へ、国へ伝えるか話し合った。


・他国の召喚魔術より異世界からやって来る事になったアヤネの存在と女神様から授かった驚異的な超特殊能力(チートスキル)無彊(むきょう)複製』の詳細について。


・俺が魔導車の創作に成功しそれに伴って、道の改装や規律(ディスシプリ)の創作・国民への規律(ディスシプリ)の布教が必要な事。


・年端もいかない少年少女たちには『素質:∞(無限大)』というステータスが存在するので≪神実の石板≫で確認して欲しい事。更に少年少女たちの素養(ステータス)を活かす為の学び舎設立の提案。


このくらいだろうか?


「では。陛下もエルフ国第一皇女、サリーティス=アメル様と御会いになる準備が出来ましたようなので玉座の間ヘご案内させて頂きます」


 そう云えば前回の謁見で8年前、子供の頃から知っている若き現陛下ブルスケッタは【エルフ姫】が繰り出す強烈な言葉(パワーワード)の前に陛下の威厳など容易く何処かへ飛んで行ってしまったが今回は大丈夫だろうか?

あれだけ酷かったのだから宰相様たちからの指導も加わっている筈だ。

今回は【エルフ姫】との会見も二度目だし前回の二の舞とはならずメルフェスの王族として威厳を示して欲しい。




   ***



「それではこれよりメルフェス国王陛下ブルスケッタ様とエルフ国キュリーメイズ第一皇女サリーティス=アメル様、並びにSランク魔導士ケント殿とその従者同伴の会見を行う」



 紅茶色の髪に凛々しく整った御尊顔の青年、ブルスケッタ陛下が真紅の外套(マント)を仰々しく翻しながら登場し玉座に座る。

多分今の真紅の外套(マント)の翻しは事前に打ち合わせた演出なんだろう。俺は若き陛下の御前で跪礼する。


 そして俺の後ろにサリー姫が王城の用意した装飾椅子に座している。ここまでは前回の謁見と同じ―――でなかった。




 姫様の椅子がデカい。

とにかくデカい。

陛下の玉座よりデカい。

座るのに十段以上も昇らないといけない椅子って。

ロココ調で白と金を基調とし、蒼や桃色の宝珠が眩い超装飾椅子だった。



 そしてその後ろ隣辺りに前回姫様が座っていた装飾椅子にアヤネが座っていた。

あの装飾椅子だって十分な豪奢な傑作なんだけど今回の超装飾椅子の前では容易く霞んでしまう。


「サリーティス=アメル様、今回貴方様の為に王都の美術匠たちが精魂込めて謹製したその椅子は如何でしょうか?」


「はい。とても素晴らしくてエルフの国(キュリーメイズ)に持ち帰りたいくらいです♪お心遣い大変感謝いたします」


 超装飾椅子を気に入ったのかご機嫌な【エルフ姫】。

この会見の参列者(ギャラリー)である政職者や警備の王国騎士・魔導士達から「よっしゃ!」と歓声が聞こえた。

「良かったねぇ。お父さん……三十年の努力が報われたよ」とすすり泣く女性までいた。



「今回の会見ではお互いが対等であるよう、私とサリーティス様の目線が等しくなるようその椅子を完成させました」


 そう堂々と語るブルスケッタ。

この玉座の間で目線を同じにしようとしたらたしかに賓客の椅子の方が玉座よりデカくなるわな。



 目線は対等。座しているモノは姫様の方がデカい。……駄目な気がする。


 まあ陛下が『対等』と強調してるのだから及第点か。前回よりは学習している。


「そ、それとそちらの麗しい令嬢は何方(どなた)でしょうか?前回の会見では御不在でしたよね?」


若き陛下はアヤネの存在が気になるようだ。


「こちらはトモエ=アヤネさんです。異世界から召喚された女神レミール様の使徒なのです」



「異世界から来た女神様の使徒だとっ!?」


 姫様の発言は牧歌的な祖国メルフェスの人間にとっては驚天動地ものだったようで参列者(ギャラリー)は喧々諤々だ。

あまりの騒がれぶり、好奇の視線にアヤネが泣きそうな顔をしている。


「静まれ!アヤネ嬢が怯えているのではないかっ!」


 陛下の憤怒が混じった一喝に静まり返る参列者(ギャラリー)達。成長したなブルスケッタ。


「……本当に異世界から来たのですか?」


 動揺しているアヤネの代わりに姫様が応える。陛下はアヤネから視線を動かそうとしない。


「はい。彼女はその証拠に女神様の【加護】を持ち合わせており、更に万物、魔導具すら複製する事が可能な神力(スキル)を女神様より授かっています。魔導士ケント様が大量の魔法盾を貴国の民へ大量に提供できたのは彼女の神力(スキル)のお蔭なのです」



「魔導具を複製できるだとっ!?」


 毎回毎回いい反応するな。参列者(ギャラリー)の人達。


「そのような人物が何故(なにゆえ)このメルフェスを訪れたのですか?」


 陛下はずっとアヤネから視線を離さない。その質問には俺が応えた。


「彼女は彼の戦士国バルツァの召喚魔術により異世界からやって来たようです。彼女は商業大国バイナラを訪れますがその驚異的な神力(スキル)を恐れた豪商貴族たちにより『相場破壊者』と迫害されギルドカードも危険人物の証左である『紅』にされ、この地まで流れついたようです」


 彼女を狙う暗殺者達がこの田舎国なら別段いいやと解放したのは伏せておこう……いやずっとアヤネばっか見てないで俺の事も少しは見ろ!


「そんな顛末があったとは……」


「ですからアヤネさんの紅いギルドカードを陛下の御力で戻して頂きたいのです。アヤネさんはケント様の魔導具を大量に複製することで貴国の民の皆さんの命の危険を解消するのに大変貢献しました。どうか御慈悲を……」



「そんなの当たり前でしょう!!私の全権能を行使してアヤネ嬢のカードの色を元に戻して見せましょう!!!」


 ブルスケッタは凄い剣幕で立ち上がった。

陛下のお墨付きを得た事でアヤネも夢である商人の道に復帰できそうだ。

アヤネも(ようや)く異世界での迫害の日々が終わると理解したのか目に涙を(たた)えていた。


「良かったですね。アヤネさん」「はい……」



「それでは次の話題に入りましょうか。ケントさん『素質:∞(無限大)』に関する説明お願いします♪」


 姫様に促されて俺はまだ体が成長しきっていない年端もいかない子供達のステータスには『素質:∞(無限大)』と云う項目が存在する事を説明する。

成人した少年少女のステータスを確認する際に神官様が使用する≪神実の石板≫で一度幼少期の子供達のステータスを確認して欲しい事。

それに伴い、その素養(ステータス)を活かす為の学び舎を設立できないかと陛下に陳情した。



「学び舎ですか……この国の子供達は皆、農作業の手伝いがありますからねぇ……上手く行くかどうか」


 たしかに『食糧庫』なんて揶揄されるメルフェスの幼少期の子供達はほとんど皆、両親の農作業の手伝いをしている。

そう云えばこのメルフェスでは頻繁に変わった農業技術(スキル)を持った者が登場している。


 例えば「作物を傷めず雑草だけ枯らす魔法」とか「品種改良で作物を美味しくするスキル」なら称揚されるべきだが「スライムみたいなキャベツを育てる」とか「カボチャの馬車が創れる」とか「魔物を屠れる鋭いゴボウの剣が育てられる」とか農業の天才だけでなく珍才も多く誕生している。


 今思えばあれも『素質:∞(無限大)』の賜物だったのかもしれない。


 学び舎の陳情に関しては難色を示すブルスケッタ陛下。

そう簡単に頷くなと宰相様からも釘を刺されているかもしれない。

真剣に考え込んでるようでずっとアヤネの事ばかり見てるな。

俺はまだしも国賓待遇である姫様すらまともに見てないぞ。


「そうですか。ではアヤネさん、陛下に『小学校』の事お願いして頂けますか?」


「え?私がですか?」


突然のフリに吃驚するアヤネ。



「えーっと……陛下、子供達の為に学校を作って頂けませんか?そしたら私凄く嬉し―――」



「はい!!!喜んで!!!!!」



……若き国王陛下は恋に目覚めたようです。同時に祖国の将来が少し不安になった。




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