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どうせ死んでしまうなら  作者: 冬次 春
20/21

7話(2/5)

本当にお久しぶりでございます。

 そのエンジンは一日中力強く回り続ける。数学の問題が数問わからないぐらいではへこたれず、先生に指され戸惑ってしまったとしてもその羞恥心などは置き去りにして行く。

 エンジンが安定しているのはとても心強く、僕の体はひと昔前よりの軽いように感じる。それでもまだ自由自在というわけではなく事あるごとに考え込む癖は治っていない。


 クラスメイトも今では僕の存在を尊重していてくれているように感じるし、文化祭実行委員長という肩書が適度に僕を照らしてくれていたりする。その温かさが気持ちいいように感じる時もあれば、杞憂を生むこともある。

本当に細かいことなのだ。ハラショーさんとこうしている今も自然と彼女の思考を自分の中で創造して、勝手に不安になる。今の自分に慣れてしまうことが変わるということになるのか、自分を捨てるということになってしまうのか。別にそれほどまで硬く考えることはないことを感じながらも、そんな思考はいつしか呼吸のようになっている。


 「おう。早いな」


 珍しく疲労を露わにした早田先生はノールックでドアを閉めると、僕とハラショーさんの間の席にゆっくりと腰かけた。自分の腕時計と教室の腕時計を何回か交互に見るのは早田先生の癖らしく、いつも疑問符が頭上に浮かぶ。

 気づいたのはここ最近のことで、それまでは腕時計のベルトがきれいなエメラルドグリーンであることも知らなかった。やはり余裕は徐々に形になっているのかもしれない。

三人での小さくも僕史上最もしっかりとした会議は、早田先生の大きな伸びで幕が上がった。


 「早速だけども、クラス企画の案とかある?」


 およそ想像ついていた言葉に頭を痛くした僕とは反対に、ハラショーさんは待ってましたと言わんばかりにクリアファイルから持参の資料を取り出し、幾つか候補を挙げてみせた。


 お化け屋敷やバラエティ番組のパロディー、そして許可が下りさえすれば模擬店もいいかもしれないとのことだった。

 企画自体にはそれほどの衝撃はなかったものの、準備の良さと躊躇いのなさは流石であった。それは早田先生も同じだったようで、ふむふむと漫画のように頷いていた。

 

 学生のくせに文化祭というものに疎い僕は、昨年度のことを振り返っていた。確か校舎全体を利用したクイズ式のスタンプラリーのようなものを企画して、クラスメイトが一年生なりに奮闘していた。

 カードを作り難易度を調整し、スタンプは美術部の生徒が試行錯誤して結局無難に明朝体で揃えていた。

 なぜこんなにも覚えているのかというと、僕は一応係員だったからだ。最初はあまり関わらずに当日も屋上に通じる開かずの扉の前で一人楽しもうと単行本と漫画を何冊かピックアップし僕なりに楽しみにしていた。それなのに当日は何の間違いかスタンプラリーのチェックポイントに立たされていた。


 物思いに耽ることにしようと遠くを眺めるが、タイミングよく来る客に悉く邪魔されてまともなものにはならなかった。それどころかスタンプを笑顔で押して、立っている僕にお礼を言ったりたまにお菓子を渡す彼らの気持ちがいまいち理解できなくて頭の隅が少し痛くなったのを覚えている。

 こんなことをするぐらいなら、まだなんとかランドやほにゃらら遊園地に行ったほうが楽しいのではないだろうか? SNSをみると中学以来の再開! とたったの数か月の期間をまるで数年間だと錯覚させるような誇張のきいた文章が並んでいて辛かった。大体そのような人の投稿を遡らせてもらうと数日前、数週間前に遊んでいたりするのだ。

 それはさておきどうせ暇でしょと送り出された僕の手には逃げ道はなく、いつになっても後継者も来ないまま。結局数時間を無駄にしてその一日は幕を閉じた。


 「渡邊はなんかあるか?」


 早田先生の投げかけで意識をこちらの世界に移したのだが、それと同時に僕の口から奇妙な音が吐かれ一瞬で僕の周りだけが真夏になった。

 


 

 

拝読ありがとうございました。これからは一つに話をコンパクトにして投稿頻度を上げていきたいと思います。実現できるかは定かではありませんが。これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします。

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