2.何故エルフ姫が俺と?
「私!ケント様について行きたいんです!!」
【勇者】パーティーを追放になった魔導士の俺について行きたいと言い出したのは旅の途中いつも俺の傍にいてくれた女性、【女焔闘士】アルベリスではなく旅の途中に立ち寄ったエルフの国のお姫様サリーティス姫だった。
まさかの展開に俺は思考停止した。冒険者すら引退するつもりの俺に何故【エルフ姫】がついて来るんだ?
「ちょっと!どういう事よ?いつの間にエルフの姫様とそんな関係になったのよアンタ!?」と金髪の【雷双剣姫】ラティーナ。
は?
いやいやいやいやいやいやいやいや!そうじゃない!
あらぬ疑いを掛けられた俺は必死に首を横に振る。紅い髪のアルベリスに誤解だと必死に顔で訴えた。
【エルフ姫】の爆弾発言に今や戦闘軍団となっている【勇者】パーティーの面々も唖然としている。
それもその筈、この【エルフ姫】は只のお姫様ではない。
彼女の特殊能力『万感予知』はその言葉の儘、予知能力だ。
万をも超す長寿と云われるエルフ族が代々積み重ねて来た経験則から派生した特殊能力だ。
彼女の予知の力で【勇者】ベルギークの首を狙う魔族達による奇襲、強襲に対して後手に回らず撃退する事が出来ていたのだ。
サリーティス姫が居なければとっくに全滅していたかもしれない。
「サリーティス一体何故!?」
この展開は想定外だったのかベルギークも動揺している。不謹慎だが少し溜飲が下がった。
【エルフ姫】は俺の傍まで移動してきた。
「申し訳ありませんベルギーク様。私の力がここはケント様について行った方が良いと啓示しているんです」
「でも君が居ないとこのパーティーは!!...」
「私の代わりに妹のセリティスを派遣しますのでそれでお許し頂けないでしょうか?妹はベルギーク様をとてもお慕いしてますし。加えてエルフの国について伝わる秘宝『双愛の宝珠』の一つをベルギーク様にお預けしますので対の宝珠を持つ私ともいつでも連絡が出来るようにしておきますので...」
「...なら大丈夫だ。ケントには分不相応だがサリーティスが望むのであれば止めない」
妹の方が良い肉体だったんだもんな。この色惚け勇者。
「ええ...そうさせて頂きます♪(このクソ惚け勇者が)」
なんだろう物凄い低く怖い声が近くで聴こえた気がした。
俺はガバッと身を翻しエルフ姫の方を見る。
俺の視線に気づいたのか金色の髪に碧い双眸をした十全十美で麗しいエルフ姫がとても晴れやかな笑顔を向けてくれた。
...気のせいか?
「何故俺なんかについて来るんですか?」
サリーティス姫に正直に疑問をぶつける。姫は微笑みながら逆質問して来た。
「...何故貴方の方こそ『アレ』を見せずにこのパーティーを離れるのですか?それは無責任ではありませんか?」
この姫様、気付いているのか?
「なんの事でしょうか?」
何処まで知っているのかエルフ姫に試してみる。
「当然古代魔術の事ですよ。貴方が古代神遺跡で古代文字を解読して習熟させた古代魔術を一つでいいので皆の前で披露してもらいたいのです」
そういう事か...結局最後の最後まで一見しただけでその魔法を会得してしまう【究極魔導士】の彼の踏み台になれと。
魔導士としての長年の努力の対価を彼に譲ってから去れと。
「...中々残酷な事言いますね」
「このまま負け犬のように去ったらアルベリス様とは未来永劫、一切逢えなくなるかもしれませんよ?」
姫様の言葉が俺の胸に突き刺さる。
彼女が【勇者】の子の母親になる未来は割り切って受け入れてはいたが、あの誇り高く優しい彼女の顔を二度と見れないと言われれば耐えられるものではないかもしれない。
「ベルギーク様はアルベリス様に淡い恋―――ケント様の事等忘れて母親として生きるよう、弾け飛んでしまうくらい何度も何度も深く楔を打ち付けるでしょう。それで本当に良いのですか?」
『万感予知』のエルフ姫様が啓示する未来に俺は言葉が出ない。
望まむ形であれど体を重ねれば情愛が沸き、母となればその子の存在が全てとなり俺等不要になるという事か...
「大切な人に傍にいてもらえない女性というのは弱いものなのですよ...」
そう告げて【エルフ姫】は悲し気に目を伏せる。一人の女性が【勇者】の子を為す道具にされる未来はこの姫様も見たくないのだろうか?
「...それにあちこち子種をばら撒いている【勇者】様の子達が英雄になれると本気で思いますか?」
人類の可能性がバッサリ一刀両断された。たしかに【勇者】が旅を終えた時、勇者の末裔は一体何人産まれているのだろう?
「じゃあ今、アルを一緒に連れて行けばいいって事ですか?」
「それでもいいかもしれませんが待っているのは肩身の狭い茨の幸薄結末ですよ?」
「じゃあどうすれば?」
「ケント様は長すぎた旅路に心身共に疲弊されているのです。そんな中今この場で全て答えを出す必要はありません。私の言葉を信頼しては頂けないでしょうか?」
要するに姫様の言葉を信じて古代魔術を一つ披露する必要があるらしい。
アルベリスを見ると俺と姫様が何を話し続けているか聞こえてないようで不安そうな顔をしている。
【究極魔導士】の踏み台になるか、彼女と二度と逢えない未来のどちらを選ぶかなら答えは決まっている。
「解りましたよ...やればいいんですね?」
「ええ♪最後に大きな華火を打ち上げましょう♪【努力魔導士】の意地を彼に魅せてあげて下さい♪」
【努力魔導士】か。俺も【究極魔導士】みたいな称号が欲しかったなぁ...
場所はとある国の近くに森がある草原平野。
数台の移動住居魔導車の傍でパーティーが食事する場所に俺や【エルフ姫】、アルベリスに今まで共に旅した仲間や新たに加わった仲間が皆、集まっている。
見上げれば夜空には少し歪な三日月に夏の星座達が煌めいてる。
胸元からある魔法陣を記した魔色紙を取り出し、己の魔力を込める。
仲間達に背を向けて何もない地面に魔色紙を放り投げると直径5メートル程の白い光を放つ魔法陣が展開された。
背後から「何何?」と好奇心に溢れる歓声が聞こえる。また彼にあっさり一呑みされるのは嫌だったので敢えて古代文字で詠唱する。
「प्राचीन पंखों वाला हिमखंड बर्फ बुलाने से ।............」
『召喚!≪有翼一角氷獣≫!!!!』