一般的な日本人には荷が重い
洋が手に取った本は、【災厄の王】という本だった。どうやら童話のようだ。
昔、ゴライアスという魔物がいました。ゴライアスは凶暴で、目につくもの全てを破壊しました。その恐ろしさから災厄の王と呼ばれていました。幾人もの人々がゴライアスに挑み、戦いましたが誰も勝つことは出来ませんでした。希望が潰えたかのように思えたとき、7大英雄が立ち上がりました。7大英雄は神々の力を授かり、3人の犠牲を出し、やっとのことでゴライアスを倒しました。しかしゴライアスは最後に自分の邪悪な力の結晶を2つ世界のどこかに放ちました。残った4人の英雄は、その邪悪な力が再び振るわれたときのために自分達の子供に力を託して、邪悪な力を探しに行きました。英雄達は力を見つけることが出来たのかどうかは、誰も知りません。
「……もしかしてゴライアスって凄いヤバイ魔物なの?」と思わず洋は呟いた。ある程度強い魔物だとは思っていたがこれほどとは思っていなかった。
本を棚に戻した時だった。ケインが駆け込んで来た。
「イアス様!……あれ?そこの君、ここに巨大な魔物がいなかったかい?」
「えっと……まあ、その……あっちに行きました!」
「そうか。」と言ってケインは奥に走って行った。どうやら魔人化しているので気づかれなかったようだ。
ケインが行ったあととりあえず服を脱ぎ、魔人化を解く。そしてケインを追いかけた。
「ケイン。どうしたんだ?」
「イアス様!大変です!魔物の群れがイアス様にお会いしたいとこの里の入口に来ております!」
(……どういうことだ?俺はこの世界に来たばかりで全く知られてないはず……。そんな俺に会いたいって……もしかしてエルフ達による罠か……?)
「ふむ……わかった。案内してくれるかな?」とりあえず会ってみることにする。先程読んだ童話からゴライアスに勝てるものなどそうはいない筈だと踏んだのだ。
急ぎ里の入口に着くと、そこには様々な魔物がいた。角の生えた狼のようなもの、一角兎など獣のような魔物ばかりだ。それらを不安そうにエルフ達が見つめている。魔物の群れの中から狼のようなものの中でも大きいものが進み出てこちらに唸る。
「グルル……お前がここを襲ったトロール達を倒した者か?」
「ああ、そうだが?」
「グル……我らの主がお前に話があるそうだ。」そういうと狼のようなものは群れの中に戻った。そして群れは2つに分かれその間からそれは現れた。
それは3つの頭を持った犬、ケルベロスであった。
「「「あのトロールを倒すとは一体どんな奴かと思ったが……なるほど其の姿、かの災厄の王ゴライアスであったか。」」」3つの頭で同時に話しているためか聞き取りずらい。
「「「我が名はヴァルカ。ここから北東に縄張りを持つものだ。」」」
「これはご親切に。俺はイアスという。縄張りは……特にもってない。それで?俺に何のようだ?」洋はここに来て初めて魔物に強いと本能的に感じる。このヴァルカというケルベロスは間違いなく、この世界にあった者の中で最も強い。今の自分より強いかどうかはともかくとしても、これまでのように一方的に倒すことは出来ない。そう感じていた。
「「「何、大したことではない。ただ……」」」
「「「我々をあなたの配下に加えて欲しい。」」」
「……え?」何を言われているのかさっぱりわからなかった。ヴァルカ以外の全員が困惑した。
「「「あなたはおそらく我よりも遥かに強い。戦えば抵抗はある程度出来るやもしれぬが間違いなく我々は皆殺しにあうだろう。当初はあのトロールより強いものが現れたと聞いて配下に加えようと考えていたが、愚かな考えであった。我々はあなたに、イアス様に絶対の忠誠を誓う。どうか我々を滅ぼさないでほしい」」」そう言ってヴァルカは頭を垂れた。それを見てヴァルカの配下の者達も慌てて頭を垂れた。洋は唖然とした。
(こ、これ、どうするのがいいんだ?クソッ!何でリアルではセーブとロードがないんだ!)考えた末に、
「……いいだろう。忠義を尽くせ」とだけ言ってみる。
「「「はっ!」」」とヴァルカ達が返す。
(……ホントこれどうしよ……)洋はあたまを抱えた。
「……一先ずお前達はこの里の近くで暮らせ。ただし、絶対にエルフ達は傷つけるな。彼らは俺と協力体制にある。もし傷つけた場合それ相応の罰を与える。とりあえずは以上だ。」と命令しておく。
「「「はっ!」」」と了承の意を示し魔物達は、森の中へと引き返していった。
ふと振り返ると、エルフ達がこちらに跪いていた。
(もう何で次から次へと判断に困ることが起こるの!?)
「……一体どうしたんだ?」と恐る恐るエルフ達に尋ねる。
「我々もイアス様の配下に加えて頂きたいのです。」とケインが予想はしていたが違ってほしいと思っていた言葉を告げる。
「私達はイアス様にトロールから救われました。そのような恩人と対等などこれほど無礼なことがありましょうか!イアス様の思いに反することかもしれませんが何卒お願い致します!」
(……もういいや。こうなりゃなるようになるしかねぇ!)
「いいだろう。こちらとしては対等でありたかったが仕方ない。お前達が従いたいというなら、従うといい。ただ、これは強制ではない。従いたくなければ従わなくても良い。」とだけ言う。
こうして洋はグライル大樹海の最大派閥のリーダーとなった。
これで一先ず1章は終了です。
次は来週頃かな……




