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18.未来が視える姫様は嫌ですか?




「魔導車の村か」




 俺の故郷であるレジル村が村の若者達に袖にされ廃れていかない様にどう変えるべきか、異世界から来た少女アヤネと話し合った結果、この村で俺が創る魔導具を銅貨1枚で先攻販売?したり、人々の街村間の移動を容易にする魔導車を創りそれを我が国メルフェス中に普及させるという話になった。


「実現できますかね?魔導具のお店に魔導車の村!!」


 アヤネは自身の構想が具現化するかもしれない事に目を爛々とさせている。

彼女の期待に何処まで応えられるか【勇者】パーティーの一員として長く闘い研鑽してきた魔導士としての真価を彼女に≪力≫を授けた女神レミール様に試されている気がする。

女神様は俺に【加護】を授けてくれなかったが【エルフ姫】の導きにより女神様の使徒と云っても過言ではないアヤネと出逢えた。

まだ俺の生涯には天命のような大義があるのだと思いたい。



「何処まで実現できるか解らないが取り敢えず挑戦してみよう。明日から魔導具・魔導車の創作に取り掛かろう。今日はもう寝ようか」


「はい♪明日から宜しくお願いします!!」


 元気の良い返事だった。彼女の心なしかそわそわしている様子を見てると新しい魔導具の構想を夢想するのが楽しくて今宵は寝付けないのでは?


「じゃあ灯りは消すから。おやすみ」


「おやすみなさい♪」


 蝋燭を減らすのは勿体ないので灯り代わりにしていた光魔法の光珠を消滅させた。

急な泊まりだったので妹エウレルが用意した即席の山のような乾草(ほしくさ)に白布だけの寝床に横になった。

アヤネも別に用意された寝床で眠りにつく。


 少しでも寝返りを打てばガサガサと乾草(ほしくさ)が擦れ潰れる音がする。

そんな粗末な寝床に横になりながら明日以降の行動予定を俺は思案する。

魔導車を創るとなれば国に貸してもらっている王都の城下町の武器工房では広さが足りない。


 魔導車創りを開始する前に魔導車用の工房が不可欠だ。

その工房はこのレジル村に建てる必要があるから、村長に相談してこの村の近くの無耕地の敷地を借りなければいけない。

初級の建築魔術しか使えないんだがちゃんと工房を建てられるだろうか?それに親父が好きだったこの村の景観は出来るだけ壊さないようにしないと。土煉瓦の工房なら大丈夫か?


 どんな魔導車を創るかはアヤネの希望を全面的に取り入れよう。あとは...




 気が付くと白雀が朝の訪れを教えるように可愛らしく鳴いているのが解った。

そして(まぶた)を開くとそこにはぱっちりとした大きな瞳に整った鼻梁(はなみね)の黒髪の少女の顔があった。


「うわあぁあっ!!??」


俺は驚いて乾草(ほしくさ)の山から落ちてしまった。木床におもいきり肘をぶつけた。地味に痛いぞ...


「あは♪サリーさんの言ってた通り、ケントさんのリアクション面白いですね!!またやろうかな?ふふっ♪」


 エルフの姫様は彼女に添い寝悪戯を吹き込んでいたようだ。そういう影響は受けないでほしい...


 


***



「あら♪アヤネさん、戻ってきたんですね。おはようございます」


「おはようございます!」


 転移魔術で俺とアヤネは宿にさせて貰っているメルフェス王都の国賓用迎賓館に戻ってきた。

迎賓館の玄関広間で奥の廊下からメイドさんと一緒に歩いて来たサリー姫と挨拶を交わす。

アヤネは姫様に元気に朝の挨拶をした。


「それに『見当違いのケント』さんもおはようございます。ふふっ」


「予知の特殊能力(スキル)を駆使してまで、昨日の晩の恥ずかしい出来事掘り返さないで!」


「姫様の『予知いじり』おもしろーい!」


アヤネさんは再びツボに入ったらしい。お腹を抱えている。


「これから朝食を食べようとしていたのですがケントさんも御一緒に如何ですか?」


「そうですね」


「私、汗かいたし入浴してきますね!!あ!サリーさん。そういえば例の悪戯成功しましたよっ♪」


「そうですか♪」


 そう云って小悪魔的な笑顔の儘、場を離れようとしたアヤネを引き留める。


「ちょっと待ってくれアヤネ。今日は迎賓館で1日休んで貰いたい。まずは村の土地に魔導車の工房を建てる必要がある」


「そうなんですか?」


「嗚呼。だから今日はこの屋敷で新しい魔導具の構想・案を羊皮紙にでも纏めておいて欲しい。あと魔導車の絵も欲しい。それに新しい工房の居住空間に持っていきたい物を複製しておけば後で転送する」


「分かりました!お留守番してます!!」


 彼女は軽い足取りでその長い黒髪も楽しそうに(なび)きながら迎賓館の豪奢な廊下の奥へ消えて行った。


「...彼女に何、教えてるんですか?」


 俺は金色髪の【エルフ姫】をジト目で見る。そんな視線など意に介さず姫様は優しい微笑みを浮かべている。


「良いではないですか♪彼女も出逢った頃に比べたら見違えるほど明るくなりましたね」


「それは確かに...」


「今度は魔導車を創るのですか?楽しみですね♪稀少品(レアアイテム)と云っていい魔導車が国中を駆ける事になるなんて」


 魔法技術学院のあるイルジョニアスや商業大国(バイナラ)、その近隣諸国なら魔導車も別に珍しくない。それどころか魔導飛空艇まで数隻存在している。

しかしもし国民全体にまで魔導車が行き渡るとしたら我が祖国が初となる。古代魔道具(アーティファクト)が存在していた古代文明まで遡ればまた違うかもしれないが。



「本当に実現出来たら只の『食糧庫』だったメルフェスが凄い事になるかもしれないですね」


 本当にこの十全十美のエルフの姫様は何処まで見通しているのだろう?若干、畏怖に近い感情を覚えてしまう。


「はい楽しみです♪アヤネさんがお留守番なら今日は私がお供しましょうか?」


「いえ今日は一人で故郷のレジル村に行ってきます」


「そうですか...」


 サリー姫は哀し気に目を伏せた。時に毒舌が過ぎるが普段は鷹揚として朗らかな姫様が初めて俺に見せる表情だった。

『万感予知』という特殊能力(スキル)により未来が視える姫様と一緒に行動している内に姫様には全てを見透かされているような圧迫感を俺は感じてしまった。

姫様も俺と疎遠となる未来を今この瞬間、視てしまったのかもしれない。


 そう云えば最近は姫様に距離を置かれていたような...

未来が視えてしまう自分といると傍に居る相手が気疲れしてしまうのを姫様本人も解っているから敢えて離れていたのか?

ずっと特定の誰かの傍には居すぎないよう距離を保ちながら周りと接するようになってしまったのか...

計り知れない程の人が離れていく寂しさを姫様はずっと堪えて来たのかもしれない。

あの添い寝悪戯も本当はもっと誰かの傍に居たい気持ちの表れなのか。

誰かがもっと踏み込んだ方がいいのかな?


「あの...やっぱり今日一緒に行きますか?」


「駄目ですよケントさん。私は愛憐の情で傍に居てもらうよりもケントさんと【焔闘士】アルベリス様の幸運結末(ハッピーエンド)を見せて頂ければ大丈夫ですので.....というか私は筋を通さない野郎は嫌いなんだよ!ああん!!?」


 良かった。いつもの毒舌エルフ姫だ。眉間にシワ寄せてるエルフなんて初めて見る。


「解ったらさっさと魔導車の工房作ってこい!!」


「ワカリマシター」


 寂しい顔よりはこっちの方が良いな。近くのメイドさんが姫様の豹変ぶりに怯えているけど。






読者の方からのアドバイス有難うございます。

「殉死」を「落命」に、音符はエルフ姫の台詞だけに修正しました。

音符は完全に無くした方がいいという意見が多ければまた修正します。


評価ポイント・ブックマークも本当に有難うございます。

一時的ですが日間の一桁順位(9位。12/21)が獲得できてとても嬉しいです。

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