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12.異世界交流は難しい?





「昨日はよく休めた?トモエ・アヤネさん」




 【エルフ姫】に導かれて出逢う事になった、他国の召喚魔術で異世界からやって来たという黒髪の少女は俺とサリー姫が暮らす新居で暫く居候しながら魔導具創りを手伝う事になった。

異世界少女との出逢いから一夜明け、今朝は新居の屋敷の中の皆で食事する晩餐室にいる。

食事をする人数に合わせて自在版(リーフ)を自由に出し入れできるドローリーフテーブルには清白のテーブルクロスが引かれ、少し紅い色合いの高級椅子に俺達は腰掛けている。


「...昨日は久しぶりによく眠れました。有難うございます」


「困った事があったら給仕のメイドさん達にお願いするといいよ」


「本場のメイドさんにお世話してもらえるなんてお嬢様みたいで嬉しいな」


「本場のメイド?」


「私の世界のメイドさんは『萌え萌えキュン♪』とか言う感じなんで...」


 燃え燃えキュン?彼女の世界のメイドは攻撃魔法も使える戦闘系なのか


「...それにしてもこのお屋敷凄くないですか?ケントさんが自腹で建てたんですか?」


「いやこの屋敷は王国が用意した国賓宿泊用の迎賓館だよ。一時的に借りてるだけ」


「国賓ですか?」


「今この国にはエルフ国の皇女様がいるからね...」


 この晩餐室だけでも貴重な骨董品や甲冑と、煌びやかな装飾品が陳列されている。

【勇者】パーティーが拠点にしていた屋敷も更に豪奢で気後れしてしまう程の屋敷だった。

史上最高格の国賓と云えるエルフ族の姫様と一緒じゃなければとてもこんな体験はできなかっただろう。



「なるほど...こんなセレブ...お金持ちの貴族みたいな暮らしをしてみかったんですよね私。女で戦闘なんて無理だし、だから女神様に戦闘とは関係ない生きていく為の≪力≫をお願いしたんですけど...」


 彼女の世界では金持ちの事をセレブと呼ぶらしい。若かったら皆一度は豪奢な暮らしをしてみたいと憧れるものだ。

しかし億万長者になるには彼女が女神レミールより授かった『無彊(むきょう)複製』という≪力≫は冠絶過ぎた。

彼女が希望している商人としてこの世界でやっていける道もこれから模索しないといけない。



「おはようございます。ケントさんアヤネさん♪」


 金色髪の【エルフ姫】は朝からメイドさんを伴って湯浴みをしたみたいで爽快な様子だ。

窓から射し込む朝陽に映えているサリー姫の一つ一つの挙措がこの豪奢な迎賓館の雰囲気にも負けず劣らず相応しいもので流石一国の王女だと感じさせる。


「アヤネさんも湯浴みは如何ですか?気持ちいいですよ♪」


「私は昨日の夜、入浴させてもらったので大丈夫です...」


昨日の湯浴みをして体や髪を綺麗に洗えたようで初対面の草臥(くたび)れた雰囲気は消えていた。

それどころか上々の美少女だと思う。今の彼女を見たら求婚する男も出て来るのではないか。

しかしメイドさん達があつらえた服は着ずに今も紺色の変わった衣服を着ている。まだ元いた世界への未練が残っているようだ。


「あの...ケントさんと姫様ってそういう関係なんですか?」


「そういうって?」


「メイドさん達も話してたし、今朝、同じ部屋から出てきましたよね?」「ふふふ♪ただの悪戯ですよ♪」


 サリー姫が思わせぶりな態度を取るから彼女も誤解しているようだ。

朝起きると同じベッドに潜っているアレは悪戯でも添い寝でもなく俺が夜遊びしないようにする為の監視なのだと最近気づいた。


「違うよ。恋仲ではないから」


「それじゃセフレ...いえなんでもないです」


 彼女は少し頬を紅くしていた。

セフレ?先程のセレブの類義語のようなものだろうか?

どうも彼女は俺と姫様が事に及んでいると訝しんでいる。話題を変えよう。



「俺もできたらいつかはこんな豪奢な屋敷を自前で建ててセフレ生活してみたいよ」「...」


 この人最低...みたいな軽蔑が入り混じった眼で見られた。何故だ?


「安心して下さいアヤネさん。ケントさんにはアルベリス様という想い人がいらっしゃるのです。だから他の女性に目移りしたりしませんよ♪」


「そうなんですか?」


 サリー姫は初めて否定らしい『否定』をした。


「本当だよ。だからサリー姫とは何も無い。遊びに行かないように見張られてるだけだよ」


「まあ人聞きの悪い♪添い寝だけでは御不満ですか?」


「は?」


「エルフ国の皇女の夫になって頂けるのでしたら夜伽の御相手をしても宜しいのですよ?」


 お前にそんな覚悟ないだろうと完全に揶揄(からか)われている。


「有難く添い寝させて頂きます...」


「本当に臆病(チキン)...」


 反論はしない...


「冗談はさておき、朝食にしましょうか♪今日のお肉もとても美味しいです♪」


「本当にこのお肉美味しいですね」


「アヤネさんもミニオークのお肉の味、お好きですか?」


 それを聞いた途端、彼女は顔面蒼白になった。まだまだこの世界に慣れるには時間が必要なようだ。



   ***



「今日から暫くの間、魔導具創りを手伝って貰う事になったトモエ・アヤネさんだ」




「ライジです!宜しくお願いします!!こっちは双子の妹のライラです」「宜しく宜しくお願いします...」


「初めましてトモエ・アヤネです。暫くお世話になります。アヤネでいいです」


「じゃあこっちもライジ・ライラでいいですから。アヤネさんその服、変わってるけどなんて云うの?」


 双子の兄ライジが興味津々といった感じで彼女の衣服の質問をした。俺もずっと気になっていたが切り出せなかった。


「これは『ジャージ』って言います。運動着ですね」


「その『ジャージ』の端に縫い付けてある、このギザギザは何なの?」


「これは『ジッパー』って言って、こう合わせて引き上げると一気に上まで服を閉じる事が出来るんです」


 そう云った彼女は紺色の衣服を端を合わせて金具?を摘まんだと思ったらソレを一気に首元まで引き上げた。

衣服はシャッと金切り音を立てた後、見事に接着していた。


「なにこれ凄い!!!」「驚愕驚愕」「まあ♪」「驚いたな」


 彼女が生きていた世界の文明の方が叡智に優れ発達しているようだ。彼女からしたらこの世界は不便で生きにくいのだろう。


「別に私がこのジャージを作った訳じゃないので...あの私は何を手伝えばいいんですか?」


 彼女は照れ臭そうに話題を変えた。


「嗚呼。君の『無彊(むきょう)複製』の≪力≫でこの魔導具工房で創った『焔矢盾』と『回復盾』を複製して欲しいんだ」


「分かりました。数はどのくらいにしますか?」


「このメルフェスの全ての街や村に普及させたいから最終的には数千を超えるかもしれない。出来るかい?」


「じゃあこの盾をとりあえず10枚ずつ複製(コピー)してみます」


「これからアヤネさん、何するんですか?」「複製複製?...」「見てれば解りますよ♪」



 そう云った彼女は作業台に置いてある『焔矢盾』『回復盾』に両手を(かざ)す。


『複製≪焔矢盾×10 回復盾×10≫』


 魔導具工房は暖かな黄色い光に包まれた後、大量の魔法盾を出現していた。

突如現れた魔法盾20帖は作業台の上に収まり切らず、金属音を立てて床に落ちてしまった。


「魔導具が一気に増えた?...すっげええええぇぇぇぇええ!!!!」「阿鼻阿鼻叫喚!」


 双子のライジ・ライラは眼前の不可思議な現象に興奮しているようだ。



「これがアヤネさんの特殊能力(スキル)ですか!!??なんて凄い人連れて来たんですか師匠!!!」「流石流石師匠」


「彼女を連れて来たのは姫様だけどな。それにしても魔法盾に込められていた魔法や暴発予防の制限術式まで再現されてる。これならメルフェス全土に魔導具を配る事だって出来る」


 これが女神様が授けた≪力≫の霊験か。パーティーを追放(クビ)になった後の目標が実現しそうで高揚感を覚えた。


「本当に素晴らしいです♪でもこの場所で数を増やしてから運ぶのですか?」


「確かに現地に行ってから複製した方がいいかもしれないですね。アヤネさんにも同行して貰う事になるけどいいかな?」


「それって馬車とか移動するんですか?...」


「いいや転移魔術、それと有翼一角獣アリコーンで空を翔ける」


 転移魔術に空を跳ぶと聞いて彼女はギョッとしている。


「ケントさんの有翼一角獣アリコーン、とても素敵ですよ♪」


「俺も一度乗せて下さいよ~」「兄さまが乗るなら私私も...」


「一度にそんなに乗れないから」「では今回は私はお留守番してます♪」


「移動が辛くないならお付き合いします...」


「じゃあ明日から魔法盾をこのメルフェス中に配りに行こう。ライジ・ライラは複製した『回復盾』を王城に献上しに行ってくれ」


「了解しました!!!!アヤネさんこれから宜しく!」「アヤネヤネ宜しくね...」


「君と歳が近いライジ・ライラと友人になれそうかい?」


「多分...でも双子の妹の方のライラさん、大丈夫なんですか?」


「何が?」




「彼女のステータス、『兄さまの結婚式はぶち壊す』って表示されているんですけど」


異世界千里眼で心の闇まで覗かないで!依存娘ライラをどう自立させようか...



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