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どうせ死んでしまうなら  作者: 冬次 春
13/21

5話 (2/4)

前回の続きです。よろしくお願いします。

 僕の髪の毛三兄弟を見ようともせずに、彼女はスーパーのドアに魔法をかけ、手を使わずにドアを開けた。僕も同じくそうする。

 慣れないスーパー独特の香りに困惑しながらも、僕は買い物かごを手に取った彼女の後をアヒルの子のようについていった。前に誰かがいてくれるこの状況は僕の性に合っている。


 だいたいスーパーに来たときはお総菜コーナー側から入店するのだが、今日は特別に野菜・果物コーナーからの入店。そのちょっと先のほうには鮮魚コーナーや精肉コーナーが見える。

 父から渡されている食費代を彼女に渡してみると、「なるべく安く済ませるね」ととてもお金持ちの部類に属する人間とは思えないことを口にした。これも僕の過剰な偏見だったりするのだろうか。


 彼女はスーパーの中の構造を認知しているようで、オムライスの材料を素早く集めていく。卵が入ったパックを買い物かごに入れたとき、家にあることを言おうと思ったのだが、彼女が鼻歌を歌って気持ち良さそうだったのでやめておいた。多分これから一週間は朝ごはんが、卵かけごはんになることだろう。


 夕方のスーパーに男女二人組の高校生というものは案外珍しいようで、60~70歳くらいのおばあちゃんに兄弟に間違えられたり周りから妙な視線を感じていた僕は、自分なりに気を使って先に外に出て待っていることを彼女に提案してみたのだが、「女の子に荷物を持たせちゃだめだよ!」と注意されたので彼女の手から買い物かごを取ると、「まぁ!」と何ともおばさんチックなリアクションが帰って来た。


 そして、会計を済ませた僕ら二人は彼女の持っていたエコバックのおかげで2円の値引きのゆるされた後、何やかんやあって今僕の自転車のハンドルの両側にはエコバックが二つずつぶら下がっている。

 彼女は「また倒れちゃうよ? 一つ持とうか?」と言ってはくれたのだが、僕は前半部分の揶揄いにちょっと不機嫌になり、この状況になってしまった。今になって後悔している。


 僕の後ろを走る彼女はまた呑気に鼻歌を歌っている。


 「ここを左に曲がったらすぐ着きます」


 僕が宙に浮かせたその言葉を彼女は自転車のおかげでうまくキャッチして、空気の抵抗に負けないくらいの声の大きさで「オッケー!」と騒いだ。そう、騒いだ。


 そしてブレーキをかけながら気持ちよくハンドルを左に切った僕らは、車二台分の車庫の空きスペースに自転車を止めた。父が帰って来た時に車をとめられるようになるべく端に寄せることは彼女が提案してくれた。


 家に自分の知り合いを入れることが滅多にない僕の手は震えて、玄関ドアのカギ穴にうまくカギがはまらない。やっと空いたと思ったら、引き戸を押す始末。この同様っぷりには当然彼女も大爆笑だ。


 「どうぞ」


 お客の彼女よりも緊張している僕が家の中へとエスコートしようとスリッパを用意したのだが、彼女は玄関の家族写真の前で止まって動かなくなっていた。

 あまり見ないよう注意しようと思ったのだが、彼女の口から洩れてしまったと思われる日知ことで僕はそれを止めた。


 「いーなぁー」


 彼女出会ってからというもの、あまり両親に好意を持っていないようなことを口にしていた。母親との関係性は初対面の時の印象で言えば良さそうであったのだが、少なくとも父親とはあまりいい関係性ではないようだ。


 無表情に小さじ一杯ぐらいの笑顔を足された表情に彼女にかける言葉を探した。しかし、結局気が利いたことはできず「春さん」と呼ぶことでしか彼女を救うことができなかった。正確には救えてもいないだろう。

 でも彼女は、「ごめん、ごめん」と言ってそのままコンクリートで固まったような表情を変えないでいる。辛くはないのだろうか? まぁでも聞かないでおこう。


 玄関からすぐのリビングには、いつも気になっていた何とも言えない空気が広がっているのだが、それは彼女の「おぉー!!」という遠吠えで部屋の隅に逃げて行った。

 元気な人だなと口元が緩むのを感じていると、何の断りもなく彼女はキッチンに立っていた。


 「じゃあ早速つくろーかな!」


 先程とは違い生き生きした表情に操られた僕は、彼女に頭を下げていた。


 「よろしくお願いします」


 頭を上げると、今度は浮かない顔をした彼女がいた。阿修羅か! と突っ込みを入れたいところだったのだが、僕はそんなキャラではないのでぐっと堪えて冷静に対応する。


 「どうしました?」


 彼女は待ってましたと言わんばかりの顔をして、即答で答えた。


 「お手伝いはしてくれないんですか~?」


 なんだそんなことか。

 幼い頃から母の手伝いをしてだいたいの心得を持っている僕にとっては簡単なことで、むしろ手伝わない方がおかしいのかもしれない。バックを椅子に置いた僕は彼女という波に乗っかる。


 「何を手伝えば? 分担は任せます」


 「うそうそ。なつくんは本でも読んでてください」


 なんなんだこのやり取りは。必要だったのかとは思ったのだが、本を読んでいていいのなら何の文句もない。それに……。


 バックから朝読むはずだった本を取り出した僕は、学校での嫌な記憶を思い浮かべながらソファーに座った。しかし、昨夜挟んでおいたしおりを抜くと一転。何事もなかったような気持ちで物語の中に浸った。

 体感では20分がたったころだろうか、彼女が突然悲鳴を上げたことによって僕は現実に連れ戻された。


ご拝読ありがとうございました。よろしければご感想、ブックマークの方お願いします。


今年の投稿はこれで最後になります。それでは、ちょっと早いですが Happy New Year!!

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