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17.異世界少女はワンコインで魔導具を売りたい





「俺の魔導具をこの村の特産品にして売り出す?」



 衛兵としてこの故郷の村を守りながら亡くなった親父の為にどうすればこの閑村が賑わうのか、異世界から来た少女アヤネと話し合っている。

彼女の提案は旅人を集める『道の益』というものの為に俺が創る魔導具をこの村の目玉にしてみては?というものだった。


「魔導具を商売の道具にしては駄目なんでしょうか?」


 アヤネは俺がどう反応するか恐る恐る聞いてくる。


「別に駄目じゃない。でも君が女神様から授かった『無彊(むきょう)複製』という≪力≫で私腹を肥やす...とまでは云わないがその霊験を一つの村の為に寡占しても良いんだろうか?君の≪力≫はこの国、いやこの世界全体の為に活かすべきだと思うんだ」


「...世界ですか?」


 アヤネは釈然としない様子だった。

確かに召喚魔術により半強制的に()び寄せられた彼女はこの世界で散々な目に遭って来たのだから当然か。

世界規模の話となればアヤネは再び商業大国(バイナラ)の豪商貴族達と衝突するかもしれない。

流石に話が早急すぎたか。


「いいかアヤネ。君の≪力≫は正しく行使すればこの世界の人々だって必ず君を受け入れてくれる。このメルフェスの国で出会った人達は皆、君の≪力≫を喜んでくれているだろう?まずはこの村、この国から始めて君の味方を増やして行こう」


「そうですね...まずはこの村から。それでケントさんの魔導具の販売はしても良いんでしょうか?」


「良いよ。でも出来たら俺の魔導具はこのメルフェス中の人達全てに行き渡るようにしたいという気持ちもあるんだ。この村との繁栄との匙加減が中々難しいな」


「だったらこの村で魔導具の先行販売をしませんか?」


「先攻販売?」


「はい。この村で最初に魔導具を売り出してお客さんが集まった後、客足が落ち着いてから全国各地に一斉に販売するんです」


「確かにその手法ならこの村もメルフェスの民も量産魔導具の恩恵を享受出来そうだ」


「それで魔導具はどのくらいの値段で売りますか?全くの無償だと肝心の私達が生活できないですし...」


「確かにそうだが、高い値をつけるとせっかく量産した魔導具が多くの人に行き渡らない」


「じゃあその多くの人達からほんの気持ちだけお金を貰うっていう考えじゃ駄目ですか?」


「それなら魔導具一つで銅貨1枚、100ラギくらいか。銅貨1枚なら平民の人でも気兼ねなく払える」


「いいですね銅貨1枚!私の国でも『100円SHOP』っていう手頃な値段で品物が買えるお店が人気でしたし。『100円SHOP』ってわかりますか?『見当違いのケントさん』。あ、今の私、うまくないですか?あははっ」


「さっきの話を掘り返すのは止めて…恥ずかしいから…」



 もう彼女の世界独自の言葉を自分の価値観で思慮するのは止めよう。

しかし手頃な値で品が買える店が人気と云うのはこの世界だって同じだ。それはどの世界でも共通の真理と云えるだろう。


「じゃあ俺が創る魔導具でその『100円SHOP』?を開けばいいんだな?」


「『魔導具100円SHOP』なんて楽しみ!!ワクワクする♪」


 黒髪の美少女が目を爛々とさせている。これが本来彼女がこの世界でしたかった事なのだから至極当然かもしれない。

魔導具が銅貨1枚で買えるなんて『相場破壊』なんて表現を軽く超越しているが。



「どんな魔導具を創って売りましょうか?ケントさん」


「それは君が先ず、この村に必要だなと思う物から創ればいいんじゃないかな?」


「この村の生活に必要な物?...やっぱりトイ...いや一番最初にそれは恥ずかしい」


 そういってアヤネは顎のあたりに手をやり思案している。

彼女もずっと見ていたくなるような容貌をしている。


「ケントさんて温かいお湯を出せる魔導具って作れますか?」


「水魔法と火魔法の複合魔術になるが出来ない事は無い」


「じゃあ入浴...湯浴みが出来る浴槽も作れますか?私の世界だとお風呂って言うんですけど」


「魔導具の素材さえ有れば大丈夫だ。しかし人が浸かれる程の浴槽だと運搬して各地に普及させるのはかなり骨が折れそうだ。仮に馬車で運ぼうとしても二槽がやっとだ」


「じゃあ高い場所に引っ掛ける事ができる温かい雨を降らせる魔導具はどうですか?私の世界では『シャワー』って言うんですけど」


 シャワア?...しかし本当に彼女の世界は暮らしを豊かにする技術・工夫で溢れているな。

王城や迎賓館なら湯浴みできる高級浴室もある、城下町にも大衆浴場があり、街にだって銅貨数枚を払えば洗浄魔法で体を小綺麗にしてくれる≪洗浄師≫なる職業の者もいるが、俺の故郷や普通の村の人々は大抵水浴びだ。

暑い夏ならいいが、徐々に冷え込み始める秋、冬にもなれば水浴びなど到底出来ず、肌を震わせながら湿り布で体を拭うのがやっとだ。それが体調を崩す引き金にもなる。

温かい雨を降らせる魔導具が誕生し、普及すれば多くの人が助かる。画期的な発明品になるかもしれない。


 打てば響く彼女の異世界知識を可能な限り、この世界で再現出来たらどんな未来が待っているのだろう。懸想すると胸が躍る。しかし気になる事もある。


「その『シャワア』と云う物を再現する魔導具にも挑戦してみよう。さっきの浴槽の話で思い出したんだが、この村は馬車は1日2便出ればいい方で隣町へ行くにも丸一日もかかる。本当に幾ら安価で魔導具が手に入ると云っても時間や旅費をかけてこの閑村まで態々(わざわざ)来てくれるだろうか?」

 

 アヤネは再び思案している。次はどんな発想が飛び出すのだろうか?


「ケントさんって馬車より速い乗り物の魔導具を作れますか?」


 そう来たか。


「【勇者】パーティー時代に『移動住居魔導車』を創作した事はある。流石に勇者一行が馬車で旅する訳にも行かないからな。アレはとても大型で動かすには搭乗してる魔導士が魔力を流す必要があったが」


「魔法が使えない人でも運転できる魔導車って作れますか?」


「出来るよ」




「じゃあこのレジル村を『魔導車の村』にしちゃいましょう!!!私も魔導車乗ってみたいです。ふふ♪」


 そう云う彼女の笑顔は晴れやかだった。




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