はじめての大会②
セミの音が聞こえる。夏真っ盛りだ。普通の小学生ならプールや公園で遊んでいるだろう。でも私は将棋大会に出場している。相手の少年は四間飛車に構えた。私は自玉が固いのが好きなので居飛車穴熊へ囲いを始めた。相手は自分の攻撃が上手く行っているみたいで、とても楽しそうだ。早速4三銀と銀を前線に繰り出して来た。急戦だ!私は慌てて攻撃に応戦した。駒の音が激しくなってくる。対局時計を押す力も強くなってくる!
ここで2七桂と早く桂馬を跳ねてしまったのが間違いだった。相手の思うように攻撃が刺さり穴熊の急所である縦方向からの攻撃が猛烈に囲いに響いた。それからは駒の音だけを意識が捉えていて盤上に目を落としてはいるが、実際は盤上を見ていなかった。いつも見てきた将棋盤がなにかとても異様なものと感じたのである。
対局が終局し、相手から「ここで2七桂と跳ねたのが間違いだったね。」と得意そうに指摘される。いやだ。聞きたくない。自分がよくわかっている。相手はこの後に行われた対局にも次々に勝ち埼玉県こども将棋名人戦で優勝した。彼の名前は大石健吾。隣町の千田小学校の6年生であった。....(to be continued)