初めての大会
私には大切なものがある。それは死んだおじいちゃんが教えてくれた将棋。将棋は9×9マスの中で繰り広げるゲームで一国の王様となって戦うようなものだ。自分は日本の王様にはなれないけれども、将棋の中では王様になれる。自由に駒を動かす楽しさは指してみないとわからないと思う。私はおじいちゃんが残してくれたプロの先生の棋譜や詰め将棋の本を読んで勉強してきた。けれどもなかなかクラスには将棋をさせる人はいない。指せてもあまり強くない。だから私は対局をあまりしたことがないのだ。でも今から久しぶりに対局できるんだ!
小学生こども名人戦という立て看板がかけられているエントランスを抜けると、心臓の鼓動が高鳴ってくるのがわかる。
スーツに身を包んだお姉さんに案内され受付を済ますと15と書かれたカードをもらい、将棋盤がたくさん並べられている大きな部屋についた。
「15番か...あんまり強い人じゃないようにお願いします〜」
そう小さくつぶやきながら周囲を見渡していると、開会式の始まりを告げるアナウンスが聞こえてきた。用意されている椅子に座っていると偉そうな人がマイクに顔を近づけ穏やかな顔で喋り出した。
「校長先生みたいに長い話をするなぁ...なんだか学校にいるみたいだ。」思わず本音を漏らしてしまうと、隣にいた活発そうな男の子が、
「棋力はどのくらい?俺は、アマ初段。」と話しかけてきた。
「キリョク?なにそれ?美味しいの?」
「いや、食べ物じゃないから。おいおい、初心者かよ。」肩をすくめて笑われた。初めての大会なのに何か周りが全員敵に見えてきた。いや、まあ敵であることに変わりはないけど、、、
そんなやりとりをしているうちに開会式が終わった。
さっきのスーツのお姉さんが対局開始と言うまで長くはかからなかった。
対局は持ち時間15分で切れたら30秒の秒読みだ。相手は眼鏡をかけていて少し強そう...でも...
おじいちゃん。見ててね。結局最後まで勝てることはできなかったけど、強くなったところ見せるからね!胸を手で押さ
えながら一つ深呼吸。さぁ対局開始だ!!