スピード出世
翌日、洋は疲れからか昼前まで寝てしまった。ゴライアスは疲労感は無いのだが眠ると常人を超えた分だけ長く寝てしまうという欠点があった。
寝ぼけ眼で服を着替え、宿の外へ出る。出かけているのかシェインとシルヴィアは既に部屋に居なかった。大きく体を伸ばして日光を浴びる。そこでふと大通りの方が騒がしいことに気づいた。
「なんだ?祭りでもやってんのかな?」とりあえず見に行くことにする。
大通りは南門から北門まで続く最も巨大な通りだ。その通りは人ごみで壁ができていた。何とか前の方へと行く。
「なんじゃこりゃ。大名行列かなんかか?」豪華な馬車などが大通りのど真ん中を通っていくところだった。
少し離れた所にシェインとシルヴィアを見つけたので近寄ることにする。
「おはよ。これ、一体何の騒ぎなんだ?」
「おはようございます、イアス様。かの七大英雄の子孫がこの街を訪れるらしく、これはその歓迎パレードらしいです。」とシェインが教えてくれる。
「七大英雄って、あの童話に出てくる?」
「はい。災厄の王に代表される様々な童話に出てくるあの七大英雄の子孫です。僕、昔読んだ災厄の王が大好きだったんですよ。自分達もゴライアスの様な強大な魔物を倒したいって昔、エウラリア達と話したりして……」
「へー、そうなのか。あのエウラリアがねぇ。まあ、エウラリアでもゴライアスには勝てないと思うぞ?」正直、エウラリアは強いとは思うが負ける気はしなかった。
「ちょっ、シルヴィア!?イアス様の種族はゴライアスなんだよ!?」とあわててシェインが止めに入る。
「へ?え、ええっ!す、すみませんイアス様!そうとは知らずつい……」
「まあ気にすんな。基本魔物は人間の敵なんだ。仕方が無いさ。それにしても、今もゴライアスを倒したいなら相手になるぞ?」
「と、とんでもございません!」とシルヴィアが慌てて断る。
そんな話をしていると何やら最も豪華な馬車が現れた。車は金の装飾をされており、真っ白な車体には汚れ一つない。屋根はなく1人の男がにこやかに手を振っている。その車を引く馬はなんとペガサスだ。目立ち方が桁違いだった。
「あ!あれが七大英雄、聖王レオファイアの子孫、ディラフィス様です! 」とシルヴィアが興奮した面持ちで馬車から手を振っている男を指さす。
「へー、あれが。……………ッ!」その男を見た瞬間全身の血液が凍りつくかのような寒気がした。今すぐここから逃げたくなってくる。戦っても勝てないとそんな気がしてくる。凄い勢いで冷や汗が出てくる。
「?どうかなさいましたか?」とシェインが聴いてくるがそれどころではなかった。
馬車の男は特別こちらに気づいたりすることなく目の前を通り過ぎた。視界から消えてようやく寒気が治まった。
「……な、何なんだあの男。」
(あいつ……間違いなく俺より強い。正直、あんなの向かい合うだけで心臓が止まりそうだ)
その後何とか落ちついて、冒険者ギルドに行く事にした。ブルートアオゲの報酬をもらうためだ。
冒険者ギルドのドアを開けると、受付嬢が声をかけてきた。
「イアス様。ギルド長があなたにお呼びになっています。ブルートアオゲの件について話したいことがあるそうで……」
「わかった。シェイン、シルヴィア、ちょっと待っててくれ。」受付嬢に連れられて洋は三階の一室に通された。中には筋骨隆々の初老の男性がソファに腰掛けていた。
「やあ、君がイアス君だね?私はここ、コーレス冒険者ギルドの長をしているボールゲンという。よろしく頼む。」と立ち上がり手を差し出す。
「ええ、こちらこそよろしく。」とりあえず手を取り握手をしておく。
「さて、まあ腰掛けたまえ。飲み物でも如何かな?」
「はあ、それじゃあ貰います。」先ほど冷や汗をかきまくったからか、喉の渇きが尋常ではなかった。
「しかし、呼び出して済まないね。少し聞きたいことがあったのでね」
「はあ。」
「あのブルートアオゲを倒した経緯を教えて欲しいんだ。」
「えっとそれは……」とりあえずシルヴィアについてのこと以外は全て教えることにする。
「……なるほど。それは災難だったね。ブルートアオゲは十年前からこの近辺で目撃されているのだが、なんせ奴はワイバーンだ。なかなか倒せる者もいないし、ワイバーンは逃げ足が速い。厄介者だったんだ。これで奴に悩まされずに済むよ。冒険者ギルドを代表して礼を言おう。」と、ボールゲンは深々と頭を下げる。
「い、いや、そんな……」
「さてと、報酬なんだが金貨120枚だ。あと君の強さをふまえて今日から君達のパーティをBランク冒険者に昇格とする。」洋は自分の耳を疑った。
「び、Bランクにですか?」
「ああ、本当はAランクに上げたかったのだが反論が多くてね。これが君達の新しいプレートだ。君達ならすぐにAランク、いやSランクにまで登れるだろうがね」
「ありがとうございます!」ボールゲンから三つのプレートを貰い洋は部屋を後にした。




