人間50年、グリフォン…
書くペース上がるまで今回ぐらい短くても話の区切りがくれば上げて行こうと思います。
魔法の練習が始まってさらに数ヶ月。森の様子は相変わらずで青々とした木々が季節なんて感じさせないが、この数ヶ月の間に気温が高い時期がきたので、この世界にも四季のような気温の上下はあるようだ。
気温が高いといっても日本の夏のようにジメジメとした息苦しい暑さではなく、少し暖かくなってきた程度の変化なので毛皮が辛いなんてことがなくて本当によかった。
飛ぶのは相変わらず上手くいかないが、魔法の方はようやく火の玉が野球ボールぐらいの大きさの炎が出せるようになってきた。他の水や風の練習はしていないので火の魔法以外は身体の強化をして魔力を使うことになれる練習という事らしい。
母さん曰く使えばだんだんと自分の魔力の総量がわかってくるらしい。そうすればどれくらいの余力があるのか、火の玉を出すのにどれくらいの力を使っているのかなんてものもわかってくるらしい。そこまでできるようになって半人前という事だ。
「じゃあ母さんが言う一人前ってどれくらいのことができるようになればいいのさ?」
「そうだねえ、言葉を使わずに飛びながらこれくらいできるようになりな」
と枝から森に向かって飛び立ち、水の刃を放つとそのまま降りて行きすぐに戻ってきた。そしてその嘴には腰から上に大きく切り傷があるゴブリンが咥えられている。
「試しに飛ばなくてもいいから2種類同時にやってみな」
同時に2つということで、いつも練習している強化をイメージだけでやってみる。まずは前足の腕力を強化。こっちは魔力を火に変えたりするわけではないので今まで通り問題なくうまくいったのが目で確認できる。次は火の玉を出す。
「『炎よ燃え上がれ』」
簡単な詠唱つきで一先ずやってみる。母さんの様子から2つ以上の同時使用はうまくいかないと思うから今まで通りでやってみるのがいいと思ったのだ。
詠唱からイメージ。そして魔力を放出して魔法に変える。最近魔法の練習でわかるようになったのが火を出そうとするとこの『魔力を放出する』と言う手順がどうしても必要だということだ。
「あれ?」
魔力を体から外に出し始めると、それと同時に強化の魔法が弱まっていく。そして強化に使われていた魔力が消えてしまい、俺からさらに魔力が出た後で集まった魔力が炎に変わった。
「まあ最初はこうなるだろうね。むしろ1つ目が詠唱の途中で切れなかったことにびっくりだよ」
「途中で切れる?」
「そうだよ。試しに逆の順番でやってみな」
よくわからないけど言われた通りにやってみると、強化しようと意識した瞬間に炎が消えてしまった。
「わかったかい?魔法に慣れるまでは気づかないうちにその魔法に意識の大半を持っていかれているんだよ。それこそ歩きながら魔法が使えないぐらいにはね。まあ慣れるまでは炎を出しながら歩くのや走るのを練習と思ってやってみるといい。それぐらいなら私はすぐに出来るようになったんだからあんたも今年中にできるようになるさ」
「すぐにってどれくらい?」
「10日ぐらいだったかねえ?昔のことで覚えてないけど集落にいた若いのも初めて半年ぐらいでできるようになったんだからあんたもそれぐらいでできるよ」
10日と半年は大分違うと思うんだけど…その誤差はグリフォンが長命種だからって考えでいいのだろうか?
「…ちなみに母さんってどれくらい生きてるの?」
「歳かい?たしか集落を出たのが10だったかで…変化を渋るジジイから聞き出したのが50ぐらいだっただろう…そしてぶらぶら見て回って………今が300とちょっとかねえ?エルクじゃ4回は死んでるから私がいつからここに住んでるってのもわからないだろうし正確にはわからないがね」
「300…」
長い、なんて物じゃないね。人間が80年ぐらいだから人間だって4回は死んでしまう。そう考えるとエルクも恐らくヒトとかも80ぐらいが寿命なんだろう。
「ちなみに私は若い方だからね?集落には1000越えで死にかけの老人とかもいたしドラゴンは数千年生きてるなんてのもいるよ」
「1000年…想像できないや」
「生まれて1年も生きてないんだからそんなもんさ。私ぐらいになるとだんだん時間が早く過ぎてて歳なんて気にならなくなってくるよ」
「そう言うものなのか…?」
人間としてたしか十数年生きたらしい。グリフォンになって数ヶ月。それでも母さんの10分の1もまだ生きていないわけだ。
「母さんのヒトの姿は年齢と関係があるの?」
「そうなんじゃないかね?数千年生きたドラゴンのジジイはヨボヨボの爺さんの姿をしていたし、私は若い女の姿だろう?多分お前ができるようになってもしばらくは子供の姿だろうね」
「しばらくは?」
「昔ジジイから聞いた話じゃ10歳まではヒトと同じように成長していくらしい。私が初めて変化できた姿は20を少し過ぎたぐらいの姿だったけど10年ぐらい経った後にもう一度やってもほとんど成長していなかったよ」
「へえ…だんだんヒトの姿と歳が離れるわけだ」
「そういうことだね。まあできるようになったら覚えておきなさい。ヒトの姿で同じ町には数年以上居てはいけないよ」
「なんでさ?」
「周りが10年で老いていく種族の中で若いままの姿で居たら浮いてしまうだろう?そうなると面倒なことが起きたりするんだよ」
話は終わりだよ、と母さんは取ってきたばかりの獲物を食べ始める。仕方ないのでそれ以上は聞くことはせずにこっちは炎を出しながら歩く練習をすることにした。
それにしても1000年かあ…長いなあ。なんて考えていたのが良くなかった、体を動かすことなく出していた炎が消えてしまう。
「…まずは維持し続ける練習かねえ」
はあ情けない。と横で母さんは大きく息を吐いていた。ただその顔は情けない子どもを見るのではなく、嬉しそうに見えるのは気のせいではないだろう。だから俺も気にせず甘えることにする。
「何かコツがあるなら教えてよ」
「調子に乗るんじゃない」
「ぐえ」
大きな前足で背中を押さえつけられてしまい変な声が出てしまった。でもそんなの気にせずお互いに笑い合う。母さんも言っていたが産まれてまだ1年も経っていないのだから、ゆっくりグリフォンとして生きていくさ。