ハッピーエンドが好物です
すみません……煮詰まって短編投下してしまいました。
本日は晴天なり。
あたしの一世一代の舞台に相応しい晴れの日。
さぁ行きましょう!!自分の未来を掴みに!!
◇◆◇
チョークシル皇国筆頭公爵家令嬢、クーレリア・フォン・バルシアス、それが私のこの世界での名前。
でも3歳までに形成される人格形成でちょっぴり前世を思い出しちゃったりしたもんだから……普通でいうお嬢さまというのとはちょっと違う令嬢に仕上がってしまいましたの……。
一応きちんと公爵令嬢としての教育は受けましたから外面の公爵令嬢は完璧、ただし中身は一般ピープルな日本人でごめんあそばせ!
趣味は昔から無双……違ったそれは今だったわ、夢想することが大好き!
夢見る王子にカッコいい騎士、ヤンデれ溺愛なんでもござれな自分の脳みそには限りが無い。
日本人の時にもいっぱい世間に小説を発表しては結構受けてたの。
そんなあたしが生まれ変わった世界は……剣と魔法の素晴らしい世界だったわ。
でもね……リアルは全然萌えないの。
「クレア……愛しているよ」
金髪碧眼の皇太子に言われても、笑みがひきつるだけ。
「貴方だけを守りたい…」
近衛筆頭騎士候補としてそれどうなのよ?ってとりあえずハリセンを誰か下さい。
「キミノ……シアワセ。ボクトイッショ」
んなわけないでしょ。こんな片言と一緒にずっと過ごすなんて思考の読み取りだけで疲れるわっ!
「姉さま…家に帰って、ずっと一緒にいてね」
はいはい、姉としてならずっとお付き合いしてあげますとも…3歳の愛しい弟よ。
5歳でこれって……頭が痛い。幼馴染としてなら受け入れるけど…逆ハーなんてお断り。
ならさ……あたしが作っちゃえばいいのよね?
クレア作の「異世界転生『恋』物語」
…もちろん、主役はあたしじゃありませんけどね。
◇◆◇
主役探しは随分と難航したわ……まず、意外と愛妻家が多いこの国で庶子を作ってそうな貴族を探すのに苦労して……ようやく無理に恋人と引き離されて結婚されられた見目のいい子爵を見つけたのよ。
そこから元恋人を探したら…その恋人は結婚相手の貴族に葬られてて……町の集合墓地の中だった。
いいえ…せっかく見つけた逸材……決して諦めませんことよ!
まずは手始めに、バッドエンドは大嫌いだから……あたしの全力を持ってその貴族は叩き潰し……没落させていただきましたわ。
そしたら親の力を失ったその可愛くも無い貴族令嬢は、着実に力をつけてた子爵にあっさり離縁されてやんの。
子供が居なかったのが幸いだったねw
え?一度もしてない??
でもあの女、貧民街で子供を下したって……あ、浮気相手の子供ですか……それはそれは……
ま、そんな女の将来はどうでもよくってね。
で、大事なのは死んじゃった恋人さん。
その死んじゃった恋人さんはどうやら生前その貴族に娼婦に落とされちゃったらしく…そこで病気したみたい。もちろん亡くなってしまった後だけど…きちんと名誉を回復して弔ってあげましたわ。
そして偶然、その娼館に父親が誰かわからないピンクの髮の子供がいたの。
ねぇ…ピンクの髮の子供って聞くだけでワクワクしませんこと?
「あなた……前世の記憶を持ってるのね」
その言葉から始まる……洗の……げふんっ…教育の日々。
「私は物語の主人公なの!!学園に行けば……王子様がいるのよっ!!」
はい、完了。りっぱな電波少女が出来上がりましたわ。
もちろん頭脳明晰、才色兼備は当たり前。他にも幼馴染が虜になる仕草から話し方、果てはチラリズムの継承まで…私のすべてを彼女に叩き込んだんですのよ?
幼馴染はもちろん、これで虜にならない男がいるはずも無いですわ…。
もちろん子爵もね、明らかに自分の子供ではないけれど……うん、子爵は綺麗な白銀の髮ですの……元恋人さんは普通の茶髪でしたし……恋人さんが産んだというにはピンクの髮の子供は無理でしたわ……。
…でもそこは私の本領発揮。
無くなった恋人さんが大切にしていて…どうにか娼館から連れ出したいと思っていた子だと……涙ながらに語り……しかも類稀なる魔法の才能がありますと実益もていっと添えれば……
……引き取ってくれるというのは必然。
ふふ…ミーミル、血反吐が出るほど魔法の練習してよかったわねw
「さて…ミーミル、最後の仕上げといきましょうか?」
「……お姉さま?」
…そう、6歳で出会って3年……貴方とは濃密な時間を過ごしましたわね……でも、今日でそれも終わり。
「ミーミル…貴方は今日から子爵令嬢……今日まで培った力は貴方が元々持っていた物よ。立派な子爵令嬢となりなさい……」
「はい……お姉さま」
「さようなら……ミーミル」
あたしは手を一つ打って魔術を発動する…。
「お…ねぇ…さ………」
それはこの国では禁忌とされる人の精神に干渉する魔術。
ミーミルはあたしの手の音と同時にあたしに関する記憶を全て無くした。記憶の封印なんかじゃいつ解けてしまうかわからないからきちんと抹消する。
これで天然培養の転生少女が完成した。
「3年は長かった……もぅあたし来年学園入学じゃないの……」
◇◆◇
ミーミルの洗の……教育の間は、将来の円満解決の為に幼馴染達や弟とは適度な距離を保ちつつ自由を手に入れる為に……悪役令嬢の位置を確立する為、特に皇太子の許婚にもなりましたわ…。
ミーミルも血反吐吐きましたけど……私も王妃教育とミーミルの洗脳で吐血しましたわ……。9歳までに過労死するかと思いましたけど……たどり着いた今は達成感でいっぱいですわ。
目の前には立派になったミーミル…えぇ…貴族としての適度な注意と嫌がらせは忘れてませんわ。ちょっとミーミルが嫌がらせに恍惚な表情を浮かべてる時に記憶が戻ったのかとドキリとしましたけど……大丈夫でしたわ。
…少し違う扉を開いてしまっただけですわ。
そして話はいよいよクライマックス。
皆様いいところですよっ!!
準備はよろしくて?
◇◆◇
「クレア……お前との婚約は破棄して……私はこのミーミルを妻にむかえる……くそっ!!!」
あらっ…皇太子への術が甘かったかしら……もっとすらすら断罪の台詞は言って貰う予定だったのに……
「クレア……すまない……君の騎士になりたかった……」
うっ……騎士の台詞も微妙ですわ……そこはもっと私の嫌がらせの罪を暴いてほしかったのに!!
「ク、レア………うぅ……僕がミーミルの魔術師になっても……友達だよね」
待て待て泣くな!!……お前はあたしの罪の裏づけ係だろうがっ!!!
「……姉さん。家に帰ろう?」
もはや弟に関しては昔と台詞が変わってないっ!!!
ぐぅぅぅ……これは早く…けりをつけないと長引かせてもあたしに不利ね。
「わかりました……ディール殿下。私…ミーミル様に嫉妬して……貴族として恥ずかしい………婚約破棄を了承いたします……どうかそこのフォンティーヌ子爵令嬢のミーミル様とお幸せに……皆様も、どうかこのお二人を祝福して下さいませ。全てはわたくしの責任…ただの平民へと降下いたしますので……どうか公爵家へのお咎めだけはお許し下さい」
ほんとは皇太子に宣言して貰いたかった台詞だけど……仕方ないわ。
「お姉さま!!」
「ぐっ、………く、クレア、待て」
「ごきげんよう」
待ちません。
待ったら私の完璧なお話がハッピーエンディングを迎えないじゃないですかっ!!
私はスカートを颯爽と翻して学園の門へと向かいましたの。
もちろんスピードは今までにない速度ですわ。
これからは、私の憧れる剣と魔法の冒険物語の始まりですわっ!!!!
◇◆◇
…なんて思ってたのは一瞬でしたわね。
「………どうしてこうなったんですの?」
「だって、クレアはもう平民でしょう?なら僕が貰ってもいいかと思って」
目の前には白銀の髮の子爵。見目麗しい顔で私の前で優雅にお茶を飲んでる。
「クレアの物語を作ってあげたのだから…ご褒美を貰ってもいいかな?とも考えたんだよ」
「子爵様……」
「ライル…と呼んで欲しいな?……奥様」
子爵嫁って意外と自由で快適。旦那にも愛されてるあたしって幸せなのかも?
ミーミルも上手く皇太子妃やってるみたいだし…幼馴染のみんなも弟もそれなりに幸せっぽいよ
さて…この物語は誰のハッピーエンドだったのかしら?