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21.追放魔導士、仲間たちが有能過ぎて休めない?





「どうしたライジ?これから戦場に行くのか?」



「魔導車の試乗が怖いんですよ!!」



 俺の故郷であるレジル村で俺達は魔導車の創作をしている。

完成した魔導二輪車第一号の試乗は助手であるライジの身体能力の高さで惨事を免れる事が出来た。

しかしライジは余程怖かったのか、態々(わざわざ)村の衛兵たちの詰め所へ行き軽鎧や(ヘルム)を装備している。


「そんなに入念に身を固めたら空中動作に支障が出ないか?」


「空中に投げ出された時の心配なんかしなくていいようにして下さいよ!」


 ……ごもっともです。


「でもライジさんの空中での身のこなし素敵でしたよ♪」


「そうそう!やっぱり王国の騎士の人は違うな~って思いました!」


「そうですか。へへ……って騙されませんよ!安全な魔導車を創って下さい!」



 ライジに魔導二輪車の試乗試験の結果、感想・改善点としては



一、『高速回転』と『停止』の起動装置(スイッチ)だけでは運転にならない。


二、ほぼ金属塊である二輪車の車体に直接跨るのは尻が痛い。


三、小石や馬車による轍などこの村周辺の荒れた畦道では体への衝撃・振動が凄くて乗りづらい。



 との事だった。


 最初の問題の改善方法としては起動装置(スイッチ)の数を増やす事にした。

増やしたのは『鈍足』『中速』『加速』『減速』だ。


『鈍足』は一般的な馬車の進行速度くらいを目安とした。


『中速』は一般的な馬の駈足(かけあし)くらいの速度設定だ。


『加速』『減速』に関しては風魔法による車輪回転とは異なり重力など物体の力作用に関わる質量魔術の類になる。



これだけ起動装置(スイッチ)を増やせばライジが宙に浮かぶ事はもうないだろう。多分……



 二番目の問題は魔導二輪車に跨る部分に革できた馬の鞍のようなものを付属させよう。


「魔導二輪車用の革の鞍でしたらもう王都の革職人に特注品を創って頂いていますよ♪」


『万感予知』の姫様の仕事が早すぎて一息つく暇もない。



 そして最後の問題だが……


「車体や運転者への衝撃・振動を減らすにはどうすれば良いんだろうか?」


「私の世界の『クルマ』は車輪にタイヤを装着させていました」


 異世界少女アヤネが困っている俺に知恵をくれた。


「『タイヤ』?」


「はい。たしか樹脂で出来てたような……すいません。はっきりと覚えてなくて。衝撃を吸収してくれる柔軟な素材はこの世界には無いんですか?」


「強いて挙げればスライム粘液だろうか?」


「ス、スライムですか?……うえぇ」


 アヤネはスライムを加工する場面を想像してるようだ。

たしかにドロドロしてそうでぞっとしない。


「スライム粘液を扱う王都の職人にも交渉しないといけないな」


「その職人さんも既に王都の迎賓館で出番を待っていますよ♪連れてきましょう」


姫様は先読み過ぎて職人さん待たせてるのか。なんか申し訳ない……


「じゃ、じゃあ転移魔術で迎えに行きましょうか?」




   ***



 俺達は転移魔術で王都の迎賓館に戻ってきた。

迎賓館の豪華絢爛な玄関広間には、その場所には不調和とも云える男臭い熟練工(ベテラン)の職人たちが勢ぞろいしていた。

あれ?スライム粘液の職人を迎えに来たんじゃ?


「ケントさん、こちらから『革職人』のグリフさん、『絡繰り(カラクリ)職人』のクリスさん、『スライム職人』のバハートさん、『姿見職人』のアーツさんです♪」


 サリー姫が俺に王都の職人たちを順番に紹介してくれた。

『姿見職人』って何?もう俺が今までしていた魔導車構想の会話よりも先に進んじゃってるし。



「では私は王都の職人さんの手配・取次ぎを終えましたので今日はもう迎賓館でお休みしますね♪」


「あ、私も迎賓館で新しい魔導車の構造図描いてます!」


「僕も静養してるライラが心配なんで今日はこれで失礼します。ではまた明朝に」


「お、おい!」


 どうやら皆今日は『上がり』らしい。



「【勇者】パーティーの一員だった魔導士様の魔導車創りに携われるなんて腕が鳴りますぜ!!」

「魔導車の試作品を見せていただけやすかぁ!?」

「スライム粘液の準備も万全ですぜ魔導士の旦那!」

「私の姿見を採用して頂けるなんて重畳で御座います。ささっ!今から魔導車を創りに行きましょう」


 いや姿見って何に使うの?


 壮年を過ぎたくらいの褐色肌の職人たちに囲まれる俺。

どうも俺だけ残業のようだ。とほほ……




 そうして俺と王都の職人たちはレジル村の魔導車工房に転移で戻り、再び魔導二輪車の創作に取り掛かる。

王都の腕利きの職人たちだけあって夕刻から深夜までずっと集中力を切らす事無く其々(それぞれ)の仕事を果たした。


『革職人』は魔導二輪車に跨るのに心地よい革の鞍を仕立てた。

『スライム職人』は高速回転される車輪に衝撃吸収用にスライム粘液を見事に輪状に加工(コーティング)して見せた。

絡繰り(カラクリ)職人』には操縦桿の取っ手(グリップ)と方向転換操作が必要な前輪との連動性をもっと高める為の仕様を提案されたので魔導二輪車の車体の先頭部分を改良する事にした。

『姿見職人』には魔導二輪車の走行中に後ろを振り向かずとも後方確認できる小さな鏡の設置を提案された。


 高価である鏡を提供された事に俺は戸惑ったが、魔導二輪車を報酬して頂ければ問題ないと云われた。

流石にもうアヤネの超特殊能力(チートスキル)無彊(むきょう)複製』の噂はメルフェス中に知れ渡っているようだ。

魔導車を1台完成させればいくらでも複製可能だと云う事を。


 職人たちへの報酬は完成した魔導二輪車の複製を提供する事となった。


 そして深夜未明に魔導二輪車の初期型が完成した。熟練工(ベテラン)たちの仕事ぶりは素晴らしかった。

今晩は工房2階の部屋で職人たちに休んでもらう事になった。


 姫様やアヤネ専用の部屋に運び込んだ天蓋ベッドで寝てもらう事になったのが、

明らかに淑女の為に拵えた桃色の天蓋ベッドで男臭い職人のおっさん達が寝ようとする絵面は表現を差し控えたいモノがあった。


 俺も魔導二輪車の完成させた達成感とともに訪れた微睡み(まどろみ)に身を委ねて自室で寝る事にした。



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