16.追放魔導士、異世界少女と村興しを考える
「久々に豚肉食べれた...おいひぃ...」
俺の故郷レジル村を一望できる丘にある親父と母さんの墓参りを終えた後、俺と親父、結婚する前のエウレルが暮らしていた木造の家で俺達は豚肉料理を食していた。
故郷に帰ってきた俺と女神様の≪力≫で魔法盾を大量複製して提供してくれたアヤネの為に村長が村全体で飼育してる家畜の豚を一頭捌いたらしい。
妹のエウレルがその豚を鍋で煮たり鉄板で焼いたり料理してくれた。
【勇者】パーティーだった魔導士の凱旋と魔導具の量産と云う女神様の霊験を目の当たりにしたレジル村の人々は親睦の火を焚いた広場で歓喜のお祭り騒ぎのようだ。
亡くなった親父の件を知ったばかりの俺は気を遣われ宴の席に呼ばれずに済んだ。囲まれて酒に付き合わされるのはどうも性に合わない。
アヤネは豚肉をとても感激しながら食べている。確かに時間をかけて育み食材になるまで成長させた家畜の豚は貴重だ。貴重ではあるが高価ではない。豚だし。
冒険者の多い王都や街で出回っている食肉はその殆どが魔物の肉だ。家畜を育てるより魔物を狩った方が早い。ミニオークの肉が【エルフ姫】の好物になったように魔物の肉にも美味い肉はある。しかし彼女の世界では魔物を食べる習慣なんて無いらしい。
家畜の肉や野菜、魚に穀物・米を食べると聞いた。牧草地の牛から採れた乳を飲んだ直後はその瞳に大粒の涙を湛えていた。
「アヤネさん。私の料理は美味しいですか?」「たぁ?」
「ええ!!豚肉が食べれて感動してます!!!」
アヤネはとても感動しているが豚肉を食べれた事に感動しているようで味についての言及は少なかった。
王都や主要な街ならもっと調味物も充実しているがこの村には高価な調味物や香辛料なんて皆無に等しく、森で採れる甘い果実や微量の塩だけで味付けしている。
エウレルは赤子のレウズに野菜や芋を細かくすり潰したものを食べさせている。
この二人が安心して暮らせる村にしたい。
どうすればこの村をより豊かにできる?
エウレルは夫の食事も作らないととレウズを抱きながら帰っていった。
「アヤネ。食事が終わったら姫様がいる王都の迎賓館まで転移魔術で送るけどそれでいいか?」
「あの。今日はこの家でお世話になろうと思います...」
「寝床なんてこんなだし湯浴みも出来ないぞ」
そう云って俺は山のような乾草に白い布を被せただけの粗末な寝床の方を指差す。
「私...ケントさんの『どうやってこの村を変えるか』っていう計画に商人を目指す人間として挑戦してみたいと思いました。だからこの村の生活を知りたいんです」
「でも用を足すときは迎賓館みたいな椅子式じゃなくてそこの蓋壺だけど大丈夫か?」
女性にする質問じゃないのは解ってたが後で惨事にならないよう確認を取る。
彼女は絶句している。
「...やっぱり明日からは迎賓館と往復しながらの生活が良いです。御免なさい」
「それは仕方ないさ。でもこんな個人的な事にまで協力してくれて有難う」
「いえ...私も暫くする事無いみたいなんで...あの『どうやってこの村を変えるか』って私も考えてみたんですけど」
「何か妙案があるのか?」
「これは私の案じゃなくて私が住んでいた国『日本』での話なんですけど...」
ニホン?...二本か?何が二本なんだ?やはり≪聖剣≫や魔法剣の類か?
「私の国の...首都圏からは離れた場所で自然に囲まれながら生活している人達は『道の駅』というのを創ってお客さんを呼び込む工夫をしているんです」
ミチノエキ?...『道の益』か。確かに益を感じる場所なら旅人も訪れるかもしれない。
「アヤネが住んでる場所にはその『道の益』はあったのか?」
「いや私が住んでいたのは割と首都に近い『埼玉』なんでそこまで道の駅みたいな施設は発展してないと思います」
サイタマ?...最多魔!!彼女は魔物が一番棲息している地域に住んでいたのか?
「『サイタマ』って場所は物騒じゃないのか?危なくないか?」
「えっ?たしかに夜道は極力女一人で出歩かないようにしてましたけど...『埼玉県』って他の県に比べて治安ってどうなんだろう?」
最多魔剣!!??
なんだ彼女の地域は魔物の棲息地じゃなくて魔剣の宝庫のようじゃないか。俺の思い違いだったか。
彼女の国はどうやら『剣』をその土地その土地を区切る単位にしているようだ。誇り高い剣士国なのかもしれない。
「アヤネ済まない。俺の勘違いのようだ」
「えっ?はい...とにかく道の駅というのは野菜や伝統工芸だったりその土地その郷土にしかない特産品を全面的に押し出して売る事で観光客を集めている場所なんです」
この村にしかない特産品か...そんな物があればこの村はもっと賑わい潤っている筈だ。
どうも『道の益』の実現は容易ではなさそうだ。
「このレジルには旅人を呼び寄せるような魅力的な特産品は無いかもしれない。至って普通の凡村だ」
少し落胆した俺の顔をアヤネはじっと凝視している。どうしたのだろう?
「あの...ケントさん、前から思ってたんですけど私の世界の事、何か勘違いしてませんか?埼玉県ってどんな所だと思ってます?」
「何って?魔剣が多い土地柄なんだろう?」
「え?」
「え?だって『最多、魔剣』なんでしょ?」
「…ケントさん寒いです」
今は夏なのに?
***
「やだーもう。ケントさん私の世界を勘違いし過ぎててお腹痛い!!あはははは!」
どうやら俺はアヤネの世界の事を大きく誤解していたようでアヤネの木造小屋の板敷を寝転がりながら笑っている。
それにしても笑い過ぎた。爆笑しているアヤネを見てると顔の表面が恥ずかしさで紅くなってきた。
「あのーアヤネさんちょっと笑い過ぎじゃないか?」
「だってケントさんったら澄ました顔で『アヤネ済まない。俺の勘違いのようだ』って言いながら頭の中は『埼玉県は最多魔剣』なんですもん!ふふふっ」
爆笑しているアヤネを見てると顔の表面が恥ずかしさで熱くなってきた。
あと彼女の世界ではつまらない話の事を『寒い』『統べる』と云うらしい。
たしかに統率者の言葉は慇懃で機智に富んでいるとは言い難いがつまらない話の比喩に『統べる』を用いるのは不敬罪にならないだろうか?
彼女の世界の為政者は軽んじられる存在なのかもしれない。
「アヤネそろそろ『道の益』の話に戻ってもいいだろうか?」
「あはは。そ、そうですね。すいません。笑い過ぎました。あっ。今見たらケントさんのステータスに『世界を跨ぐ勘違い男』って称号が加わりました。もうやだー。あはは!」
いつの間にか俺には不名誉な称号が天賦されたらしい。
『サイタマケン』を最多魔剣と勘違いするのはそれ程恥ずかしい事だったのか...くっ殺せ!
「ところでそのステータスは誰が管理しているんだ?」
「誰ですかね?やっぱり女神様?」
こんな恥ずかしい称号じゃなくて【加護】を下さい女神様!!
12/22 加筆修正しました。アドバイス・評価・ブックマーク本当に有難うございます。




