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第四話:帰還 社会人的に数年間の行方不明は致命傷だよね!

作者はお約束のこてこてのギャグが大好きです。例え滑ろうとも!

 全身を覆っていた光が消えていく、目に入ってきたのは、見慣れていた景色。会社の屋上だ。


「おお!ほんとに戻ってこれた」


 本当なら感動して泣くとか、呆然とするとか、もっと極端な反応なんだろうけど、帰れるようになったのをシャルルが言い忘れていたという事件のせいで微妙に気が抜けてしまった。

 儀式の前はそれなりに緊張もしたし不安もあったのだが、はじまったと思ったら一瞬で戻ってきたから感動するタイミングを逃してしまった。


「おお、これが日本という国か」


 隣には一緒に来たシャルル。王子にして勇者にしてイケメンの人格者という完璧超人だ。いろいろあって当面日本に滞在することになった。


 それほど高いともいえないビルの屋上で室外機と自販機、喫煙者用の灰皿くらいしかない。それほど見晴らしがいいわけでもないが、ファンタジー世界に生きてきた彼にとっては新鮮な景色のようだ。


 おれも異世界に行った当初は珍しいものがたくさんあったから同じようなことをしていたなあ、そういえば。端っこのほうに行ってきょろきょろしているが、しばらく待っておいてやるか。


 さて、その間にひとまずどうするか考えよう。

 まずは情報収集だな。周りがそれほど変わっていないから、おそらくは10年も20年も時間がずれたりということはないようだ。

 そして、熱くなりはじめの気温。あっちの世界にいたのは約3年。召喚されたのは夏前だったから、これはほぼ同じ時間軸で進んでいると期待してよさそうだ。


 腕時計も携帯もちゃんと持って帰ってきたが、あいにくどちらも電池切れで使えない。携帯は解約されてるだろうし。


 時計といえば、他のビルにある時計(日付表示あり)が屋上から見えるところにあったはずだ。記憶を頼りに時計のあるほうを見るとちょうどシャルルがそっちのほうにいた。

 隣に立って日付をチェックする。



 20xx年5月xx日 12:00


 やはりほぼ3年たっていた、どうやら浦島太郎は避けられたようでほっと一息つく。しかし、どうしたものか。


 きっとクビになっているであろう会社(の屋上)に戻っててしまうとは。とはいえ、ここはいわゆる自社ビルではない、6階建てのうちの4階をかりて、いわゆるテナント。


 ようは見知った人間に遭遇しないよう気を付けてビルから出ていけばいい。エレベーターだと言い訳が利かなそうなので、階段でいけば問題ないだろう。


 「すまない、待たせてしまったようだ。これからどうする?」


 ちょうどシャルルも戻ってきたことだし、方針を調整しよう。ひとまず、ここが俺のもともと所属しいた会社(この世界における商会のようなものだと説明したら理解してくれた)であること、おそらくクビになっているため、関係者には遭遇したくないこと、このため階段からこっそり外に出るつもりであることを伝えた。クビの件は謝られた。気にしてないのに。


「ともかく、こっそり出て行こう」


「了解した。しかし、見る限り私の格好はこの世界の者とはずいぶんと異なるようだ、目立つのではないのか?」


「とりあえず上着を脱ごう。ただの布の服とズボンなら、多少違和感はあるが何とかごまかせるだろう」


「わかった」


 彼の服装の中で最もファンタジー色の強い上着を脱ごうとしたその時、


「え、伊達君?」


 しまった。屋内から人が来ていたのか。話すのに夢中且つ、元の世界に戻ったという油断で気づいていなかった。しかも知り合いかよ。


「え、あ、ええと、、、」


「ギャーーーーッ!出たーーーーーーーッ!」


 どう声をかけたものか悩んでいる間に逃げられた。あれは、俺の部署のお局様、春日さん(35)じゃねえか。驚くのは分かるが失礼な。


「行っちまった。いくらクビになった相手とは言え、悲鳴あげなくてもいいだろうに」


俺が不満をあらわにすると、


「なあ、葵」


「ん?」


「いきなりいなくなった人間が、当時と同じ格好で突然同じ場所に現れたら、普通驚くだろう。ゴーストと思われたのではないか?」


 ………これまでクビになったこと(推定)ばかり気にしてて、はじめてあった人がどう反応するか、すっかり忘れていた。

 が、普通に考えれば、死んだと思われてたってまったくおかしくないよな。休憩中に何の痕跡もなくいきなり消えたんだし。

 厄介なことになる前に姿を消したほうがよさそうだ。隣のビルに飛び移って、さっさと姿を消すことにしよう、そうしよう。


「よし、逃げるぞ!」


「待て、葵。君が会社なる組織に不義理を働き、その関係者と顔を合わせづらいというのは分かった。しかし、その不義理を働かせたのは、私はじめ聖王国の者たちだ。君の名誉を回復させるためにもぜひ先ほどのご婦人に謝罪させてほしい」


 なんか、変なこと言い出したぞ、こいつ。

 忘れてたけど彼は人格者であると同時に天然かつ融通が利かない頑固なところもあるのだった(妹に負けず劣らず)。問題が大きくなる前にさっさといなくならなくては。


「そんなことは気にしなくていい、問題が大きくなる前にこの場から消えることが重要なんだ!」


「問題なら既に発生しているではないか。君は世界を救ってくれた。その君が言われなき中傷を受けることになるのは耐えられない」


 あーでもない、こーでもないと水掛け論に発展しかけたその時、再びドアが開かれた。どうやら時間をかけすぎたらしい。しかたない、覚悟を決めよう。

 ドアから恐る恐る顔だけ出したのは、3年前に入社した後輩君だった。彼が入社していくらもしないうちに異世界に行ってしまったので名前は覚えていない。


 彼は俺たち二人にみられていることに気付くとあわててドアを閉じた。何人かの気配がするから相談をしているようだ。耳もかなりよくなったが、ひそひそ話のようだから、さすがに内容までは聞き取れない。

 こちらもどうしたものかと考えているうちにもう一度ドアが開く。今度は顔だけではなくて、人が出てきた。


 あれは某宗教の勧誘に熱心でよく始末書を書かされる同期入社の穂場君。俺が言うのもなんだが、よくクビになってないな。

 勧誘のために持ち歩いてる十字架付きの数珠とアルファベットで書かれたお札をフル装備している。冷静に考えたら、こいつがいつも勧めてくる宗教ってどこだ?いろいろ混ざりすぎてさっぱりわからん。


「ウァ、あ、あ悪霊!たたた、たい!さ~んっ!!」


 かなりキマっているようだ。おおかた、『いつもいつも言われているようにさまよえる霊を救済()してくださいね♪』とでも言われて送り出されたのだろう。

 悪霊とは失礼な。まだ生きとるわ。それにこれまで戦ってきた悪霊より、今の完全に(違う意味で)違う世界にイってるお前の表情のほうが、ある意味よっぽど恐ろしいんだが。


「言うまでもないと思うが、どうしても話をしたいというなら、アレ以外の人にしてくれ」


「……ああ。ところで彼は魔王に洗脳でもされたのか?あのような常軌を逸した様子の人間を見るのは久しぶりだ」


「この世界に魔王はいないっていったじゃん。あれは素だよ。そういえば、確かに不老不死のためにエルフ狩りしてた爺の表情によく似てるな。あれはかなりキマってた。あの後、助けたエルフさんに抱きつかれたのは今でもいい思い出だ」


「あの後、口説いてフラれていたな、婚約者がいると」


「古傷えぐるなよ。助かった喜びで思わず抱きついちゃったごめん、と言われた時はさすがにショックだったんだから、こっちも」


 別に命の危険もないので、のんきに話しているうちに穂場君が目の前までやってきた。改めて依頼品、もとい、依頼人ならぬ異様な風体の彼を見てみよう。

 上着は脱いでいる(暑くなってくる季節だしね)がスーツにネクタイ。梵字が怪しいデコレーションでプリントされたネクタイ。一部引っかかるがここまではいい。

 で、ハチマキをしてそこにろうそくさして(火はついていない、つけたら熱いもんね)、額にはアルファベットで書かれたお札。全身いたるところに十字架付き数珠。八○村と霊幻○師のコラボかよ。相変わらず統一感無いな、ってか古いよ。

 さらによく見たらパックのままの冷凍餃子を持っている、きっとニンニクがなかったので1階に入っているコンビニで代わりにということで買ってきたのだろう。だけどそれ、にら餃子だから。俺が本物の吸血鬼だったとしてもきかないと思うぞ。


 俺たちのもとにたどり着いたはいいが、なんかゼイゼイ言ってる。ドアからここまで20mもないんだが。運動不足だな、かつては俺もそうだった。


「あああ悪霊となりし、かっ、かつての同僚よ。清め給へ、祓い給へぇ・・・」


 謎の踊りを繰り広げている。きっと彼の中では大切な儀式なんだろう。だんだんトランス状態になってきたようだ。動きにキレが出てきた。時々、キエェーッ、とか言ってる表情がうっとりしてきて気持ち悪い。


「もう放っておいても俺たちがいなくなったことにも気づかないだろうから、ドアからこそこそ覗いている面々と話そうか」


 ここまで来て逃げたら、かえってまずいことになりそうだし。ってか穂場君、キエェー、キエェーうるせえよ。首筋に手刀落としたらあっさりオチた。これでよし。

 さてと、春日さん、はめんどくさそうなので、他に見知った人を探そう、、、って春日さんが近寄ってきたぞ。


「伊達君、今までどこにいたの?いろいろ聞きたいからとりあえず応接に行こうか」


 さっきまで幽霊扱いだったのにいきなり扱いが変わったな、って、んん?俺に話しかけてはいるが明らかに俺のほうを見ていない。

 そうか、そこで倒れている穂場くんではなく、隣のイケメンのおかげか。さっきは唐突すぎてよく見てなかったんだな。穂場君かわいそうに、やったの俺だけど。


「お久しぶりです、春日さん。いろいろと積もる話もありますが、俺たち急いでるので」


 挨拶したしもういいや。ともかくも逃げよう。3年間何してたかうまい言い訳考えてないし。と思ったのだが、


「お初にお目にかかります、マダム。わたくしはシャルル、故あって姓は明かせませんが、伊達葵さんにはよくしていただいております」


 なんか挨拶始めちゃったし。どうすんだよこれ。

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