14.追放魔導士、譲ってはいけない物がある
「ほぉ...女を渡さないとは少しは云うようになったじゃねえかケントの野郎」
異世界からやってきた女神様から授かった神力の持ち主の少女、トモエ・アヤネを巡って
祖国メルフェスの二大英雄、冒険者ギルド、商業ギルドマスターであるダグラスタ&マリリノ元夫妻と対峙していた。
「そっちの子も安心して。貴方の事を『渡さない』なんて啖呵切った男の傍から引き離すなんて野暮な事はしないわ。ね。」
アヤネは【氷艶闘女】の言葉に少し安堵したようだ。
「その代わり全て包み隠さず話して頂戴。ケント。ん。」
「そうだ。一体全体どういう絡繰りで国中に魔法が込められた魔導具をばら撒くなんて絵空事を遣って退けた?」
「解りました...全て話します」
それから俺は【勇者】パーティーを追放になった際、何故か『万感予知』の【エルフ姫】サリーティスが俺について来た事。
【エルフ姫】に導かれ、好戦国バルツァの召喚魔術で異世界からやって来たと云うアヤネとメルフェスの城下町で出逢った事。
彼女は女神レミールから願いを聞かれ、『無彊複製』という超特殊能力を授かった事。
バルツァを離れ、商業大国バイナラで≪力≫を使い商人をしようとしたらアヤネは豪商貴族達に命を狙われる事になってしまった事。
俺が創った魔導具を彼女の『無彊複製』で大量複製可能だった事を全て話した。
「召喚魔術で異世界から来て女神と謳われる存在と対面したとか信じろって云われても中々難しい話してくれやがるぜ」
「そうね...でもこの紅いギルドカードを見れば虚言でなく事実みたいね。『相場破壊者』なんて言い得て妙ね。彼女を恐れて危険視する人間が出て来るのも頷けるわね。ん。」
「...メルフェスも彼女を『排除』するんですか?」
恐る恐る英雄二人に訊いた。答えを聞く前に更に俺の心情を付け加える事にした。
「彼女は他国でずっと傷ついてきました。そんな彼女に対して俺はこのメルフェスでは辛い思いはさせないと誓いました。【勇者】パーティーの一員だった者として約束を違える事は出来ません。譬え御二人を敵に回そうともそれだけは譲れません。≪力≫を持つ彼女が心穏やかに暮らせるまではこの工房で守ります」
俺の主義主張を英雄二人に伝えるとぽかんとした後、二人はお互い見つめ合い、笑い合っている。
こういう光景を見ると二人が嘗て愛し合った伴侶同志である事が感じ取れた。
「まさか。こんな面白い子を排除する訳ないじゃない。商業ギルドは大歓迎するわ。...ただ彼女の≪力≫を活かす環境を整えるのに時間が欲しいわね。ん。」
「馬鹿野郎。冒険者ギルドだってお前達が創る魔法盾、特に魔法が使えなくても回復できる『回復盾』はギルドに通う冒険者連中も欲しがってるんだよ!」
祖国の英雄二人は寛大だった。メルフェスの為に彼女が必要だと云ってくれた。
それに俺の魔導具を冒険者達も欲しがっているというのはこの上ない僥倖だった。冒険者の殉死者も減らせるかもしれない。
「それにお前達を引き合わせたのはエルフ族の姫様なんだろ?あの若造陛下だって手出し出来ないんじゃないか?」
そう云えば若き国王ブルスケッタはサリー姫が既に懐柔済みだった。
本当にあの【エルフ姫】は何処まで見越しているのだろう?
「まあこれから各所と調整しないといけないから暫くは彼女の≪力≫を行使するのを控えてくれれば何も問題ないわ。安心して。ね」
「良かった...」
アヤネは心底安堵しているようだった。
このメルフェスでも異端者・破壊者扱いされていたらエルフ族に保護を訴えていたかもしれない。
「アヤネ...だったわね。貴方も漸くいい男に辿り着けたと思うわ。ん」
「そう...かもしれないですね...」
彼女はなんとも言えない微妙な表情をしていた。悄然とした様子だ。
「あとケント。お前の魔法盾の事なんだが」
「何です?」
「アレは最初に込めた魔法が切れたらどうするんだ?」
「付与魔術を使えばまた新たな魔法を追加使用出来ます」
「それはお前やそこの助手二人がこれからメルフェス各地を巡回補給し続けるという事か?」
「確かに3人だけだと厳しいですね...」
「だからお前にこのメルフェスの魔導士達にその付与魔術を指導して貰いたいんだよ」
指導者の誘いを受けてしまった。これを受けるとそればかりになってとても魔導具創りなんて出来る無くなるのが容易に想像できる。丁重に断りたい。
それとずっと気になってた疑問をダグラスタに尋ねる。
「そもそもどうしてこのメルフェスには付与魔術が存在して無かったんですか?」
「メルフェスから魔法学院があるイルジョニアスまで途方もない距離があるしあの国へ行くには、厄災級まで行かなくても強力な魔物達が棲む森や谷を越えなきゃならんからな。なにより旅をするのに金がかかる。仮に辿り着いてもイルジョニアスや商業大国の方が居心地良くて永住して帰ってこない。お前みたいに転移魔術覚えて悠々移動なんて誰でも出来る訳じゃない。それに付与魔術は習得しなくても生きていけるしな」
「そうですか...」
「指導を引き受けてくれるか?」
「付与魔術の指導だけなら俺の一番弟子のライラに任せます」
「!!!!!!」「ちょっと待ってください!!一番弟子なんてそんなの初耳ですけど!!」
ずっと後ろで縮こまりながら棒立ち状態だった双子兄妹が大声を挙げる。
「彼女ライラはとても優秀な魔導士なので指導に関しては彼女を任せたいのです」
「無理無理無理無理...」「ライラには荷が重すぎますよ師匠!!」
ライジ。妹が自立しないとお前の結婚式が大変な事になるぞ...
「まあお前にも考えがあるんだろう。そっちの娘、近いウチに冒険者ギルドに来てくれ。今日の話は以上だ。もう帰る。メネ!ライ!何処だ!?」
「じゃあ私もこれから各所調整が忙しくなるから暫くお別れねアヤネ。ん♪」
「あの...有難うございました...」
アヤネは【氷艶闘女】に深々と礼をしていた。
「私は女神様の力の霊験でこのメルフェスを豊かにしたいと思っただけよ。勿論アヤネの事も豊かにしてあげたい。違う世界から来た貴方にこの国まで嫌いになってもらいたくとも思ったわ。でも暫くの間は貴方の≪力≫使わないで貰えると助かるわね。ケントもじゃあね」
そうして冒険者ギルド・商業ギルドのマスターは魔導具工房を後にした。
「それでどうなりましたか?」
猫耳、兎耳娘を何処かへ連れ出していた金色髪のサリー姫が工房に戻ってきた。
特徴的な耳が隠れる布帽子を被っていた。
「暫くは魔導具の量産提供は控えて欲しいそうです」
「そうですか。ではケントさんとアヤネさんに『あと1ヵ所』だけ魔導具配りの旅をして来て貰いましょうか♪」
「え?...もう盾は全部配り終えたんじゃないんですか?」
アヤネは不思議そうにしていた。やはりこの【エルフ姫】は何処までもお見通しらしい。
「ええ♪『あと1ヵ所』あります。ケントさんの故郷の村へお二人で行って来て下さい♪」




