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20.追放魔導士、魔導二輪車を創る





「まずは基本の五行の構えから!最初は水の構え!」


「はいっ!!」





 俺の故郷であるレジル村で衛兵だった親父が命を賭して守った少年、ラルに魔導具創作の助手である双子兄妹の兄、ライジが木刀を使いながら剣戟の基本を教えていた。

水の構えはその中でも基本中の基本。剣先を相手の顔に向けて構える中段の構えだ。正眼の構えとも云う。

ラルだけでなく村の子供達も魔導車工房の敷地内に興味津々な顔をして見学に来ていた。


 魔導車工房兼住居への荷物運びも終わり、村大工にも簡単ながらドアや窓の冊子を取り付けてもらった。

今日から魔導車創りを始めるので助手であるライジもこのレジル村に転移魔術で連れて来た。

兄さま大好きな妹のライラの方は一昨日昨日、宮廷魔術師達に付与魔術を教授するのに一杯一杯になってしまい、今日は自宅で静養らしい。


 工房(ガレージ)には大量の金属塊と魔石が置かれている。

今回は王城の武官の人達だけでなく王都の冒険者ギルドからの素材の提供を受けた。

車輪を高速回転させるのに必要な風属性のワイバーンの魔石まで提供してもらえた。流石メルフェスの【英雄】が統率している王都の冒険者ギルド。

これだけの量の素材があれば魔導車も創れそうだ。


「じゃあ最初はどんな魔導車を創ろうか?」


「そうですね。こんなのはどうです?四輪車になるんですけど」


「どれどれ?」


 異世界からやって来た少女アヤネが羊皮紙に描いた魔導車の構想図は流線形で洗練されていて男心を(くすぐ)り恍惚とされる構成(デザイン)だった。

ただ、この美しさを感じる曲線を実際に想像(イメージ)で再現するにはもう少し詳細な立体図が欲しかった。


 それにアヤネの世界の四輪車は前輪となる2つの車輪を円状の操縦桿を回転させる事で同時に方向転換させるというモノだと云う。

正直その仕様は俺にはとても再現できそうにない、王都の絡繰り(カラクリ)職人に相談すれば再現できるだろうか?



「やはりアヤネの世界の技術力には驚かされるな」


「このくらいで驚いてちゃ駄目ですよ?私の世界の車は今では『自動運転』の研究まで進んでたんですから!」


「その『自動運転』と云うのは?」


「うーん。この世界で例えるなら御者さんも馬も居ないのに目的地まで運んでくれる馬車ですかね?」


「……それは付喪神(つくもがみ)、霊的現象の類か?少し怖いな」


「違いますよ!科学ですよ。カ・ガ・ク!」



 あと四輪車の車体の乗車空間内に前席には座椅子が2つ、後部座席にはソファが欲しいと云われた。


「座椅子やソファは王都の職人に依頼するしかないな」


「それならもう私が手配しておきました♪明日には完成する筈です。あと絡繰り(カラクリ)職人さんにも相談済です」


 金色の髪はハーフアップに纏め、作業着姿でニッコリと微笑む【エルフ姫】。

そう。今日から姫様もこの魔導車工房に通うのだった。

予知の特殊能力(スキル)の持ち主だけに仕事が早い。早すぎる!優秀な秘書どころではない根回しの速さ。


「じゃあ今日は簡単な魔導二輪車から創ってみましょうか?四輪車が完成しても道の問題もありますし」


 そう云ったアヤネに魔導二輪車の構想図を渡された。

こちらも中々男心を(くすぐ)構成(デザイン)だった。

魔導二輪車も流れるような美しい曲線を求められているが四輪車よりは創り易い車体だ。


試作品なのでまずは銅塊と魔石で車体創りをする。



『≪融解合成(フェルメランジュ)≫』


 (かざ)した俺の掌から顕現した蒼白の焔球が銅塊と魔石を呑み込み溶かし混ぜ合わせていく。

完全に混ざりあった銅塊と魔石の溶湯がアヤネが描いた魔導二輪車の構想図の姿に近づいていく。


『≪氷塊≫』


 ほぼ型ができた魔導二輪車の車体を氷魔法で冷却する。


 次は高速回転が可能な魔導車専用の車輪に創るため、銅塊と風属性のワイバーンの魔石の一部を融解合成(フェルメランジュ)する。

これもすぐに氷魔法で冷却。


 魔導車二輪車の車体に車輪を取り付けて、あとは車輪に動力源となる風魔法を付与する。

そして二輪車の取っ手付近に付与魔術解放の魔法陣(サーキット)が描かれた小型の起動装置(スイッチ)を溶接する。


 最初は『高速回転』と『停止』を可能とする起動装置(スイッチ)を2つ取り付けた。

あとは時間がかかるが「人を轢きそうになったら急停止する」制限術式を練り込んだ。



「これで魔導二輪車の試作品第一号が完成だ!」


「おおー」「凄いですね♪」


銅黒色の魔導二輪車の完成にアヤネも姫様も嬉しそうだ。俺も高揚している。



「じゃあライジ。この魔導二輪車に乗って隣町へ続くこの道を走ってみてくれ」


「了解しました!!」


 ライジも魔導車に試乗できるとあって声が(はしゃ)いでいる。勢いよく魔導二輪車に跨り、取っ手を握る。

ラルを始め、村の子供達も固唾をのんで見守っている。



「じゃあ行きます!この起動装置(スイッチ)ですよね。えい!うわあああああぁ!」


 ライジが『高速回転』の起動装置(スイッチ)のツマミを回すと魔導二輪車は急発進した。あ。ヤバい。

魔導二輪車とそれに跨っていたライジは瞬く間にその姿形が小さくなる程、畦道の遠くの方へ移動している。


「待った!待ったぁ!!!止まれ止まれ『停止』!!う、うわあああああああああぁあああ!!!!!」


今度は急に止まった魔導二輪車の車体からライジの身体が放り出され、宙を舞った。失敗した。すまん……



  ***



「これ僕じゃなかったらもっと惨事になってましたからね!!!」


「御免。悪かった」


 普段は慇懃な態度のライジも今回は語気を荒げていた。

宙に投げされたライジはその後、見事に身を翻して着地をしてみせた。

その身体能力の高さは流石王都採用されただけの事はある。俺やアヤネが試乗していたら本当に大変な事になっていただろう。



「ライジ。お前を最初の試乗者にしたのは正解だった。お前じゃなきゃ駄目だった」


「その称賛、全然嬉しくないです!!」


「そういえば私の世界では二輪車の場合、頭部用の防具の着用が義務でした」


「それ先に言ってくださいよ!!!」


「ライジさんならこの危機を無事に回避すると私は解っていましたよ♪」


「その危機の存在は事前に教えるべきだと思うなぁ!!!!」



魔導車創りも一筋縄では行かないようだ。




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