エルフの里
今回は長いです。
シェインは自分の見ているものが信じられなかった。この泉のある開けた場所は、神官たちによる結界に守られている。トロール達が集団で攻撃でもしない限り破られることは無いはずだった。しかしこの魔物は他に仲間がいる様子はない。つまり一匹でトロールの群れと同等の力を持つということである。そんな魔物はもはや伝説やおとぎ話の類だ。さらに、この魔物は先程話しかけてきたのだ。魔物は大抵知能が低い。知能が高い魔物は非常に危険で、ドラゴンやヴァンパイアのように単体で都市を滅ぼすことができるようなものばかりだ。信じたくはないがこの魔物もその類の強力な魔物なのだろう。恐怖のあまりシェインが動けないでいると、魔物はこう言った。
「すんませんでしたッ!」
最初は何を言われたか理解出来なかった。そして何を言われたかを理解したらより混乱した。(……なんで?!この魔物なんで頭下げてんの?!魔物って普通私達人間種なんか獲物としか思ってないのに…。……まさか今から食べることに対しての謝罪?!)
「覗くつもりは無かったんです!道に迷っていただけなんです!だから警察だけは勘弁してください!」シェインにはもうさっぱり意味がわからなかった。(覗く?大体の魔物は人間種は食料としか考えてないはず…。それに道に迷う?魔物には帰巣本能があるはず……。というか警察ってなに?神官達が10人がかりで維持している結界を破るような強大な魔物が恐れるものって一体?)
「とりあえず後を向いているんで服を着てください!」と言いその魔物は後ろを向いた。(服ごとエルフを食べる趣味だというの?それにどうして後ろを向いたの?一度逃して狩りの真似をしようというの?)もはや疑問しか無かった。しかしこの魔物から逃げるにしろ、戦うにしろ、どちらにしても服を置いてある場所にまで行かなければならなかった。シェインはその魔物から目を離さないようにしながら服の置いてある岩まで移動する。目を離さないのは、目を離した瞬間に後から襲われるような気がしたからだ。
服のある場所まで下がり、持ってきていたタオルで軽く体を拭いてから急いで服を着る。服を着終えた瞬間に魔物はこちらに向き直した。(見なくても私が着替え終えたことに気づいた?聴覚に優れているの?)
そして、その魔物は再びこちらに話しかけてきた。
「すまない。取り乱してしまった。いくつか聞きたいことがあるだけなんだ。そう怯えないでほしい。」先程よりも落ち着いた声だった。
「聞きたい事……ですか?」
「ああ。まず一つ目だがこの近くに村か何かないか?」(村?村に行って何をしようというの?)とシェインが考えた時だった。
後から一斉に里の戦士達が現れ、シェインを守るように魔物の前に立ちはだかった。そしてさらに後からシェインの父、 ケイン・エル・フェンリーフを筆頭に村の長老達、それに神官達が現れた。
「シェイン!無事か!」と父親が駆け寄ってくる。
「よかった、無事みたいだな。戦士達よ!この魔物を攻撃せよ!」と父が命令を下す。
「待って父さん!この魔物は知性があるみたいなの。敵対すると不味いことになるかもしれない。」と急いで父を止める。
「知性を持つ魔物だと……?」父は数瞬考え、「全員、今の命令は取り消しだ!そこの魔物!交渉を行いたい!」と叫んだ。
その一部始終を見ていた魔物は幸いな事に攻撃しようとしたこちらに対して怒っている訳ではなさそうだった。シェインは安堵のため息を漏らす。戦わずに済む可能性があるならそちらの方がいい。これ程強力な魔物と戦うと間違いなく甚大な被害がでる。
「いいだろう。私としても無益な殺生は望む所ではない。」と魔物も返してくれた。
「私がほしいのはこの森の出口だ。その情報を私に渡すのならば君たちエルフには関わらない。それでどうだね?」と、魔物は言った。つまりこの魔物はこの里を守りたければ森の外の人間の村を売れと言っているのだ。父は他の長老達と相談し、
「……ここから南の方へ」そう言って南の方を指さす。「行くと森から出ることができる。」と言った。どうやら素直に要求を飲むことにしたようだ。
「いいだろう。それでは私はこれでお暇することにしよう。情報の提供に感謝する。」そう言って魔物は森の中へ消えていった。
魔物が姿を消し、ようやくその場にいたエルフ達は警戒を解いた。
「何なのだ!あの魔物は!あれほどの威圧感を持つ魔物なんて見たことも聞いたこともない!」とキルファの父、ヴェイル・フィン・エルヘイムが怒鳴る。
「私の方が聞きたいよ…。シェイン、あの魔物は一体どこから現れたんだい?」と父が尋ねてくる。
「解らない……。気付いたらすぐそこにいたの。」
「ふむ……。しかしトロールの奴らの仲間でなくてよかった。あんなのが奴らの仲間だった場合、我々はなす術なく殺されていたじゃろう。」と老齢の神官長が言った。
「全くだ。……神官たちよ、結界の張りなおしを頼む。戦士達はそれまでの間里のまわりの警戒を頼む。さて皆、解散だ。各々の仕事に戻れ!」と父が神官長と戦士長に命じ、徐々に皆、泉から去っていった。
洋は上手くいったとほくそ笑んだ。エルフの少女の裸を見た時はパニックになり自分がゴライアスであることを忘れ、なにかいろいろと口走ってしまったが、最終的に目的だった森の出口を知ることが出来た。いつもは不幸で計画通りにいく事がほとんどないため、非常に気分がよかった。
鼻歌交じりに言われた通り南の方に歩いていると、ふと妙な匂いを嗅ぎとった。まるでずっと風呂にも入らず過ごしてきたみたいな匂いがかなりの数で西の方から来るのだ。
興味が湧いた洋はその匂いの元へ身を隠しながら近寄る事にした。
果たして匂いの先にいたのは、皆醜悪な生物だった。3mほどの身長で筋骨隆々の下顎が大きく飛び出しているもの、それとほとんど同じ体格だが若干引き締まった耳の尖った緑色のもの、そしてそれらより遥かに小さく1mほどの身長ののものの三種族から成り立っている軍勢だった。皆金属の鎧に身を包んでおり、腰には棍棒や剣を持っていた。その中で最も目立っていたのは背に大きな大剣を背負った耳の尖ったものだった。洋は本能的にそいつが1番偉く、かつ1番強いと判断した。そんな者達が先程のエルフ達の方向へ進んでいた。
「オーガにトロール、ゴブリンってか?すごい数だな。あのエルフ達の仲間……ってことはなさそうだな。どう考えてもこりゃ戦争する気だ。」巻き込まれなくてよかったと洋は思った。
しかしこの軍勢がどれほど強いのかは確かめたかったので、遠い所から観察することにした。いずれ敵対するかもしれない魔王の軍かもしれないと思ったからだ。
トロール達は洋の予想通りエルフ達の里に向かっていた。道中2回ほどエルフの戦士達と遭遇したがトロール達は戦士を殺し里に辿り着いた。
「どうやらエルフ達よりかなり強いみたいだな。まあ、奴らの戦ったエルフ達が特別弱いという可能性もあるけど。」
観察して分かったことはトロールはどうやら再生能力を持っているということ、オーガは知能が低いということ、ゴブリンは奴らの中で最も弱く、逆にトロールが最も強いということ、そしてやはり大剣を持っている奴がリーダーっぽいということだった。
エルフ達はトロール達の侵攻に気づき必死に抵抗していたが、次々と捕らわれていった。そして観察を始めて1時間後にはエルフの里は完全に制圧されたようだった。
「簡単に制圧されすぎじゃねぇか?」と彼らの切り札だった結界を破壊した張本人はつぶやく。
エルフ達は本来敵の襲来時は結界で足止めして、その間に弓で攻撃するという戦法を取るつもりであった。だが、ゴライアスという規格外の魔物に結界を破壊されていたため、あっさりと陥落したのだ。ちなみに洋が特になにかした訳でもないのに結界が壊れた理由は、彼のスキルにあった。
グライルセールを殺したことでまた一つレベルが上がっていたのだ。それにより新たに追加されたスキルの名は、魔法防御無効。その名の通り、魔法の防御を自動的に無効化するというスキルだった。それによりエルフ達の結界は破壊されていたのだ。そんなことはつゆ知らず、洋はエルフ達の負ける早さに呆れていた。
どうやらトロール達は、エルフのほとんどを生け捕りにしたようだった。捕えられたエルフ達の中には先程泉で裸を見てしまったエルフ、確かシェインというエルフもいた。
自分の利益にならない。と見捨てようとしている自分に洋は驚いた。人間だった頃の洋ならば間違いなく利益を考えずに助けただろうが、いまは見捨てることに何の躊躇いもない。
「精神も少し変化しているのかな?まあ、大した問題でもないか。」
シェインは泉を出た後、父親と別れて自宅に戻ることにした。すると途中でテオとエイナに出会った。どうやら里の結界が破られ、さらに破られた場所がシェインが向かった泉だということで、心配して来てくれたのだ。
「よかった〜、シェインが無事で。親友を失うことになるかと思ったよ。」
「ホントだよ……。全く、なんで結界を容易く破るような魔物が唐突に現れたんだ?まさかトロールの連中の仲間か?奴らの親玉はあの結界を破ることができると聞くし…。」
「いや、トロールよりも大きかったし、襲いかかってきたりせずに交渉に応じたからから違うと思うよ。」
「トロールより強く、トロールより理知的とか、なんの冗談よ……。そんなのまるで、ドラゴンみたいな伝説級の魔物じゃない。」テオとエイナと話しながら自宅まで歩く。15分ほど歩き、自宅前について二人と別れようとした時だった。里の入口の方から鐘の打ち鳴らす音が聞こえてきた。その音はこの里に暮らしているものにとって最も恐れられている報せを意味していた。
トロール達の襲撃である。
「冗談だろう…?クソッ!なんで結界が破られて防御が手薄な時に60年ぶりに攻めて来やがるんだ!エイナ、シェイン、武器を持って里の奥の広場へ避難するんだ!」とテオが叫ぶ。
「テオはどうするの!?」
「俺は親父の所に行って手伝ってくる!入口で食い止められなけりゃこの状況だと里が落とされるかもしれない!」テオは、エルフにしては大柄で力も強かった。英雄と呼ばれているほど強い彼の父に似て、戦士としての才能に秀でているのだ。幼いころからの親友の戦士としての力を信じ、シェインとエイナは里の奥へ駆け出す。
広場には、既にかなりのエルフ達が避難していた。戦士達と神官たち、それに戦える男達は皆、里の入口でトロール達と闘っているのか、いるのは戦う術を持たない年寄りと女子供ばかりだった。恐らくこの中で最も強いエルフはシェインだろう。
里の入口の方からは煙が上がっており、家屋の焼けるにおいと、血のにおいが漂ってきていた。この血のにおいがトロールの血のものであることを祈る。
シェインとエイナは弓を構えて、里の入口の方から敵が来ないか警戒する。すると鎧を着て短剣を握ったゴブリン達が10匹こちらに向かって来ていた。二人は弓を引き絞り矢を放ちそのうち7匹を仕留めた。だが3匹は仕留めきれず、弓を使うには近すぎる場所まで迫られてしまった。仕方なく腰にさしてあった短剣で応対する。ゴブリンはそれほど強くなく、戦士でないシェインとエイナでも1対1ならば何とかなるレベルだった。だがこちらに来るのは3匹。正直キツイ。シェインが1匹と、エイナが2匹と斬りあう。
「ふっ!」シェインは何とか敵の短剣をよけ、ゴブリンの鎧の間に自分の短剣を刺しいれる。ゴブリンは一瞬痙攣し冷たくなっていった。そしてすぐにその短剣を手放し、エイナと戦っているゴブリンの片方に向けて低位火属性魔法、ファイアを放つ。ゴブリンは燃え上がり悶えながら倒れた。
「ありがと。危なかったわ…。しかし、ここまでくるなんて…。入口の方は大丈夫かしら。」
「きっとこいつらがうまくすり抜けただけだよ。そうじゃないと……かなりやばい。」
「そうだね…。…ッ!シェイン、うしろ!」
振り向くとこちらにオーガとトロールが来ていた。
「不味い……。」オーガは近づかれる前に弓で射抜けば倒せる。だがトロールは二人には倒す手段がなかった。後にいる戦えない者達に急いで逃げるように叫ぼうとし、後ろを向いた。すると、既に他のオーガがこの広場を包囲するように、近づいてきていた。
「万事休すね…。」
「エルフドモ!!ブキヲステロ!サモナイトミナゴロシニシテヤル!」と正面からきていたオーガが叫ぶ。エイナとシェインは大人しく持っていた短剣をすてる。もし自分達だけなら戦って逃げるということもできたが、広場には戦えない女子供がいた。この状況では逃げることも戦うことも愚策だろう。
オーガ達はゴブリンを呼び、ゴブリン達に広場にいる全員の腕をロープで縛らせた。そしてシェイン達に里の入口まで歩くように命令してきた。恐らく、入口は既に制圧されているのだろう。入口の広場まで辿りつくとやはりそこには、同じように腕を縛られた男達が広場に集まっていた。その中にテオと父親の姿を見つけた。大怪我は負っていないようで、少し安心する。里の入口の広場には、戦士達と神官達、ゴブリン、オーガの死体が散乱していた。そして中央にはトロール達がいた。
「そ、そんな……嘘…。お父さん……嫌ぁぁぁぁぁ!!」と、エイナが叫ぶ。隣にいるエイナの父親は広場に無数にある無残な骸の一つとなっていた。シェインは思わず目を背ける。右腕は引きちぎられており顔の半分ほどは棍棒か何かで潰されており中から何かピンク色のぶよぶよしたものがはみ出ていた。
昔から優しくしてくれていた人物の死は余りにも衝撃的だった。
そして他にも何人もの親しかった人たちの死体も見つけてしまい、シェインは目を覆い泣き出しそうになった。エイナはあまりのショックに何も言わず、俯いてしまっていた。
シェイン達は男達と同じように集まった。テオがこちらに近づいてきて声をかけてきた。
「シェイン、エイナ……無事だったか。」
「テオ……。」そして何も言わないエイナを見て察したようだった。
「親父さんの死体を見ちまったのか…。しばらくそっとしておいてやろう。シェイン、お前の親父さんに顔見してこい。前の方にいるから。」
「……わかった。エイナをよろしくね。」とシェインは父親の方へ行く。
「父さん!」と、シェインは父親に抱きついた。
「シェイン!よかった無事でいてくれていて。」と父親も優しく抱き返してくる。そしてしばらく抱き合ったあとかおを上げ父に尋ねた。
「そうだ。母さんはどこにいるの?奥の方には避難してきていなかったからこっちにいると思ったんだけど。」
「……そうか、お前は知らないんだな。母さんは、奴らに殺されてしまった。奴らが里に侵入してきたとき、母さんはこの広場にいて、奴らに真っ先に殺された。」シェインは頭の中が真っ白になった。我慢していた涙が次々と溢れてきた。
十分ほど後、トロールの中でも最も屈強な大剣を持ったトロールが声を上げた。
「エルフ達よ!この里は我々トロールが選挙した!今後はエルフ達は我々の奴隷として扱うものとする!異論があるものは名乗り出るといい!この俺と勝負し勝てた場合はお前らを解放してやろう!」
どうやらこのトロールはトロール達の長らしい。見るからに強そうなトロールに勝てるエルフなどいるのだろうか?とシェインが疑問に思ったとき、1人のエルフが立ち上がった。テオの父、英雄とすら呼ばれる戦士達の長、レオン・クレイス。
彼ならばあの屈強なトロールに勝ち自分達を救うことができるのではないかとエルフ達の中から期待の声が上がる。実際彼が捕まったのは、自分以外の戦士が全員捕まり、人質として使われたからであり、彼自身は未だ負けていなかった。
ゴブリン達が彼のロープを解き彼の装備を返した。そしてトロールの長の元へと彼は歩いていった。
「本当に俺がお前に勝ったら全員解放してくれるのだろうな?」
「ああ。お前が勝てたらな。俺達トロールは何よりも強者を敬う。俺に勝てたらお前は強者だ。その願いを拒否することはない。」
そして二人は1歩下がり、互いに武器を構え、凄まじい殺気を放つ。
先に動いたのはレオンだった。凄まじい速さで近づき手に持ったロングソードで切りつける。しかしトロールはそれを大剣で受け流す。そして凄まじい速さで剣と剣を打ち合わせる。互いに身体能力は互角のようだった。トロールは大きく横に大剣で薙ぎ払った。それをレオンは後に大きく跳ぶことで回避する。
そこにトロールは追うように突っ込み大剣を一回転させながら斬りつける。レオンはそれを何とか首を捻り避けた。しかし頬に切り傷を受けた。
そして両者後に飛び退き、構え直す。と、唐突にトロールは構え
を解いた。
「どうした!まだ勝負は着いていないぞ!」とレオンが叫ぶ。
「残念だがお前の負けだ。エルフの戦士よ。」
すると先程負った傷からレオンはみるみる石化していった。
「この大剣は斬られたものを石化させる魔剣。切り傷をおった時点でお前の負けだ。」
そして、レオンは完全に石像と化した。エルフ達は自分達の英雄が石化していくのを見て絶望に暮れていた。
「さて、他に俺と戦いたい奴はいるか?」とトロールの長が言った。しかしレオンに勝てないものに挑もうとするエルフはいなかった。テオも強いがまだレオンを超えることは出来ていなかった。
「……どうやら誰もいないようだな。よろしい。ならば今後お前達は俺達の奴隷だ。」と言うと、オーガのうちの一体が口を開いた。
「オサ。オレタチコイツラオカシテイイカ?」とオーガ達が若い女性のエルフを舐め回すよいに見てくる。シェインは恐怖に震えた。醜悪なオーガなんかに犯されるなど最悪だ。まして、シェインは処女であった。初めての相手がオーガなど絶対に嫌だった。どうか駄目だと言ってくれと、シェインはトロールの長に祈った。しかし告げられた言葉は裏切った。
「いいだろう。好きなだけ犯せ。」オーガ達がこちらに寄ってくる。そのうちの一体にシェインは捕まれ引きずられていく。
「嫌!止めて!」
「待ってくれ!頼む!娘だけは……」と父がオーガに頼むがオーガは父を軽く振り払いシェインを広場の真ん中に引きずっていく。
オーガはシェインを押し倒し、服を強引に脱がせた。そして、自分の纏っていた腰布を下ろした。醜悪なそれをシェインの股の間に近づけてくる。シェインは目を閉じ、覚悟を決めた。
しかし何も起らなかった。恐る恐るめを開けるとそこには……。
洋はトロールの長とエルフの戦士の戦いを見届け、トロールの長の武器に興味を持っていた。
「斬った相手を石化させた……?なんだあの大剣。魔法の武器って奴か?」もしかしたら強敵かもしれないと洋は若干警戒する。
「まあ、確か俺は石化無効ってスキルがあったからそれほどあの大剣は危険じゃないかもな。さて、まあそろそろ行くか。こんな森とっととおさらばして街でも探そう。」と南の方向に行こうとした。しかし、移動することは無かった。
「……南ってこっちであってたっけ?」洋は実は方向音痴である。見事に来た道が分からなくなっていた。
「クソッ!どうする?適当に進んでみるか?いや、多分また迷子になるな。……仕方ない。あのエルフ達を一旦助けてもう1回方向を聞くか。」と再びエルフの方を向いた時だった。
エルフの女達がオーガに犯されていた。それを見て洋は激怒した。別にエルフが可哀想だと思ったわけではない。ただ、洋は生まれてこの方女性経験が無かった。その自分の前で可愛いエルフを犯していること、さらにそれが自分よりもさらに見た目の劣るオーガだったからだ。ブチギレ状態の洋は後のことを一切考えずに全速力で突撃し、一瞬で広場にいたオーガ全員の首を跳ねた。
シェインは自分の目の前で起こっていることが信じられなかった。自分を犯そうとしていたオーガの首が無くなっておりそこから血が溢れ出ていたのだ。そしてそのうしろにはあの泉で出会った怪物がいた。その怪物は先程のレオンとトロールの長が放っていた殺気よりさらに強い殺気を放っていた。思わずシェインは心臓が止まるかと思った。
「貴様!何者だ!」とトロールの長が怒鳴った。
「俺のことなんざどうでもいい。それよりもだ。俺の前でこんな可愛いエルフ達をオーガ何かに犯させるとは、死ぬ覚悟はできてんだろうな?ああ?」と先程泉であった時とは違い、とてつもなく鬼気を放ちトロールの長と向き合った。
「ほう、俺と殺り合おうというのか?面白い。相手になってやる。何処からでもかかってくるがいい!」とトロールの長が言った直後だった。怪物の姿が掻き消えた。そして次の瞬間、トロールの身体の中央から怪物の腕が生えていた。怪物は一瞬でトロールの長の後に回り込み腕を突き刺したのだ。怪物はゆっくりと腕を引き抜いた。トロールの長は倒れた。
広場は一瞬、静寂に包まれた。そして次の瞬間、トロールとゴブリン達は一斉に逃げ出した。逆にエルフ達は怯えたままだった。怪物はゆっくりとシェインに近づいてきた。シェインは死の恐怖を感じ思わず目を瞑った。しかし死は訪れず代わりに腕を縛っていたロープが切られた。
「……え?」シェインは何が起こっているのかさっぱり分からなかった。何故この怪物は戻ってきたのか、何故この怪物はオーガ達を殺しトロールの長すら一方的に殺したのか、何故シェインの腕のロープを切ったのか。次々と疑問が浮かんでくる。
「とりあえず服を着た後、他のエルフ達のロープを解くのを手伝ってくれ。」と怪物に言われ、急いで無理矢理脱がされた服を着る。そして他のエルフのロープを解きに行った。何にせよこの怪物の言う通りにしないと、せっかく助かったのにより厄介なことになるかもしれないと思ったからだ。
全員のロープを解き終えると、父が代表して怪物に礼を述べた。
「この度は助けていただき、誠に有難うございます。何とお礼を申し上げれば良いか。」と父はとてつもなくへりくだって感謝の意を伝えた。恐らく怪物を怒らせないようにするためだろう。しかし若干声が震えていた。 「気にするな。私は道を教えて貰った恩を返しただけだ。」と怪物が返した時だった。うしろから怪物は切り付けられた。そこにいたのは先程倒れたトロールの長だった。
「フゥ…フゥ…。油断したな怪物。俺達トロールは再生能力を持つ。これでお前も石像だ。」エルフ達は再び絶望しかけた。
しかし、いつまで経っても石化は始まらなかった。
「どういうことだ!何故石化しない!」
「俺は種族的に石化が効かない。油断したのはお前の方だったな。」
「そ、そんな馬鹿なことがあってたまるか!石化が効かない種族なんてきいたこともない!」
「そうか。やっぱりゴライアスって珍しいのかな?」と怪物は平然としている。それどころか斬られた傷も塞がって何処を斬られたかすらわからなくなってきていた。
「クソッ!かくなる上は!」とトロールの長は黒い球体を取り出した。そしてそれを天に掲げた。すると急激にトロールの長は身体が縮み、エルフ達と同じ位のサイズになり、見た目も人間らしくなっていた。
「フハハハハッ!力が溢れるようだ!」
「何だそいつは?」と怪物は尋ねる。
「冥土の土産に教えてやろう。これは魔人の宝珠。これを使うと我々魔物は魔人に変化できるのだ!」
「ふーん。まぁ解ったから、もういいや。」そして怪物はトロールの長だったものの宝珠を握った方の手を切り飛ばした。するとトロールの長だったものはまたトロールのすがたにもどった。
「お、宝珠を失うと元に戻るのか。いいことを知った。じゃ、死ね。」そして怪物はトロールの長の首を跳ねた




