23.追放魔導士一行、再び王城へ
新年あけましておめでとうございます。
「魔導車が完成しても道を走らせる事が出来ない?」
嘗て【勇者】パーティーの魔導士だった俺は『万感予知』の【エルフ姫】に導かれ、今は俺の故郷であるレジル村で魔導具や魔導車を創作している。
女神様の神力を授かった異世界から来た少女アヤネや王都の職人たちの協力も得ながら魔導二輪車を完成させる事が出来た。
レジル村の住民数、約200人に対して完成した魔導二輪車を150台、少年少女用の魔導二輪車『さいどかー』も十数台、村人達に提供した。
魔導二輪車だけでなく温水の雨を降らせる『射輪雨』と『温水浴槽』も提供したら村の女性達からはこっちの方が大変喜ばれた。
これらの魔導具があれば吐息を凍らし肌を震わせる冬を越すにも今までの比にならない安息を得られるだろう。
ことに『射輪雨』に関してはメルフェス中を席捲する手応えを感じている。
村の若い男衆が俺達が各家に運ぶと云うから『温水浴槽』もアヤネに頼んで複製してもらい大量提供したが浴槽の方は運搬・設置が難儀だった。
行商人も態々この浴槽魔導具を手に入れる為にこのレジル村まで来ないだろう。
結局のところ俺とアヤネが転移魔術で現地に赴き、アヤネの特殊能力『無彊複製』で大量提供した方が手っ取り早い。
とはいえ魔法盾の一件があるので他の街や村の経済をみだりに乱す訳には行かず王都の商業ギルドマスターである【英雄】マリリノの諾了を得るまでは大量提供もするつもりはない。
可能であれば厳しい冬を迎える前に『射輪雨』をメルフェスの国民皆に浸透させたいのだが……
ともかく今の俺は魔導二輪車に続いて三輪、四輪の魔導車を創作に専念した。
アヤネの構想図にある四輪の魔導車の完成を可能させる為の絡繰り仕様に関してはまだ時間がかかると『絡繰り職人』のクリスさんまだ時間がかかると云われたので
4人乗りで前輪は1枚の魔導三輪車の創作を開始した。車体や車輪、その他諸々は二輪車創作の要領とほぼ変わらず、三輪車で新たに必要となったのは窓の硝子だった。
この世界の硝子は小石をぶつけただけで割れるほどの脆さだった。
魔導車工房にはいつの間にか『硝子職人』のスランさんまで参戦していた。
とても魔導車の窓に設置なんてできる代物ではなかったが、アヤネによる異世界知識で硝子の両面にスライム粘液を加工する事でなんとか実用化できそうだった。
しかしいざ三輪車の中から外の景色を見ると少し周囲は水色だった。
うん。水色だった。
まるで湖の中に潜っているような感覚を覚えるが魔導車の操縦に支障は出ない程度なので風情があるよなって事にしてこれで良しとした。
『スライム職人』のバハートさんはスライム粘液の透明度をあげてみせると息巻いていた。こういう部分はやはり職人だ。
二輪車に続いて魔導三輪車も完成間近な頃、また新たな問題が発生した。
「はい。今の道の状態じゃ狭すぎて大量の魔導車を走らせる事が出来ません。魔導車事故が起きます」
「魔導車事故……」
アヤネも神妙な顔をしている。
人々の役に立つ魔導具を作るつもりだったのに事故が起きて誰かが落命するなんて本末転倒だ。
「今村人の皆さんに提供した魔導二輪車でも混乱が起きているようなんです」
「混乱というのは?」
「前を走っている魔導二輪車が急に曲がったり、止まったりしてぶつかりそうになったり、反対側から走ってきた二輪車と正面衝突しそうになったり……」
「だ、だけど魔導二輪車には人を轢いたりしないようにする為の制限術式を練り込んでいる筈だ!」
「そのケントさんの事故防止の術式がなかったら、とっくに死者が出ていたかもしれません。二輪車でこの状態なんです。魔導車はもっと危険です」
「そんな……」
故郷のレジル村を魔導車の村にするという構想は唯の夢物語で終わるのか……
「……事故が必定の状況では魔導車は諦めた方がいいと云う事か」
「いえ。道を改装したり、皆で魔導車のルールを作って守れば諦める必要なんてありません!」
「ルール?規律か」
「はい。魔導車同士の車間距離をしっかり空けるとか。曲がる際には腕で合図するとか。決められた道しか走らないみたいなルールを決めて皆で守れば魔導車の可能性は広がります」
「規律を創り、守ればいいのか?」
「はい。それに私の世界の車は進路を変えたり、止まるときは光の合図を送ってます。この世界の魔導車もそれが可能だとより確実です」
「光魔法の起動装置も必要と云う事か……」
「あとは道の拡張も出来たらいいんですけど、その道に中央線を引いて『魔導車に乗る際は線の左側を走る』と決めれば正面衝突だって起きません」
「解った。この村と隣町を繋ぐ街道の拡張とその中央線に関しては俺が土魔法でなんとかしよう。規律に関しても村長と話し合って村人達に広めてもらう。しかし道に線を引くなんて勝手にやってもいいんだろうか?」
道の拡張や整備、そして作成した魔導車に関わる規律を世に広めるなんてもう一介の魔導士の手に負える事業ではない。国の仕事だ。
ずっと俺とアヤネの話を黙って聞き続けていた【エルフ姫】がその口を開いた。
「どうやら私の出番のようですね。では再び王城に行って色々『お願い』しに行きましょうか♪」
……再び【エルフ姫】による外交無双の予感。




