魚な問題3
魚な問題3
「旦那が転勤になるかもしれないの!」
魚を愛してやまない真紀子は干物を頼んだのだが、珍しく魚を箸で刺した!
そんな真紀子は見たことがない。私は彼女の言葉よりもそのことに目を丸くした。いつも上品に食べているのに。
前回、食事をしてから忙しいのか、しばらくなんの連絡もなかったが、ある日、急にメールが来た。干物を食べに行こう!のタイトルに私は会社の休憩室で噴き出した。
「まだ転勤が確実に決まったわけじゃないのよね?」
「そうなんだけど!」
ため息をつきつつも魚をきれいに食べていく。真紀子が干物だろうが、魚だろうがきれいに食べるのはわかっているが、なぜか毎回感心する。ちなみに、私はほっけ定食。
干物って……と最初は思ったが、ためらう私に真紀子は骨が取ってある干物よ!と目をキラキラさせた。
「どこに行くってもう決まったの?」
「沿岸付近らしい。」
「海に面しているなら、いいじゃない。ここでは見られない魚もたくさんいるでしょう。たぶん。」
「ネットで調べた。それは楽しみな方面だからいいのよ!問題は、彼の実家がそこから車で一時間のところにあるのよ!」
「調べたんだ……。一時間って結構あるような……。」
正直なところ、車を運転しない私にはわからない。だが、真紀子はわかっているようで、手を振った。
「そうでもないのよ。慣れもあるけど、高速乗ると行けない距離じゃないのよ。一時間はかかります、って文句でも言おうものなら、じゃあ真ん中で会いましょうとか言われるのよー。あーホント、嫌。でも来られるのはもっと嫌!」
そういって、干物をがっつり口に放り込んだ。いつもはもう少し、丁寧だがおそらく腹を立てているからだろう。
「あー。骨の取ってある干物って素敵。」
「旦那の両親と仲、悪いんだっけ?」
「もー最悪。とくにお義母さんのほうだけど旦那と付き合っていたときから、嫌だったんだけど、結婚しても嫌!大体、息子を誘惑して!もっといい嫁が彼にはいいのに!あんたなんて相応しくないみたいなことをさんざん嫌みたらしく言われて、孫産んだら仲良くしましょう?冗談じゃない。一応、義理で渋々もらった出産祝い、彼女の香典代にしようと思ってるんだ。」
私は再び目を丸くした。学生時代はもうちょっと温和な彼女だった気がする。
「過激だね。」
「それだけ思うようなことを言われたからよ。いらないから返すっていうのを旦那がさんざん止めるもんだから、絶対にびた一文使わないって決めてしまってあるわ。本当は子供のことだって黙っているつもりだったのに。倒れても絶対に面倒は見ないからって旦那には言ってある。」
「そう考えると、結婚もいろいろあるねぇ。」
私は味噌汁をすすった。
「そうねぇ。クラゲみたいに人の意見や状況に流されて漂う人生が幸せって人もいれば、サケみたいに気合い入れて田舎に帰るって人もいれば、回遊魚みたいにじっとしていられず転勤だらけの人生もあれば、あたしみたいに毒をため込むタイプもいるのよ。」
そう言いつつ、漬物をポリポリ食べていく。
「ほう。」
真紀子はじっと私を見つめた。
「なに?」
「いや、どんなタイプかなーと思って。」
「私?たぶん、わかめ。」
「海藻?!」
「いや、動くのは面倒だし、多少揺さぶられても動けないし。誰かが寄ってくる分には問題ないけど、去っていくときは追えないというかなんというか。」
「でも幸せなの?」
「うーん。たぶん、そうだねぇ。性格はやっぱり変わらないからなぁ。変わるだけの根性もないし。」
私も沢庵は食べた。
「いろいろあるよねぇ。」
「そーねぇ。で、デザートはあった?」
真紀子は干物セットを食べ終わり、メニューを広げようとしている。
「ある。食べるでしょ?」
「もちろん。見て、これ可愛い!ブルーハワイのシャーベットにパールをイメージした砂糖、あ、こっちはホタテの皿にアイスかぁ。」
「貝の味とかしないでしょうね?」
真紀子はあきれたように言った。
「あんた、貝もダメなの?好き嫌いはダメよ。」
私はからかってみた。
「人は?お義母さんとか?」
「人はいいの。魚みたいに円熟してもこっちの栄養にならないから。」
真紀子と私は笑った。