初めての魔人化と知りたくなかった真実
洋は暇つぶしに図書館に蔵書してある本を適当に読むことにした。しかし……
「小さすぎてうまくページがめくれない……。」エルフ達の体格にあったサイズの本はゴライアスの手には小さすぎた。更に1歩間違えたら鋭い鉤爪が本を貫きそうになる。そしてふと閃いた。
「そうだ!なぁ、魔人の宝珠。魔人になるにはどうしたらいいんだ?」魔人化したトロールはパッと見たところ人間の姿になっていた。自分も魔人化すれば人間サイズになれるのではと考えたのだ。
『私を持って念じて下されば魔人化出来ます。また、元に戻る時も同じように私に念じて下されば元の姿にお戻りになることが出来ます。』
「なるほど。じゃあ、早速……」と洋は魔人の宝珠を手に持ち、魔人化せよと念じる。すると、まるで内側に力が集まるかのような感じがし、強い目眩を感じた。目眩が収まると先程よりも視点が低くなっていた。
「成功かな?」と自分の手を目の所まで持ち上げてみる。人間の手のようだった。黄色人種の肌の色ではなく白人の白い肌だったが。ただ、ふと違和感を感じた。何故かやけに自分の肌が艶やかに見えたのだ。そして自分の体を見下ろした。
「……え?」素っ裸だった。ただそれは予想通りだ。トロールも魔人化前に着ていた鎧を魔人化後に着ていた。おそらく衣服は魔人化前と後ではサイズだけ変わり、それ以外はそのまま反映されるのだろう。洋は衣服を着ていなかった。だから素っ裸なのは理解できた。問題は……
「お、女の体……?」完全に女性の体だった。胸が盛り上がり、豊かな双丘を築いていた。もちろん陰茎もなくなっていた。宝珠に映った自分の顔を見ると顔の整った美人がいた。髪はゴライアスの毛のように真っ白でボサボサだが活発そうなイメージの範疇であり美人を台無しにするどころかより際立てていた。
「どういうことだ!」と魔人の宝珠に怒鳴る。
『い、一体どうされたのですか!?』
「これは完全に女の体じゃないか!」と言ってふと思い出した。ゴライアスに男性器が無かったことを。
『も、申し訳ありません!ですが、私には性別を変える力は無く……。』
(……まさか、俺が転生したときから性別が変わっていた?いや、しかし……)
「俺が魔物の時の声は男のものだったよな……?」
「人間で言うところの男の声のようですが、伝承によると災厄の王、ゴライアスは地の底から響くような恐ろしく低い声だとあったので貴方様はメスだと思っていたのですが……。もしや、性別の存在しない種族だったのですか!?」
(確定か……。つまり俺は転生したときに性別が変わってしまったのか。)
「すまない、冗談だ。謝らなくてもいい。俺はメスだ。無性別という訳ではない。」割と諦めの感情で全力で謝り続けていた魔人の宝珠を止める。
(しかし……童貞のまま無くなっちゃったか……。)と改めて自分の体を見おろして思う。
とりあえず素っ裸では痴女にしか見えないため、一旦魔物に戻る。そして適当にうろつき司書を見つけ声をかける。
「すまない、普通のものでいいのだが服を1着欲しい。」我ながらなにを言っているのだろうか。
「ふ、服ですか?えっ、あの、その、申し訳ございません。貴方様の体格にあった服はなく……」
「ああ、いや君たちが着ているサイズの服でいいんだ。先程読んだ書物に書いてあったことを試すために使うのだ。」とりあえず適当に理由をつけてみる。
「そ、そうですか……?えっと、その、しばらくここでお待ち頂けますか?」
「ああ、構わないとも。」と言うと司書は急いでどこかに駆けて行った。
「……完全に怯えられてるなぁ〜」とちょっと傷つく。
『流石はイアス様!見るもの全てに畏怖されるとは!』宝珠が割と鬱陶しかった。
しばらくすると司書が戻ったきた。手には司書の着ているものと同じ服があった。
「お、お待たせしました!私達司書の制服しかこの図書館には衣類が無いのですがこれでよろしいでしょうか……?」とおずおずと聞いてくる。
「それで構わないよ。どうもありがとう。」と服を受け取り頭を下げ感謝を告げる。
「そ、そんな!頭をお上げください!貴方様は私達エルフを救ってくれました。その貴方様のためならば出来ることはなんでも致します!……それに、その、私がオーガに犯されかけていたときに貴方様は助けて下さいました。私個人としても貴方様にはいくら感謝しても感謝し足りないほど感謝しております。」
「そ、そうか?まあ、そうか、ではこれで失礼する。」と洋は若干気圧されながら先程の本棚の前に戻る。
「怯えているけれども感謝もしてるということなのか……?よくわからん……」ともかく衣服は手にいれた。一旦衣服を置き再び魔人化を行う。そして気づいた。
「あっ……下着を忘れてた……」前田 洋という人間は根本的な部分でアホである。今回も見事にそれを炸裂させていた。とりあえずノーブラノーパンで過ごすことにする。司書の服は黒いスーツで下がスカートだった。初めて着る女性服に戸惑いつつ着る。
「よし、これでまあひとまずはいいだろ。ただ……えらくスースーするな……」やはり下着も頼むべきかと考えるが、すぐに否定する。
(もし頼んだら完全にHENTAIじゃないか……。仕方ないとりあえずはこの姿でいよう。)
洋は目についた本を手に取り読みはじめた。




