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10.追放魔導士、異世界少女に出逢う





「えーと...どうしようか?...」





 【エルフ姫】に導かれ城下町の緑の憩い広場で変わった衣服を着ている黒髪の女の子、トモエ・アヤネと出逢った。

今は俺の魔導具工房の一室で机を挟んで椅子に座りながらその子と対面している。

白磁のコップに注いだ果実水を彼女は一気に飲み干す。



「俺の事怖い?」「....」



 そう質問すると彼女は体をビクリとさせる。未だに警戒は解けていない。表情も晴れない儘、どこか悄然としている様子だ。

彼女も何を話そうか思案している様で会話してても要領を得ない。



「長旅で疲れただろうから今日は俺の住居に泊まっていくといい」



 彼女の様子を見てたらまず必要なのは休養なのが一目瞭然だった。


「...有難うございます...あの。そちらの女の人ってエルフですよね?それもお姫様。どうして姿を変えてるんですか?」


「なっ!!?」「まあバレちゃいました♪」


 彼女は俺の隣に座っているサリー姫に掛けられている認識阻害の魔術を見破っていた。メルフェスに流れて来た只の商売娘では無かった。


「君は鑑定魔術が使えるのか?」


「魔法というか...ステータス?が普通に視えるんです」


 一見普通の女の子にしか見えないが魔眼や千里眼の類をその黒い瞳に宿しているのか。


「君はいったい?...」


「それは...」


 どうも彼女は俺に自分の事を打ち明けるのに抵抗があるようだ。俺の隣のサリー姫が彼女に助け舟を出す。


「ではエルフ国の皇女である私、サリーティス・アメルに全てを打ち明けて頂けますか?何か嫌な事が起きればアヤネさんの事は我がエルフ国キュリーメイズが必ず保護致しますので」


「エルフの国で保護...ですか?...」


 彼女はどこか安堵したような、でも戸惑ってもいるといった感じだ。

確かにエルフの国なら身の安全は保障してもらえるかもしれないが人族が一人でエルフ族の世話になり続けるのは肩身も狭くあくまで最後の手段といった処だ。

しかし彼女の酷くくたびれた様子を見ていたらとてもこれ以上の商売旅が出来るようには見えなかった。


「...分かりました。話します」


 彼女は決心したようだ。


「じゃあ俺は席を外しますね」


 同性同士二人で話した方が良さそうだった。


「いえ。ケントさんも同席して頂きます」「できたらサリーティスさん一人に聞いて貰いたいんですけど...」


「アヤネさん、こちらのケントさんは最近まで【勇者】パーティーの魔導士としてこの世界の人々の為に闘い続けた大変高潔な方です」


「...どうして【勇者】のパーティーを離れたんですか?」


「単に実力不足で追放(クビ)になった落ち零れだよ」


「【勇者】パーティーを追放(クビ)になる事なんてあるんですね」


「お蔭でこの祖国に帰ってくるの滅茶苦茶怖かったよ」


 初めて彼女の表情が綻んだ気がする。俺の追放(クビ)話で綻ぶのはやめて欲しい。


「それに少なくても(みだ)りに女性を傷つける事は絶対にありません。エルフ族の王女が保証しますよ♪」


「たしかにケントさんのステータスには『対女臆病(チキン)』って記載されてますね。ふっ」


 なにその千里眼。


「とても的確で素晴らしい分析能力ですね♪ふふ♪」


二人の女性が俺を出汁(ダシ)に打ち解け始めている。さっきまでの暗澹たる雰囲気よりはまあいいか。




「では話して頂けますか?アヤネさん」


「話すと言ってもまず信じてもらえるかが微妙なんですよね」


「それはどういう?」



「私...別の世界から来た召喚者なんです」



「召喚者ってこの世界の人間に召喚魔術で()ばれたって事?」


「正確には向こうの世界で一度死んでしまってこっちの世界に転移する事になったというか...」


 彼女の告白はまるで古代の伝承やお伽噺の世界が体現されたようなもので現実感が全く沸いてこなかった。言葉が出ない。


「どうして向こうの世界で亡くなられてしまったのですか?」


 呆気にとられる俺の代わりに姫様が尋ねる。


「早朝に部活の朝練でバスに乗ったら、そのバスが事故を起こしてしまって...それで私の人生は一度終わってしまったみたいで...」


 ブカツ...武活?朝練?バス?...怪魚(バス)の事か?怪魚に乗るなんてそりゃ事故も起きるだろう。


「気づいたら女神様と対面していて≪力≫を授けるかわりにこれから行く異世界を救ってもらいたいって言われました」


 女神様と対面した?もう俺なんかの思考回路ではとても咀嚼できない事象だ。


「まあ女神レミール様と御逢いになられたのですか♪」


「はい。たしかそんな名前だったと思います。圧倒的な美しさだった記憶しかないです。あと覚えてるのは今の【勇者】はすっかり色欲魔に堕落してしまったから異世界への召喚魔術を認める事にしたって言っていました」


 ずっと旅をして来た仲間(勇者)が女神様に見限られていたという事実はただただ哀しかった...


「それで君はどこの国の魔導士に召喚されたんだ?優秀な魔導士が多く、魔法学院もあるイルジョニアスって国かい?」


「いえ...バルツァっていう国でした」


「バルツァかぁ」


 バルツァという国は血の気の多い傭兵や戦闘狂が集まっていてとにかく好戦的な国だ。強さが正義。あと男尊女卑の傾向が強い。鼻っ柱の強い女性がいても徹底的に自分が『女』である事を叩きこまれるらしい。【勇者】パーティーとしてバルツァに訪れた際は、そんなバルツァの風潮に激怒した【雷双剣姫(ラティーナ)】がバルツァの戦士達相手に大暴れしたっけな。

今は魔族や魔物を退けるのに躍起になっているが、【勇者】が【魔王】を葬り平和が訪れればいずれは他国や獣人族に戦を仕掛けるだろうとまで言われている国だ。

そんな厄介な国がここ数百年は成功していなかった異世界からの召喚魔術を成功させたのか。


「バルツァに召喚されたって君一人なの?」


「私を入れて5人です。皆同じバス事故で死んでしまった学生や運転手さんです」


 怪魚なんて操ろうとするから大事故じゃないか。


「それにしても君一人でバルツァからこのメルフェスまで旅してきたの?かなり距離があるぞ」


 この質問は地雷だったようで明るさを取り戻しかけた彼女の表情に再び影が差す。


「あの国は戦闘要員にならない、商売がしたかった私に支度金を渡して近くの商業大国へ送り出してくれました。その商業大国で失敗してしまって...」


「失敗っていったいどんな?」


「...それは私の≪力≫を見た方が早いと思います。すいません。さっきの美味しいお水、もう一杯頂けますか?」


 そう云われて彼女の手元に白磁のコップに果実水を注ぎ込む。

すると飲もうとはせず、両手を(かざ)している。すると黄色い暖かな光が彼女の両手から放たれ、瞬きした次の瞬間には白磁のコップが3つ置かれている。増えた!!??


「飲んでみて下さい」


 そう云って彼女に差し出された白磁のコップの中の果実水に恐る恐る口をつける。美味しい...




「...これが女神様から貰った私の超特殊能力(チートスキル)無彊(むきょう)複製』です」


どうして俺の前に女神様の使徒が!?チートスキルって何!!??




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