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第三話:こうして日本へ 真面目に戦っていてもその後は本性が出始めているぞ!

作者は異世界の姫が大好きです。うん、キモい!

 公式の場では少なくとも数日に1回は会っているが、目立つ彼がわざわざこっそり来るとは珍しい。


「葵、少しいいだろうか?」


「いいけど、こっそりってことはまた私服肥やしてる役人でもぶっ飛ばしに行くのか?」


 珍しいがはじめてではないお忍び。この前は魔獣をコントロールして軍事力に組み込み、その力を背景に勢力拡大を図る貴族を懲らしめに行くのに誘われたっけ?


 魔獣をコントロールするというだけなら平和利用もできるので目をつぶってもよかったが、悪用するわ、結局コントロールが不完全で街で暴れだすわで散々なことをしてくれたので、ぶっ飛ばしてついでに刑台にもエスコートしておいた。

 不謹慎ながら多忙極まる俺のストレス解消にも役立っている。


「いや、そうではない。私はしばらくこの国を離れようと思う」


「は?」


「そして葵、君にもそれにつきあってもらいたい」


「え?」


 いきなりの爆弾発言に驚かざるをえない。復興はまだまだ始まったばかりだ。ここで旗頭たる彼が脱落しては今後にかかわる。

 しかし、善人中の善人であるシャルルが何の考えもなしにこんなことを言い出すとも思えない。とりあえず次の言葉を待つ。彼も俺が次の言葉を待っていると察したようで言葉を続ける。


「いきなりで驚いたと思うが父上とも兄上とも相談のうえだ」


「根回し済みというのは分かったが、俺もというのはどういうことだ。2人合わせてということなら厄介払いということでもないんだろう?」


「君にはすべて話す。理由は兄上、いやそれだけだと君を巻き込むという説明には足りないな、理由は継承問題だ」


 そういうことか。シャルルには兄と妹がいる3人兄妹、兄のフェリペ王子が第一、弟のシャルルが第二、妹のアレクサンドラ姫が第三王位継承権を有している(現聖王は愛妻家で側室はおらず庶子もいない)。

 順調にいけば当然、フェリペ王子が次の聖王となるが、シャルルの現状を考えれば間違いなく権力闘争が起こるだろう、本人たちが望んでいなくても。


「父上は復興がひと段落した段階で譲位を考えておられる。前にも話した通り、私は兄上こそ次の聖王にふさわしいと考えている。人間同士で無用な争いをしていられる状況ではないが、それが分かっていないものは決して少なくない」


 兄のフェリペ王子は運動神経に関しては致命的だが、優れた頭脳の持ち主だ。旅に出た当初、魔王側に与した国や勢力から俺達を守るべく裏で支え続けてくれた。

 さっきからシャルルのことを善人善人と言っているが、この兄妹は、というより聖王国王族はそろいもそろって善人だ。

 人柄も統治能力も高い第一王子がいれば、そうそう継承争いで泥沼になることはないだろう、権力闘争を挑んでも負けるのがおちだ。

 しかし、今回に限っては通常とはわけが違う。フェリペ王子は優秀だが、比較対象が極端すぎて、地味に見えるのはやむを得ないことだろう。


「つまり、しばらく姿を消して、その間に復興で実績を積んでもらうってことか」


「そういうことだ、担ぎ上げるはずの私がいなければそもそもどうしようもないだろうしな」


「細かい問題はいろいろある気がするけど理解した。だが、それが俺と何の関係が?」


 シャルルが姿を隠す。それはそれで大問題のような気がするが、きっとうまく調整できるようにしていることだろう。

 しかし、何で俺まで?という疑問の解消には至っていない。


「先ほど、継承問題と言い直した通りだ。現在聖王国には私を含めて3名が直系の血筋で王位継承権を持つ。もちろん4位以下の継承権の持ち主もいるが、今回彼らが継承者という立場で表舞台に出てくることはない。問題はアレクサンドラが来年16歳になるということだ。この意味覚えているか?」


「聖王国では結婚適齢期だな。日本でも16歳になったら結婚できるように・・・なる?まさか?」


シャルルはため息を一つついて話を続ける。


「思い出してもらえたようだな。君がこの世界に召喚され、アレクサンドラの願いを聞き入れた後の<アレ>だ」



 そう、俺は自分の身すらなげうつ覚悟で泣いてすがる少女の願いに折れて、勇者として戦うことになった。

 報酬はもちろんもらうつもりだった(実際その後交渉した)が、人身売買のようなまねをするつもりはなかったので、姫の覚悟についてはスルーしたままそのあとの話を進めた。

 だが、本人が納得しなかった。曰く、『私の願いを聞き届けてくださったのですから、私も自分の言葉を守ります』と。


 俺だけでなく、両親に兄2人、大臣、姫に片思い中の隣国の王子、はては政略結婚をもくろむ貴族まで説得に駆り出したがダメだった。

 どうしようもないので、ひとまず問題を先送りにすべく、『話は分かった。だが、俺の国では女性の結婚は16歳以上からしか認められていない。だれが何と言おうと君はまだ子供だ。16歳になってその時、俺のことが好きだというなら、その時に改めてはなしをしよう』と言って、場をおさめたのだ。


 その頃には、好きな男の一人もできてうやむやにできるだろう、と思っての発言だったが、まさか俺自身に返ってくるとは。

 いや待て、その時俺は、<好きだったら>という前提を付けていたぞ。本人の意向が重要だろうととりあえず再度拒否をしてみたが。



「ああ、その件なら妹は乗り気なので問題ない」


orz

まずい、退路を塞がれてしまった。


「私も王族という立場を離れ、一人の妹の兄として言わせてもらえば、妹には愛する男と添い遂げ幸せな家庭を築いてほしいと心から願っている。しかし、王族としての立場に戻れば、今というタイミングではそれを許すわけにはいかない」


「話が見えないな。タイミングというなら今出なければ問題ないのか?」


「ああ、タイミングさえ合わせれば問題ない」


「そうなの?」


 思ったより外堀埋められてるな俺。俺の思いはひとまず置いておいて話を続ける。


「色々ともくろんでいる者のほとんどは兄上か私に接近するだろう。しかし、もう一人不確定要素を持った人間がいる。それが君だ。現在の地位から逆転を狙う爵位の低い者たちを中心にアレクサンドラと君を担ぎ上げようという動きがある」


「上に二人いるんだ。可能性は低いだろう?それに言っては何だが、女帝は前例が少ないだろう?」


 この世界はまだ男尊女卑の傾向が幾分残っている。上の2人の兄を差し置いて妹が王位につくという可能性は無きにひとしい。


「だからこそ逆転を狙って、ということだろうな。彼らの主張は、勇者の血筋2つをあわせより強固な国を築くというものだ。それに女王の前例が少ないのは、王位につけた後ならむしろ好都合だ。世継ぎが誕生したら譲位させればいい」


 俺の脳裏に藤○家やら平○盛やらというのが思い浮かぶ。


「…万一うまく行ったら、貴族の間でベビーブームが起きるだろうな」


「まあそうなる。自身の妻が乳母に選ばれれば、王室との距離は縮まる、同性の子供なら学友として側近につけることができる。異性の子供なら言うまでもなく政略結婚の相手となる」


 自分の子供を王室に送り込み、そして次の世継が生まれれば、自分も王の祖父として院政開始ってことね。希望的観測極まるが、貴族と言ってもいろいろいるからなあ。没落しかけてる家なんか頑張りそうね。うまく行ったら、ドラマ一本作れそう。

 だが、そんな皮算用のための計画の盤面にのせられるのはごめんだ。


「よく分かった、フェリペ王子のもとで国を一枚岩にするためには俺たちがいないほうがいいということが。しかし、どこに隠れるつもりだ。言っちゃなんだが、俺達超有名人だぞ。街中どころかさびれた村レベルですら、存在がばれると思うが」


「それについては考えがある」


「聞こう」


「日本に行く!」


「…………は?」


今日最大の衝撃だった。


「日本に行く!」


「…………は?」


さらっと最後にでかい爆弾投下しやがった。


「召喚、じゃない、その逆をやるの?」


「ああ。ん?どうした?元の世界には戻りたくないのか?」


「いや、戻ること自体はあきらめてたから、帰れるってのはうれしいんだけど」


 権力闘争を防ぐためとはいえ、100人以上の魔術師を犠牲にするというのは賛成できない。帰れるものなら帰りたいが、この数か月、元の世界に戻してほしいと言わなかったのはそれが理由だからだ。


「言いたいことは分かる、手段についてだろう?戦いが終わったのに君が何も言わず復興に尽力してくれているのも魔術師たちのことを慮ってだということも。だがその心配は無用だ。君を召喚した時、この世界は魔界とつながっていて、それが他の世界への道を開くことの障害となっていた。それを無理やり続けたのが君の召喚の時だ、しかし魔王が倒れた今はそれもない。魔術に長けた人間が数人いれば、他にも条件はあるが週に1回程度は異世界と行き来が可能だ」


 なんということだ!というか、なんということを言ってくれたのでしょう!?



「シャルル」


「なんだ?」


「そういうことはもっと早く言ってくれ。俺は今初めてお前に殺意というものを覚えたよ」


「す、すまない」


 きっと今の俺は死んだ魚のような目をしていることだろう。シャルルもドン引きだ。とはいえ、これはあきらかにこいつが悪いだろ!?責任とれや。

 その後、気を取り直して話を詰め、内容は以下の通りとなった。


・日本に行く(帰る)のはシャルルと俺の2名のみ(アレクサンドラ姫も同行したがったらしいが、一時的とはいえ、さすがに2人も王族が不在にするのは国家運営に影響が出るということで却下されたらしい)


・期間は3年、ただし、シャルルに関しては数か月に1回は帰還し、欠席できないイベント参加や報告を行うものとする


・俺については、定期的な行き来は不要、最終的にどちらの世界に生活のベースを置くかも自分次第でいいらしい。ただし、アレクサンドラ姫との問題を決着させるため3年経過後、必ず一度聖王国に戻ることになった。ただし、3年の間に、片方、あるいは双方が別の人間と結婚した場合、この限りではない(釘を刺されたかたちだが、束縛するつもりはないらしい、逆にちょっと怖い)


・シャルルは3年の間、異世界を見聞、新たな国家体制や友好を樹立できないかをさぐる新たな使命を受けたと内外には公表する(建前ではあるが、シャルル本人もいずれは世界を超えて友好を築いていきたいと思っているようだ)


となった。


 期せずして、元の世界への帰還が決定してしまった。今後の生活のため、褒美にもらった貴金属やら宝石やら持っていくことにしよう。

 証明書がなければ買い叩かれると聞いたがないよりましだろう。きちんと売れるところが見つかるのが一番いいのだが、万一うまくいかなくても、重期並みのパワーを誇る今の俺なら肉体労働でなんとでもなるだろう。

 うーん、でも仕事はクビになってるだろうなあ、確実に。あと、こっちに来た時に着替えてそのまま王宮に保管してもらっていたスーツも出してもらわないとな。



 やれ準備だ、やれ引継ぎだ、新たな旅立ちの発表だ、とやっているうちに、あっという間に数週間が過ぎてしまい、いよいよ帰還の日となった。

 いきなりだった召喚された時と違い、今度はさすがに緊張する。


 うまくいくのだろうか。

日本ではどれくらい時間が経過しているのだろうか。

みんな俺のことを忘れてはいないだろうか。

間違って違う世界に飛ばされたりしないだろうか。


 考えだすときりがない。しかし、不安以上に期待も大きい。見知らぬ世界に3年近くいたのだ。そして一度は帰還もあきらめていた。


 改めて周りを見渡す。前回と違って今回はそう人数は多くない。術を行使する魔術師が数名と、聖王国王族と大臣くらいなものだ。

 シャルルは大臣と今後のことで最後の打ち合わせをしている。


 ちなみにアレクサンドラ姫もいるが、『2年延長なんて聞いてません!』と思いっきりひっぱたかれた。

 俺悪くないのに、と思ったが言い訳しようとは思わなかった。確かに4年のうち、3年が経過して、その段階で後2年追加ね、なんて言われたら誰だって怒るだろう。

 この3年で随分と成長した彼女だが、俺のことにはこだわらずにどんどん前に進んでほしい。すごい美少女に成長しているから非常にもったいないが…。うーん、ぶたれたほっぺたが痛い。


「葵、禊は済んだか?」


「おかげさまでな、女を泣かせたのは小学生以来だ」


 苦笑いしながらこちらに戻ってきた泣かせた女の兄にせめてもの嫌がらせで、こちらは皮肉で返す。


「そう突っかからないでくれ。しかし、<女>か。16歳になったらという話をしたときは<子供>だったのにな」


 逆に皮肉で返されてしまった。


「脈がないわけではなさそうだ。たまにはこっちに戻って会ってやってくれよ。次会った時に直接言ってやってくれ」


 黙っていたら追撃をかけられてしまった。

 まあ、ずっと慕われてるんだ、悪い気はしないさ。それに、後3年したらすごい美人になってるのは間違いないからな、気にならないわけじゃないよ。

 でもなんかむかつくから、後で仕返しはしよう。


 復讐の策を考えていたら、魔術師から準備完了の声をかけれらた。2人で魔方陣の中に入る。着替えもばっちりだ。3年ぶりに着たスーツは腹回りが緩くなり、それ以外はパツンパツンになったが何とか着れた。大分鍛えられたからなあ。


 シャルルにはなるべく目立たない格好でと伝えておいたら無難な格好にしてくれた。ファンタジーよりなのはどうしようもないが、コスプレというほどひどくもない。

 金髪だし、どう見ても日本人には見えないから、突っ込まれた時は民族衣装ということで押し通せば何とかなるだろう。

 どうやら時間のようだ。行くか!もとい、帰るか!


 「準備はいいか?」


 「ああ、いつでもいい」


 期待と不安を抱きながら、俺は光に包まれていった。

異世界はこれで終了。

作中で今後描かれることは多分ありません。設定も適当だ!

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