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22.追放魔導士、一人で留守番する




「おはようございますケントさん。どうして不機嫌なのですか?」




「……初めて【姫】という存在に魔法を打ち込みたくなりましたよ」



 俺の故郷であるレジル村に建てた魔導車工房で昨晩遅くまで作業した結果、王都の職人たちと魔導二輪車の初期型を完成させた達成感に満たされたのも束の間、翌朝惨事が起きた。

あの添い寝悪戯の『熟練工(ベテラン)おっさん編』が存在したのだ。お蔭で俺は最悪の寝起きとなった。

凶行に及んだ『革職人』のグリフさんに問いただした所、サリー姫に俺相手に添い寝悪戯をしてくれたらエルフ国にある稀少(レア)な樹革を差し上げると誑かされたらしい。



「ケントさんは女性にそんな真似できない優しい人ですから♪」


 褒められているのか貶されてるのか微妙な気分だ。

とにかく今朝も姫、アヤネ、ライジを魔導車工房から王都の迎賓館に転移魔術で迎えに行ったら、今日は双子の妹ライラも復帰していた。


「どうやらケントさんは昨晩遅くまでの作業で心身ともにお疲れのようなので今日は魔導車の創作はお休みにしましょう」


「精神面をゴリゴリ削ったのは姫様じゃないですか」


 俺の指摘(ツッコミ)には知らんぷりの【エルフ姫】。


「では私達はケントさんが創作した魔導二輪車の試乗をしましょうか♪アヤネさん魔導車二輪車の『複製』お願いします」


「あっはい。何台くらい『複製』すればいいですか?」


「出来たら儂たちも試乗させてもらえんだろうか?」


 王都の職人たちも興味津々で魔導車の試乗に名乗りを挙げる。


「じゃあ最初は10台くらいにしましょうか♪」


「分かりました。『複製≪魔導二輪車×10≫』」


 アヤネが能力(スキル)を発動した瞬間、工房(ガレージ)は暖かな黄色い光に包まれ、次の瞬間には魔導二輪車が10台並んでいた。



「こ、これが女神レミール様から授かった特殊能力(スキル)による霊験か……」


 王都の職人勢はアヤネの超特殊能力(チートスキル)を直に体験し、ごくりと喉を鳴らし慄いていた。

 


「それでは皆さん、試乗を楽しみましょう♪ケントさんはお留守番してて下さいね」



 ライジだけでなく壮年過ぎた王都の職人たちまで魔導二輪車に跨った瞬間、童心にかえったような燥ぎ声を挙げている。

姫様やアヤネも防護用の(ヘルム)を被り、二輪車に跨った。妹のライネはというと……


「ちょっとライネ!?俺の後ろに乗るのか!?」「私はここが特等席特等席……」


 兄さま大好きライネは魔導二輪車で二人乗りをしようとしている。

いいんだろうか?俺はアヤネに視線を向ける。


「ああ~。男の人の背中にくっついて二人乗りするの、女の子の憧れだなぁ……」


 なにやら男女の機微について語り始めている。しかも俺の方を何故かチラッと見た。


「そうかい。じゃあ二人乗りも可能な鞍に後で改良するかい?嬢ちゃん。俺もカミさんを後ろに乗せてみてえなぁ」


 そう語る『革職人』。カミさんいるのになんで俺と添い寝しやがった。


「それじゃ皆さん、最初は『鈍速』の起動装置(スイッチ)ですよ。いきなり『高速』だと危険ですからね♪」


「「「「「「はーい(おう!)」」」」」」


 そう云って魔導二輪車に跨った面々は工房(ガレージ)から出発していった。

え?本当に俺、留守番なの?



 今日は休養と云っても、全く何もしないのも無聊なので魔導車とは違う魔導具を創作する事にした。

昨日の仕事終わりの汗をかいた職人たちの宿泊で汗を洗い流す『シャワア』と浴槽の魔導具を早急に創る必要があると感じていた。



 魔導具の素材となる金属塊と魔石もまだまだ十分あるので創作に入る。


『≪融解合成(フェルメランジュ)≫』『水×火魔法≪温水≫付与』


 四半刻も経たずに割と簡単に創作できてしまった。

射輪雨(シャワア)』と『温水浴槽』が完成した。

助手のライジが戻ってきたら使用してもらい感想を聞こう。


 しかし試乗組はまだ帰ってこない。

工房(ガレージ)の外を見ると村の子供達も魔導二輪車が珍しく追っかけていったのか見当たらないが相変わらず工房の敷地内で木刀の素振りをしている少年(ラル)が居た。


 俺の見える所で頑張ってるからって弟子にはしないぞ……

剣戟の指導をしているライジも「あの子の剣には『遊び』が無く、あれでは引き際の見定めや剣士同士の駆け引きが出来ない」を評していた。

他の子供達とは違う境遇になってしまったラルを『子供』に戻してやりたいとは思う。



 そんな時に職人勢が魔導二輪車の試乗から戻ってきた。


「いやーこれはすげえ!これがこれからメルフェスで流行ると思うと俺達くらいの歳になっても胸が弾むぜ!」「いやぁ全くだ!」


「皆さんにちょっとお願いがあるんだけど……」


「どうしたんです?魔導士の旦那?」


   ***



「ハッ!ハッ!」


 一心不乱に木刀を振ってる少年(ラル)に俺は声を掛ける。


「ちょっといいか?」

「あっ魔導士様!」


「コレをお前に渡す」

「え?これって?」


 少年(ラル)の眼前にあるのは少年用の魔導二輪車だった。

最大でも馬の駈足(かけあし)、『中速』以下の速度しか出ない。

あとアヤネの魔導車の構造図の一つにあった『さいどかー』なるものを再現したものだ。

二輪車の側面に車輪付きの座席が付随している仕様でこれなら転倒の心配も無い。


「……これからこのレジル村は『魔導車』の村になる。だからお前もこれの操縦方法を習熟するんだ。村の子供達も隣の座席に乗せてやれ」


「師匠……」


「師匠云うな」


 翌日以降、ラルは憑りつかれたように一日中木刀を振り続ける事はなくなった。

『さいどかー』で他の子供達とも和気藹々とやれているようだ。木刀はしっかりと腰に佩いているが。



「ラル君良かったですね♪」

「良い所あるじゃないですか師匠~」

「師匠じゃないから」







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