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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

禁じられたクリスマス

作者: 続木パン

 時は2235年。世界からクリスマスが消えて、早百年位が経った。長い年月である。人々がクリスマスがなくなってしまった理由を忘れてしまっても無理は無い程度の年月が経っている。


 そんな人々がクリスマスを忘れてしまった時代に、昔の記録の一部から12月24日から25日には赤い服を着て、奇妙な三角帽子を被って踊り明かすイベントがある事に気付いたのはとある歴史研究家くずれの男だった。


 研究家として生活していくことが出来ずに、その見目の良さから飛び込んだ芸能の世界でも最初は持て囃されたが、次第にそのメッキがはがれた事によって忘れ去れていった。そしてそんな男のもとを妻は子供を連れて出て行った。

 今は地方の小さな町を転々として、人々に小馬鹿に満ちた懐かしい人を見る目で見つめられ、ほんの少し売れただけの歌を歌って日々、なんとか生活している。

 

 彼は研究家としては三流である。

 検証もろくにせずに自分の発見が新しい発見だとして発表しては学会では白い目で見られてる男だ。

 そもそも研究家と名乗っているが、ここ百年程度であるならば、映像での記録も大量に残っているし、当時に新聞記事などを丁寧に調べていけばその時代に何が起きたのかなんてある程度はわかる。

 よってあまり最近の研究をするものはあまりおらず、近代の研究と言えるような事柄が残っているのは、やはり1800年や1900年代辺りを指すと言えるであろう。


 ちなみに彼は頭が悪いわけではなく、根気が無いだけの男である。

 散々学会の人々に馬鹿にされてきたのには我慢がならなかった。

 そして自分の能力を認めない市井の人々を見返したかった。

 どうにかして、復讐してやろうと考えた。


 そんな時に見つかったのがクリスマスに関する記述である。

 何回も失敗を繰り返してきた男である。ただクリスマスの研究を発表した所でどうせ馬鹿にされておしまいなのはわかっている。

 そこで昔の伝手を使って、メディア関係者と協力の上でクリスマスを復活させるキャンペーンを行う事にした。


 失われた聖夜を蘇らせた男として時代の寵児となり、注目を浴びる事によって、普段陽の当たらない、暗い部屋で研究している学会の男達や家から出て行った妻に復讐しようとしたのだ。


 偶々なのかもしれないが、この狙いは成功した。

 多くの人が持っているメディアツールによって失われたクリスマスについての特集が組まれ、また様々な企業が便乗してキャンペーンを行ったのである。

 数多の歴史研究家や世界最高齢の女性が反対を表明したが、その言葉は世間の人々の喧騒の中にかき消されていった。


***


 時はさかのぼって2135年。

 この時代にも世間をうらんだ一人の男が居た。

 男はぶくぶくと太った醜い男であったが、人より頭の出来がよく人工知能の父とまで言われた男である。

彼は世界にある全ての人工知能搭載のマシンの基幹プログラムの作り上げた功績によって莫大な利益をあげており、世界のトップ10に入る程の金持ちであった。

 近づいてくる女は男の金が目当てであり、自分とベッドの上でよがって見せても、裏では別の男と突《・》き《・》合ってるような女ばかりだった。


 そんなある日、男は一人の少女に恋をした。

 白いワンピースに麦わら帽子のよく似合う彼女は決して男を嫌がったりせずに、笑顔で接してくれた。

 彼女に認められる男になりたいと、鏡に映る自分の姿を変えるための努力を始めたのだ。

 その努力も報われ、人並み程度の容姿を手に入れた男は改めて少女のもとへと向かった。


 ―――そこには、血の海が広がっていた。

 狂った男に狙われた彼女は、絶望に目を見開きながら……殺されていた。


 それ以来、男はどこに居ても世界が赤と白で切り分けられているように感じていた。

 白い鳩を見ても、白いチャペルを見ても、そして白いワンピースを見ても、どこかに赤色が混じる。

 その赤は日に日に大きくなり、次第に視界のほとんどを覆っていった。


 赤い世界の中で男は一つのプログラムを完成させた。

 ありとあらゆるプログラムに入り込み、12月24日と25日に世界を赤一色に変えるプログラムである。


 時は2135年、12月24日。

 世界のクリスマスは真っ赤に染まった。


 男のプログラムによって暴走した人工知能たちがクリスマスの中に刃物や鈍器、また自らの身体でもってサンタクロースを血祭りにあげ、その近くの人々を殺していったのだ。

 その喧騒のなかに、世界に絶望した男の姿もあった。


 翌年のクリスマスまでに世界の人々は、人工知能の中にある殺戮プログラムを取り除けないか奮闘したが、誰一人として成功する者はいなかった。

 何故ならば排除しようした人々は近くにある人工知能によって殺害されていたからである。


 多くの犠牲によって、そのプログラムが作動するのはクリスマスの日のみだという事がわかった。

 もう人工知能なしで生活をする事が出来なくなっていた人々は、新たな人工知能の基幹プログラムが完成するまでは、クリスマスを禁止することに決めた。


 そして百年と言う年月が経ったが、たった一人の天才によって作られた基幹プログラムは未だに新しく作成されてはいない。


*** 


 血の海に染まった街を男が歩いている。

 自分の事を認めなかった世界への恨みに濁った目で赤い世界を眺めている。

 足元には今日会う約束をしていた、元妻と自分を選ばなかった子供の首が転がっている。

 満足げに微笑んだ男の首は、近くに居た人工知能によって胴体とさよならをした。 


三点お題。


人間、クリスマス、禁じられた殺戮。

(ジャンルも指定されたけどサイコミステリーとかよくわからぬ…)

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