第七話:忍び寄る影 なんと!世界は狙われていたのだ!
作者はチートを駆使して周りの人がほんわかしているのが大好きです!
とはいえ、まあ、戻ってきてくれたことはめでたいってことで、シャルルの歓迎(妹の強硬な主張により、我が家が滞在先になった)ということで、夕食は豪華だった。久々の和食なので食いまくった。ただし、シャルルの歓迎会がメインだった。
ある程度、食べ終わってから、隅っこでちびちびやってたら、豊さんがやってきた。
「改めておかえり」
コップを差し出してきたので、再度乾杯する。聞けば、今年の4月に転勤になり、こちらに越してきたそうだ。近くのアパート(徒歩10分)に住んでおり、今日はうちの両親に食事に誘われ遊びに来たそうだ。
「すみません、騒がしくしちゃって」
「なんだかんだ言っても、みんなあんまり口には出さなかったけど、心配してたんだよ。今日の騒ぎはその裏返しだよ」
そうなのか、やっぱり3年というのは長かったんだな。聖王国王室とためはるレベルの善人である義兄が言うのだから間違いないだろう。
そのあとも取り留めもないはなしをする。ちなみにほかのみんなはシャルルを中心に外国(ということになっている異世界)の話をしていた。この世界には魔法はないと言い含めていたおかげで、問題はなさそうだ。
「ところで葵君、さっきの話だけど、君は嘘はついてないね?」
話を蒸し返されるとは思わなかった。が、どうやら、つっこみを入れるために蒸し返したわけではないらしい。しかも、信じてくれるのか?
「嘘をついたつもりはないですが」
病院行きだけは何とか避けることができたが、誰も信じてはいなかったようにしか見えなかったが・・・。
「まあ、普通に考えれば、君の妄想として締めくくるのが一番簡単なんだけど、君とシャルル君、明らかに身のこなしが違うくらいは僕でもわかるよ。おまけに明らかに以前と体格違うし」
すっかり、戦いの日々が身についてしまったが故だろうな。シャルルも俺も無意識に隙を出さないように動いている。それに気付くとは何者だこの人。たんにマッチョになった点を指摘しただけかもしれんが。
「異世界、とおいうのはにわかに信じられないけど、大変な思いをしてきたのは分かるよ」
「まあ、本が10冊はかけそうな大冒険はしてきましたが」
「ぜひ聞きたいところだけど長くなりそうだから、それはまたにするとして、ところで魔法とか使えるようになってないの?」
そうきたか。俺は魔法は使えない(シャルルは多少使える)、戦いで得たものは強力な肉体に全振りされている。
「魔法は才能無くて覚えられませんでした。異世界に行った証明という意味ならジャンプでもしましょうか、10m位なら軽く行けますよ」
「幅跳びで?」
「高跳びです」
「棒高跳び?」
「普通のです」
「見たい!」
宴会をこっそり抜けて、庭で見せてあげた。すごい羨ましそうにしてたから、2回目はおんぶしてジャンプした。その後せがまれて10回ほど繰り替えしたら酒がまわってヘロヘロになってしまった。結構揺さぶられるからなあ。ごめん、酒飲んでること考慮してなかった。
「大丈夫ですか、豊さん?」
「だ、大丈夫。ウプ。ちょっとごめん」
トイレに行ってしばらくしたら戻ってきた。○○○(自主規制)いたらすっきりしたようだ。その眼はキラキラしている。そういえば、この人、漫画やアニメ好きだったな。現実に10m飛ぶやつが目の前に現れて大喜びのようだ。
「すごいよ葵君。人間鍛えれば、何でもできるんだね!」
落ち着いてください。
「いえ、ただ鍛えればよいというわけでは・・・。俺の場合は異世界に飛ばされたりいろんな状況が重なった結果ですから」
「それでもすごいよ。僕は家庭があるから異世界召喚されると困るけど、夢が広がるなあ。ちなみにシャルル君も同じことできるのかい?」
「ええ、単純な身体能力なら俺のほうが上ですけど、だいたい同じことできますよ。あと、信じてもらえてうれしいですが、できればこのことは内密にお願いします」
「どうしてだい?」
「うちの家族は同じようにやったらさすがに信じてくれるとは思いますが、今後のことを考えてです。シャルルはいずれ2つの世界が手を取り合って反映していくことを願っています。しかし、初めて異世界から来た人間が、人類の限界を超えた超人。そんな奴らと仲良くできるのか?いずれ牙をむいてくるんじゃないのか?そう考える人間は少なくないと思うんです」
「確かに、一個人として君たち2人に勝てる人間がいるとは思えないね。まあ、君たちと同じように常識を突破してる存在がいないとは限らないけど」
「まあ、いるかもしれませんが。ともかく、俺やシャルルのような存在はあちらの世界でもイレギュラー中のイレギュラー。一握りどころか一つまみもいません。異世界人の尺度をシャルルや俺レベルで固めないための措置です」
「分かった、そういう考えなら協力させてもらうよ。ただ、たまにでいいから、またさっきのをやってよ」
「夜か人里離れた山の中でよければ」
事情を知ったうえで協力してくれるのは心強い。信頼できる人だし。唯一のネックは、姉ちゃんの尻に敷かれて発言権が弱いことだな。
そのあと雑談に戻ったところで、甥(姉ちゃんと豊さんの子供)の翔がやってきた。前会ったときは5歳だったから、今は8歳か。あっちは女性人中心だから飽きたのかな。他の男は父ちゃんしかいなかったし、父ちゃん早寝早起きだから、風呂入って寝るって言っていなくなっちゃったからな(翔を風呂に誘ったが断られてしょんぼりして風呂に行ってた)。
「久しぶりだな翔、俺のこと覚えてるか?」
「そんなに子供じゃないよ、葵兄ちゃんのことくらい覚えてるって」
子ども扱いが気に障ったらしい。そんな年頃か。
「すまんすまん、爺ちゃんと一緒に風呂に行かなかったのか?」
「そんなことよりもさ。葵兄ちゃん、さっきのすごいな」
………。見られてた。どうごまかそうか。
「ああ、あれは・・・鍛えたんだ、この3年間で」
「いや無理でしょ」
8歳に突っ込まれてしまった。完全に嘘ってわけじゃないんだけどなあ。ではいっそ、とことんまで突き詰めるか。
「ただ、鍛えるんじゃなくて、悪の組織と戦っていたんだ。ほら、日曜の朝にテレビでもやってるだろ?」
「あれはテレビだよ葵兄ちゃん」
ますます不審な目で見られたが気にしない。
「あれはもちろん作り物なんだけど、元のモデルになったものがきちんとあるんだ。悪いことをしたら警察に捕まるだろ?」
「うん」
「でも、テレビに出てくるような敵が出てきたら、警察では対抗できないだろ?」
以前に特○戦隊なんてのがいたが、生まれる前だからきっと知らないだろう。
「パ○レンジャーは戦ってるよ」
「え?また警察ものやってるの?………ま、まあパ○レンジャーはともかく警察に協力して、ああいう悪い奴を捕まえるため、辛い訓練を受けて、選ばれたうちの一人が俺なんだ!あ、あっちのシャルルもね」
「嘘くさいけど、すげーー!」
「内緒にしといてくれよ。敵にばれちゃだめだから。内緒にしといてくれたら、大人になったら、訓練受けられるようにしてあげるから」
「ほんとに!?」
「ほんとほんと」
こうしてなんとかピンチは切り抜けた。自分もヒーローになるチャンスがあると喜んだ翔は本当に内緒にしていてくれた(普通ならごまかされないんだろうけど、証拠付きだったしね)。
もう少しおおきくなったとき、状況が許せば聖王国への日本側の架け橋として留学なんかに行かせられたらいいな、なんてのんきに考えていた。
しかし、これからしばらくして、俺は人生で2回目の<口は災いの元>という、因果応報を味わうことになる。人間正直に生きるのが一番だ。しかし正直話すと、ほぼ信用してもらえない。どうすりゃいいんだ・・・
戻ってきて数週間たった。いままで完全に情報が遮断されていたので、ひとまずはもろもろの手続きに奔走することとなった。
まずは、役所、警察などの対応には数日かかった。面倒ではあったがやむを得ない。行方不明だったんだし。以前に住んでいた会社借り上げのアパートはもちろん引き払われているので、しばらくは実家で生活することにした、シャルルもいるし(元は姉ちゃんの部屋:現物置を掃除して住むことになった、ついでに俺の部屋も片付けてくれた、ありがたい)。
あんまり関係ないが、妹のクミも就職してから通勤に便利な場所に部屋を借りていたが、戻ってくることにしたらしい。『兄さんが心配だから』ってことで。いや、分かってるよ、君の目的は。あそこまで肉食なら、もうめんどくさいし放っておこう。
そして、携帯も契約しなおしに行った。スマホとガラケーを1台ずつ契約した。スマホは俺、ガラケーはシャルル用である(もっとも契約者はどっちも俺だ)。
両方スマホにしようとしたが、よく分からないしこちらのボタン付きのほうがいい、との本人の主張によりガラケーになった。ラ○ンIDがどうのこうのと言われていた気がしたがどうしようかな。まあ、そのうち考えよう。
なお、言語問題については、俺が異世界に飛ばされた際に、以前の旅の途中でそれぞれの文字を教えあっていたおかげで、ひらがな、カタカナと簡単な漢字は読めるようになっているので、とりあえずうちの家族の番号をひらがな表示で登録しておいた。
契約とその後の電話とメールを使えるようにする特訓でこれも終日かかった。おかげで何とか電話とメールはできるようになった。
空いた時間は、環境に慣れさせるため家の周りを散歩させることにした。俺が手があかないときは、翔とその妹のこころが付き合ってくれた。
こころはシャルルに初恋中らしいと姉ちゃんから教えてもらった。確かに俺が連れ歩けるときも欠かさずついてくるな。
てっきり途中のコンビニで買うアイス目当てかと思ったが違ったようだ。見ていて大変微笑ましい。春日さんにもクミにも見習っていただきたい。シャルルにもまずは子供からリハビリさせることにしたので、そのままにすることにした。
田舎ではあるが、電車+バスで1時間で政令指定都市の中心地まで行けて地価も安いので、最近は少しずつ開発が進んでいるらしいが、昔ながらの商店街(といっても郵便局も含めて6軒しか店ないけど)とそこから少し離れたバス停前にコンビニがあるくらいなので、はっきり言って何もないと言っても差し支えない。それでも、異世界育ちには十分珍しいらしい。
しかし、一番熱心に見てたのは意外なことに畑だった。その辺のじいさんばあさんを捕まえて熱心に聞き入ってた。後で本人から聞いたが、荒れ地に強い作物や、開墾方法を聞きたかったらしい。
はじめは外人だ外人だと逃げ腰だったじいさんばあさんたちだったが、まじめで農作業も喜んで手伝うシャルルはたちまち人気者になってしまった。その辺をぶらついていたら差し入れということで余った野菜ををいろいろもらうようになったのはそのせいか。
そろそろ、俺の行方不明の間のもろもろの問題も片付いたので、行動範囲を広げることにした。
落ち着いてきたら、さっさと働けと言われそうなので、なるべく外に出るようにしておこう。リーマンが3年近くの間、命がけで世界を天秤にかけた戦いを繰り広げていたのだ、少しくらい休ませてくれ。幸い持って帰ってきた報酬にもらった財宝の一部をうまく換金できたのでしばらくはなんとかなるし。
そうして、久方ぶりに出てきた市街地、と言っても俺はもろもろの手続きで、ちょこちょこ来てたんだけど。
あんまりきょろきょろしないように、と言っているが無理だろうな。日本人には見えないから、旅行に来た外国人と、そのガイドということでそれほど不審には見えないだろう。最近は外国人観光客も増えてきたし。
適当にぶらついていたら、昼時になってきたので、食事をとることにした。ずっと和食だったシャルルのためにおしゃれなカフェに入ったらテラスに誘導された。客寄せしろってことですね。俺違う席に座ろうかな思ったが断られた。店員さんの『お兄さんもなかなかですよ』というのは営業トークでないと信じたい。
「これほど客が入るとは。流行っている店のようだな」
これを本気で言っているのが彼の恐ろしいところである。店内もそこそこ混んでいるけど、テラスが先に満員になる店なんて普通ない。
混み始めたのは俺たちが席に着いた後だったので、頼んだランチセットはそれほど時間をおかずに持ってこられた。サービスでデザートがついてた。ありがたくおこぼれに預かろう。
さて、では食べようか、というその時、あたりに悲鳴が響き渡った。
次回はやっと戦闘だ~(棒)