嚆矢
ジリリリリリリリリ……
目覚し時計が鳴った。
最近では見かけなくなったベル式の目覚し時計を切り、ベッドから起きた。
西暦2034年
ノストラダムスの予言や何やらは当たらず、特に2020年から変わった様子もなく、俺は都内の霧奈賀第三学園に入学した。
そして入学して1カ月がたった。
今は学寮で生活している。
俺は制服に着替えて、朝御飯を食べていた。
すると突然、インターホンが鳴った。
俺は「はーい」と言って、外に出た。
玄関を出ると、身長が低い女の子が立っていた。
「ねえ!あなた助けて!」
ん?え?ちょっと待って?
「知らない女の子が助けてと言ってきたんだが」
というスレが立ちそうな気がした。
俺は冷静に答えた。
「どうしたんですか?こんな朝早くから」
「追われてるのよ!そんなことより早く中に入れて!」
「誰にですか?ていうか勝手に上がらないでくれませんか?」
「事情は後で話すから!」
一瞬だったが下を見ると見知らぬ黒塗りの高級車があったのが見えた。
黒塗り…これ以上は考えないでおこう。
「それで何があったんですか?」
「客が来たのだから飲み物ぐらい出しなさいよ!」
えぇ…人の家なのにそれは酷くない?
仕方なくアイスティーを出した。
彼女をよく見ると日本人とは思えない目をしている。
目の色は薄水色のようだ。
「何これ苦いわね、本当にアイスティーなの?」
「アイスティーだ」
「そう」と彼女言った。
「ところで君は誰だ?誰から追われている?下に止めてあった黒塗りの高級車か?」
「そういやまだ自己紹介していなかったわね」
そう言うと彼女は立ち上がり
「私の名前はアリス・マカベルよ」
アリス・マカベル……マカベル?………あ!思い出した!
マカベルってイギリスの名門ジャマイカ!
「それでアリスさんが私に何のようでしょうか」
「さっきも言ったでしょ!私を助けて!」
「誰に追われているんだ?」
「政府よ」
俺は驚きすぎて放心状態に陥っていた。
「ねえ!聞いてる?」
その一言で俺は我に戻った。
「あ、ごめん聞いてなかった」
「しょうがないわね…特別にもう一回言ってあげるわ」
アリスの話によれば、今イギリスは内乱が起きていて、アリスの父がイギリスの反乱軍の首都への進行を押さえるために戦っていたのだが、反乱軍の手により殺されてしまった、そして反乱軍はイギリスを征服し、マカベル家の生き残りであるアリスを消すために追っているのだという。そしてその内乱は、外部に漏れないようにしているのだと言う。
多分初めて聞いた人は信じないと思うわ。
ていうか何で俺なんだ?
俺なんかより、他の<一族>に頼ればいいんじゃ?
「…すまないが俺の家に来たんだ?」
「それは……」
「あ!すまない…言いたくない事だったのか…」
アリスは首を横に降った
「…実はお父様が俺が死んだらここに行けと手紙を貰ったのよ」
するとアリスは手紙を差し出した。
え…俺の住所がびっしり書かれているんだがそれは…
駄目だろこれ、普通に個人情報駄々漏れじゃないか、たまげたなぁ…
「また私を無視するの!?」
俺は「ああ、すまない」と謝った。
「で、俺は何をすればいいの?」
するとアリスはむっとした表情を見せ、
「何度も言ってるじゃない!」
アリスは俺に人差し指を向け、
「あんたは今から私を護衛するの!つまりボディーガードになりなさい!」
は?はぁ!?
「いきなりすぎませんか!?あと俺の名前はあんたじゃない!神持!神持日向だ!」
「そう、それじゃあ神持!私と一緒に来るのよ!」
色々いきなり過ぎるんですが。
「待ってくれ、俺にも学校というものが…」
すると突然、扉を叩く音がした。
「すいませーん」
おそらく、アリスの追っ手だろう。
「アリス…お前は逃げろ」
「え?」
アリスは驚いた顔でこちらを見てきた。
「相手は最低でも5人はいるはずだ」
「え!?そ、それじゃあどうやって私は逃げるのよ!」
「窓を開けてくれ」
「…え?」
「いいから早く!」
アリスは体が跳ね上がるように見えた。
そして急いでリビングのベランダに出る窓を開けた。
俺はその間に棚からベレッタを取り出して、腰の後ろにあるホルスターに仕舞った。
するとアリスはこちらを見て、
「え!?ちょっと!なんであんたが銃なんて持ってるのよ!」
「話せば長くなる」
そして俺はリビングに戻り、
「アリス…お前は押入に隠れてろ」
と小声で言った。
「え?逃げるんじゃないの?」
「逃げる気は無い。」
「…分かったわ」
そう言うとアリスは押入に隠れた。
確認すると玄関に行き、扉を開けた。
「はい」
「すいません、朝早くから」
警察手帳を見せてきた。
日本の刑事とイギリスの刑事らしき男が2対2で立っていた。
「あの、どうしましたか?」
「あの、ここ周辺で背の低い女の子を見ませんでしたか?」
やっぱり聞きにきたか。
「いいえ、私は見ませんでした」
「そうですか…あの、一人暮らしですか?」
「はい、両親は5年前に事故で亡くなりました」
「そうなんですか」
そう言うと、
「御協力ありがとうございます」
と言って帰って行った。
…別に持って来なくて良かったな。
相手も途中からかも知れないが、俺達の会話を聞いていただろう。
俺はリビングに戻り、ソファーに座った。
「アリス、もう出てきていいぞ」
そう言うと、アリスは押入から出てきた。
「終わったの?」
「ああ、終わった」
俺がそう言うと安心した表情を見せた。
「そういや、御両親亡くなっているのね」
「5年前に事故で死んだんだ、妹がいるんだが、祖父母の家に今はいる」
「…なんかごめんなさいね」
「いや、別にいいんだ」
3秒ほど沈黙が続いたが、アリスが口を開いた。
「そう言えば何であんたがベレッタなんて持ってるのよ」
「あ、これか?」
俺はホルスターからベレッタを取り出した。
「これはエアガンだよ」
「えあがん?」
アリスはエアガンの事を知らないのか。
「あま、実銃も持っているんだがな」
「何であんたが持ってるの?」
「俺の父さんが凄腕だったんだよ」
アリスは驚いた様子を見せた。
「俺達がいつ命を狙われるか分からないから持っている、これは国が許可を出しているから大丈夫だ」
「そうだったの、でもあなたのお父様は亡くなっているのじゃないの?」
「国から認められているんだ、法律で」
俺は話を続けた。
「相手を怯ます為に使う物として使用されているのだが、それは極めて僅かの<~の一族>と呼ばれるにしか認められていないんだよ」
アリスは少し興味があるような目で俺を見ていた。
もっと聞きたいのか?
俺は話そうか迷っていた。
そして時間で決めようと思って時計を見た。
嘘だろ!もう7時半かよ!
「すまないアリス、学校行ってくる」
「え!?ちょっと!」
アリスが何か言っていたように聞こえたが、気にしないで置こう。
連休が明け、今日からまた学校だ。
平凡に暮らせたらいいな。
俺は結構走って学校に向かった。
これはバテる。
そういやアリスの年齢聞くの忘れてたな。
やっとの思いで学校に着いた。
家からは15分のはずなのだが、今日は朝から色々あったからか、時間の流れが早くなっていると感じた。
俺は階段をかけあがり、教室のドアを開けた。
「よう、今日はいつもより3分57秒06遅かったな」
「あ、ひなちゃん!久しぶり~」
そこには、男女合わせて2人がいた。
綺堂楓と黒神桃香だ。
二人共俺の幼馴染みだ。
二人共生まれた頃から特殊能力があり、綺堂は全てを正確に当てられ、黒神は心が読める。
小学校の時は黒神がいじめられていて、俺と綺堂が止めに入った。
その時に俺の能力がバレた。
そして、誰も黒神をいじめる奴はいなくなった。
その後三人仲良く同じ中学に入り、高校に入り、そして今同じクラスになっている。
「ああ、遅れてすまない」
「なんだお前休みボケか?」
「いやそう言う事ではないんだよ」
「ひなちゃん疲れてるようだよ?」
俺は朝の出来事を話した。
「そんなことが有ったのか、お前も大変だな」
と綺堂が言ってきた。
「そうなんだよ、もう本当疲れた~」
8時を回り、クラスに人が入ってきて段々騒がしくなって来た。
すると黒神が俺に、
「そう言えばひなちゃんはその子を家に置いといてよかったの?」
と言ってきた。
「まあ別にいいんじゃないか?鍵は家に置いといたから」
その後も、綺堂と黒神と話していた。
すると予鈴が鳴った。
「話はまた後で」
「また後でな」
「うん、また後で!」
そう言うと、綺堂と黒神は自分の席に戻った。
それから5分程度経った後に、担任の小野京花が入ってきて、
「はいそれじゃあHR始めるぞー」
と言った。
また今日から学校が始まるのか等と思っていたら京花が、
「まず始めに転校生を紹介するぞ」
と言い始めた。
クラスがざわざわし始めた。
ある男子生徒が、
「先生、男子ですか?女子ですか?」
と聞いた。
すると京花は、
「女子だ、イギリスの方だ」
男子から「マジか女子か!」や「イギリスの姫でごさるかwwwwww」等の歓声が上がった。
一瞬だけ周りを見たが、女子は男子の行動を少し引いてるように見えた。
「じゃあ入ってこい」
京花がそう言うと、転校生は教室に入って来た。
クラスの男子から、「可愛いな」や、「俺後でコクるわ」等と言う声が聞こえた。
俺は興味が無いから窓の方を見ていた。
するとその転校生が、
「あ!」と言っていた。
俺は「なんだ?」と思いながら、前の方を見た。
すると前に立っていたのは…
アリス・マカベルだった!
to be continued!