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門出

第2章です。

ヴィルセルム帝国の北部にある都市、コーレスは帝国の中でも魔法の研究の進んだ都市である。というのももともとはこの地域は近くにグライル大樹海という魔物の巣窟があるため自らの身を守るために魔法が発達してきたのだ。都市の中では様々なマジックアイテムが人々の生活に実験的に組み込まれている。魔法の使い方を教える教育設備も整っており、都市の面積の1/4を占めるセイヴェルン魔法大学には世界中から様々な種族が魔法を学びにくる。ヴィルセルム帝国三大都市の一つである。

そんなコーレスの北門前にシェインは魔人化した洋と立っていた。


四日前。

イアス様という強大な魔物にこのリュ・フルールに住むエルフ達が服従を誓ってから2週間たった。当初はやはり魔物に従うことで一体何をさせられるのかと恐れていたエルフも多かったがイアス様はこの里を配下に加えた魔物達に護らせており、寧ろこの里は以前よりも更に生活が改善されていっていた。今となってはイアス様を恐れるどころか感謝し、偉大な支配者として信頼していた。もちろん、魔物に支配されていることに不満を持つ者も少数だがいる。キルファとその父ヴェイルは未だにイアス様を恐ろしい凶暴な魔物で、里から追い出すべきだと主張しているが父を含む他の長老達が圧力をかけて黙らせている。

現在この里は森の中の仕事のほとんどが魔物達、魔物達の取ってきたものの加工をエルフがしている。まあ、薬草などは魔物では区別がつかないらしく、エルフが彼らに護られて採取をしているが。

シェインは父親に頼まれイアス様の側近をやっていた。父親に謝られたがシェインとしては、狩りは魔物達がするので仕事がないから願ったり叶ったりだった。イアス様の強さでは自分が傍に控える必要もないように思えるのだが、イアス様が近くに1人エルフを護衛として置いておきたいと言ったらしく、そこで生き残ったエルフの中でも強い部類に入るのに仕事を持たないシェインが選ばれたのだ。まあ、最も強いイアス様の傍にいれば最も安全だろうと父親が少し贔屓を行っているのもあるのだろうが。

イアス様の近くに常に控えていて、いくつかわかったことがあった。イアス様は何故かはわからないがここいらに土地勘がない。魔物は普通縄張りを持ち、基本その中から出てこない。なので魔物は土地勘に優れている。そのはずなのだが、イアス様はここがどこなのかさっぱりわかっていないようだった。この里に行き着いたのもさまよっていたら偶然見つけたもののようだ。他にもイアス様には結界が効果を成さないこと、火を吹くことができること、雷を体から出せること、そして最も驚いたのがイアス様が女性だという事だった。魔物の時は男のような声なので男だと思っていたのだが、魔人の宝珠というアイテムを使い魔人化したらなんと女性だったのだ。

今日でシェインはイアス様の側近になってから10日経つという日であった。その日、イアス様は父とケルベロスのヴァルカと会議をされることになった。

「「「……以上が先週の魔物達の狩りの収穫です、イアス様。」」」

「ふむ。ご苦労。さて、これで2人とも、いや1人と1頭?まあいいか。他に何かあるかね?」

「……特にはありません、イアス様。」

「「「同じく特に無いかと。」」」

「そうか。ではこちらから一つ話したいことがある。」そう言って一息置くと、

「人間の街に行こうと思うんだ」と言った。シェインは何を聞いたか理解出来なかった。

「な、何を言っておられるのですか!人間達は魔物を完全に敵視しております!そんな者達の街に行くなど……」

「「「その通りです!奴らは私たちの仲間も数多く葬ってきました。イアス様ほどの力があれば確かに危険は少ないかも知れませんが万が一のことがあっては!」」」

「わかっているさ。だが、今後人間達との遭遇が無いとは限らない。彼らがこの里に攻め込んでくる可能性もあるんだ。ならば彼らの手法を学んだ方がいい。そのためには彼らと共に過ごすのが最もいいのだ。」

「だとしても!」

「お前達が心配してくれているのはわかった。ならこうしよう。誰か1人だけ配下の者を連れていこう。その者が私を守るというのならいいかね?」

「「「……本気なのですか?」」」

「ああ、本気だ。」とイアス様は頷く。

「……わかりました。私たちはイアス様の配下。イアス様の命令には従います。」

「よし。ヴァルカ、私が留守の間私の代理となれ。ケイン、私としては、このシェインを連れていきたい。大丈夫だ。私が全力で守る。」シェインは驚愕でへたりこみそうになる。

「……シェインが、構わなければ。」

「いいかね?シェイン。嫌なら嫌と言っていいんだぞ?私がお前を一方的に気に入っているだけなのだから。」とイアス様がこちらに向いて尋ねてくる。シェインはイアス様に命を救われた身。人間の街に行くのは怖いが、それよりイアス様に対する感謝の念が勝っていた。

「イアス様のお望みとあらば。」

「……よし。ならばシェインを連れていく。明後日には出発しようと思う。明日の内に用意をするといい。それではこれで会議は終了だ。シェインも今日はあがっていいぞ」と言ってイアス様は退室された。それに続いてヴァルカも退室し、会議室には父とシェインだけになった。

「シェイン……良かったのかい?」

「うん。お父さんには心配かけるけど、私はイアス様に付き従いたい。あの人に救われた恩を少しでも返したい。」

「それがお前の選択ならば止めはしないとも。しかしイアス様も唐突に無理を仰る。シェイン、今日は早く帰り休みなさい。明日は用意に忙しくなるぞ。」

家に帰る途中、シェインはエイナとテオの2人に暫くイアス様と共に人間の街に行く旨を伝えた後家に帰り眠りについた。


洋はプレッシャーに耐えかねていた。そもそも洋はただの高校生だ。あんなに人々に敬われるのはもはや苦痛であった。そのため、会議で人間の街に行くと言い出したのだ。まあ、ちょっと好奇心もあったが。


そして話は冒頭に戻る。シェインは灰色のローブに身を包み魔人化したイアス様のそばにいた。イアス様は茶色のマントに白いシャツ、皮のズボンという質素な服装だった。腰にはロングソードを下げているがおそらく普通に殴るだけで充分即死だろうから意味は無さそうだった。

「さて、ここからは敬語はいいが敬称はやめろ。」

「え、えーと、わかりました、イアスさん」

「さんもいらないけど……まあ、いっか。 」

そして2人はコーレスの門をくぐった。

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