日本にいるからわかるのさ
翌日、ジェニファーはエリーが謎の死を遂げたことをルームメイトのチェリーから聞いた。
その内容はおぞましいものだった。
顔中にある物語を書かれており、その内容に沿い手にはワサビが握られていたそうだ。
そしてその物語は、昨日それぞれに配られた〈日本に来たらわかるのに〉の内容そのものだったそうだ。
エリーの死は大学の朝礼会で発表された。
だがまだ不思議なことがある。
あの本を渡したマイケルとチェンの姿がない。
彼らは確か独り暮らしだった。
もしかして。
日本語研究会で確認した。
昨日あの本を読んだかどうか。
私をふくめ誰もまだ読んではいなかった。
私たちはあの本を読まないことを日本語研究会で決めた。
あの本には何かある。
警察にマイケルとチェンのことを伝えた。
生きていてくれと願った。
……だが……現実は残酷なものだった。
あの二人も遺体で見つかったのだ。
警察に少しだけ話を聞かせてもらった。
マイケルはもずく酢を……チェンはコーンポタージュの缶ジュースを握り締めていたそうだ。
どちらも日本でしか売っていないものだ。
あの本は呪われている。
一刻も早く焼いた方がいい。
ジェニファーの同郷のシンディは部屋で机におかれるあの本を見つめていた。
読まないと決めたけど、何があったのか知りたい。
シンディはビデオカメラを回した。
そして本を一冊開いた。
(ティミーは殺された。ティミーのそばに自動販売機が置いてある。警察はそれが何かわからない。事件は迷宮入りした。日本に来たら分かるのに)
なんのヘンテコもない、ブラックユーモアな話。
これで一帯何が起きるというんだ。
次のページをめくったが白紙だった。他のページ全ても白紙だった。
「どうなってるの?」
後2冊の本を開こうとしたとき……
(……続き知りたい)
シンディは2冊の本を驚いて破いてしまった。
なんだ今の声は……
(一生懸命書いたのに……何で破くの……)
声が自分の行動と連動している……
とても恐かったが、シンディは覚悟をきめる。
「ごめんなさい……そのつもりはなかったの……きれいに直すわ」
……その声は聞こえなかった……
なんだったのか……
シンディはもう2冊の本をきれいに並べ直した。
そのとき考えた。もし彼女の最初の回答に答えたら何があるのか……
どうしても知りたい。
「知りたいわ。」
……なにも起きなかった。
シンディは溜め息をつき、トイレに行った。
用を足し終えたとき……
(わかった……読ませてあげる……)
あの声だ……
その声に気付きトイレから出ようとトイレットペーパーを取ら出した。
ペーパーには無数の字が書かれている(レニーは殺されたレニーの近くには万馬券がおちてる警察かはそれがわからなかった日本にきたらわかるのに……)
「キャーー!!」
白い部分を埋めつくすように
「なによこれ!」
ペーパーを全て出しきる
「助けて!」
トイレのドアは開かない……
ドアにもトイレにも壁へにも床にも天井にもペーパーのストックにも字が字が字が字が字が字が字が!!
「ごめんなさい!ごめんなさい!もうしらなくていい!!」
(まだ白いところがあるわ……)
「もうないわよ!もういいでしょ!」
シンディは足が黒いことにきずく。字が書かれている!
「お願い書かないで!」
足から尻、股、お腹、削るように 書かれていく……
「痛ッ!?痛いわ!痛い痛い痛い!!」
自分の眼球が痛むことに気づく。まさか……
「いや!目は辞めて!!書かないで……」
痛みに絶えながらポケットからスマホを取り出す。
スマホにも字が書かれていたが、何とか画面は見えた……誰でもいい連絡しなけらば、助けて助けて……
誰かで出て誰か出て誰か出て誰かでて……
(もしも……)
「助けて!助けて!字に殺される字に殺される!!!」
トビーはジェニファーに連絡を取った。
「シンディが大変だ!!今連絡があった!!急がないと殺されちまう」
トビーは警察にも連絡したが、ジェニファーはシンディ家から数分の所。
断然警察より早い。
「開けて!シンディ返事してよ!」
シンディの体は全て字で覆われていた……
もう書くところはない……
(まだあるわね……)
「もうないわ!もう許して!」
その時、シンディは強烈な胸の痛みに襲われる……
その痛みはまるで体の中を何かで抉られるような……
呼吸もままなさなくなり、苦しくてたまらない……
「まさか……心臓に……書いてるの……」
薄れゆく痛みの中、希望の声が聞こえる。
(シンディ開けて!返事してよ!)
ジェニファーだ……助けてほしいけど……もう声がでない……
ジェニファーはリリーからの返事を待たず、管理人に鍵をかり入った。
「リリー!どこにいるの!?」
部屋を開けた……誰もいない……録画状態のビデオカメラが置いてある……
浴室にも……誰もいない…… となると……
「トイレにいるの!?」
トイレに入ろえとした。
その時内側からトイレの扉をバンッ!!と叩く音。
直ぐに扉を開けた。
「……キャーーーーーーーー!!」
そこにはトイレのドアにもうつ伏せ状態で張り付いた女。
女は死んでいた……
この女はリリーなのか?
あまりの恐怖だったのか表情はジェニファーのよく知るシンディの顔ではない。
ドアからベリベリと流れるように崩れ落ちた。
そしてシンディと扉の間からなにかが出てくる。
一枚の紙……何かが書かれている……
(シンディは殺された。近くに竹刀があった。警察は竹刀を知らなかった。事件は迷宮入りした。日本に来たら分かるのに)
これが……あの本の内容……
竹刀……あの剣道で使うやつ…!?
さっきからシンディの表情に違和感がある……
まるで何かを飲み込んだような……
悶絶にみちた表情……
持っていたペンを利用し、口にいれる……すでに固まっているが……こじ開けた。
「ハァッ………………!?」
息は吐き出される事ができなかった……
驚きのあまりに…
…口の中に……竹刀が……無理矢理に押し込まれている……
警察のタケルは第一発見者のジェニファーとシンディから連絡を受けたトビーを警察署へ同行させた。
「彼女の口から竹刀が無理矢理に突っ込まれていた。内蔵を突き破り……肛門から竹刀が出ていた……」
ジェニファーを泣きわめき、トビーもそのフレーズに鳥肌がなくならない。
「全ては……あの本のせいよ……あの本に……なにかある」
タケルも本のことはわかっていた。
エリーや、マイケル、チェンの家からも発見されているから。
「……本がどう関係するかわからんが……この本を持っているのは誰だ?」
「私とトビーもそうだけど……」
後、渡したのは、トミー、レイニー、ソサモン、ケイトだ。
本を持っているのは後6人。
「全て回収できるか?全て警察に持ってきてほしい」
トミーとソサモンとケイトに連絡、すぐに本を持ってきてもらった。
どがレイニーだけが繋がらない。
まさか……
何度も何度も連絡した。
だがつながらない……
「ジェニファー!」
別に連絡をしていたトビーが呼んだ。
「公衆電話のレイニーからだ。」
……ひと安心……
充電が切れたようだ。
「レイニー、今すぐあの本を持ってきて」
「…無理なの……」
無理とは……?何があったのか。
「家族が来ててね。高校生の弟がもって帰ったみたい。」
やばい……
「今弟はどこ?」
「昨日フランスに帰ったわ。」
止めなければ……
「でも……」
でもなんだ!?
「弟は日本語が読めないわ……」
場所はフランス
彩る町の中にたたずむ家。
タンクは日本にいる姉から本を盗んで帰った。
だが怒られてもいいや。
友達のトモヤは日本からきた。
二か国語できるのだ。
「トモヤ、よかったら訳してくれよ。」
トモヤは「なんともシュールでダークな内容だな」
と全てを書き出した。
なぜか2ページ目が見当たらない。
タンクはトモヤに訳してもらっている横でゲームをしていた。
その時トモヤがなにかを聞いてきた。
「タンクは日本語ができるのか?」
何を言ってるんだ?できないから訳してもらってるんだろ。
「今、囁くような声でとある日本語が聞こえた。」
はい?どうしちまったんだ。
「こっちの言葉で言ったら(続きを読みたいか?)のようなニュアンスの言葉だった。」
トモヤは怖くなって途中で訳すのを辞めてしまった。
そのまま帰るトモヤ。母が出してくれたおやつにも手をつけずに。
タンクはその途中まで訳して書いてくれた本を読んだ。
(リンダは殺された。リンダの近くにコトがおいてある。警察はそれが何かわからなかった。事件は迷宮入りした。)
「コトとは何なんだ?面白くもなんともないぞ。」
その時家に一本の電話がかかってくる。
トモヤは呟いていた。
「琴をフランス語に訳すのは無理だ。あれは日本のことを知らなきゃなにも面白くない」
ブツブツ言いながらもあの声が気になっていた。
家につく前に、公園のハトに餌をやって帰ることにした。
フランスパンを少しだけ湿らせ細かくちぎったものをハトに与えた。
そんな中でもあの声が気になっていた。
「……もし返事してたらどうなったんたろう。」
なにも起きるはずないと餌の続きをやった。
だが欲望は押さえられなかった。
「……読みたいです……」
(……なら、読ませてあげる……)
またあの声だ……
恐ろしくなって家へ帰ろうとするが座っているベンチから立ち上がることができない……
一匹黒いハトが近付く。始めてみる種だ……
だが近づいてみると……黒いんじゃない……
日本語で体中に字が書かれている……
タンクは姉からかかってきた電話を思い出していた。
(その本を絶対に読むな)と言われた。
読んでしまったらなにかが起きるのか……
しかし、訳した文は読んだ……
しかも…トモヤも読んでしまったぞ……
訳してもらったのだからな。
その時、タンクの携帯が鳴った。
「だれの番号だ?」
タンクは家族と一緒に警察へ来た。
その理由は……トモヤが謎の死を遂げたからだ。
あまりの急な出来事に自覚を持てない。
「彼の家族が君の家へ行ってくると聞いたのだが。」
「確かにトモヤはうちにきました。頼みごとがあったので。」
「頼みごととは?」
「日本語の本を訳してもらおうと思って。でも途中で帰りました。」
警察は他の警察と目を会わせた。
「日本語か……こりゃなにか関係あるぞ」
関係とはなにか……
「……トモヤくんの遺体の顔に謎の字があった。だがその意味が我々フランス人にはイマイチわからなかった。そこで……彼の母に意味を聞いたんだ……」
(トモヤは殺された。トモヤの近くには瓦が落ちていた。警察はそれが何かわかった。犯人は捕まった。日本にいるからわかるのさ。)
「そして彼の前にころが落ちていた。」
それは見たこともない楕円な形をしたものだ。
「彼の母に聞いたところ、これは日本の屋根にはめられるカワラというものだ。この文章にでてくるものさ。」
タケルは全ての本を回収はできなかったが、ジェニファーから15冊の本を回収した。
そして被害者の分も合わせて27冊。
あとの三冊はフランスに行ってしまったらしい。
しかしこの作者のジングウジモーコとは誰なのか。
わからないままその本を証拠物件として倉庫にしまいこんだ。
ただ一冊をのぞいて。
「……一冊読んでも何もおきないだろ」
タケルは一冊だけあらかじめ抜いていた。
本を開いた。
(ネイモンは殺された。近くに神社があった。だが警察は神社を知らない。事件は迷宮入りした。日本に来たら分かるのに)
その次のページはなかった。後は全て白紙だった。
倉庫に閉まった他の本を取り出しても全ての本が白紙だった。
「……なんなんだこの本は?」
(続きを読みたい……)
……なんだ今の声は……
倉庫には自分しかいないはずなのに……
「……読みたいと言ったらどうするんだ……」
(読ませてあげる……外国人だから……)
外国人……?俺は日本人だぞ……なんなんだこの声は……
倉庫の中にあるカレンダーが真っ黒だった。
さっきまで白かったのに……なぜだ?
見てみるとそれは……誰かが落書きしたように何かが書かれている……
「モーリアスは……殺された……?」
その字はカレンダーにとどまらず、倉庫の壁や床になど全体に広がっていく……
「誰なんだ……姿を見せろ……」
(私のこと知りたいの……)
「ああ知りたい!誰なんだ……おまえがジングウジモーコか?」
(いい名前でしょ……でも……偽りの名前……)
どういうことだ……何がいいたいんだ……
その字はタケルの体にも侵食してきた。
手の甲から始まり、どんどん上へ登ってくる……
急いで、制服を脱いだ。
大量の毒アリに噛まれるように、その痛みが上がってくる。
「やめろ!痛い!やめてくれ!」
皮膚の痛みは、次第に体の中の痛みへと移っていく。
「……頭が痛い!頭の中に書かないでくれ……」
タケルは薄れゆく意識の中で一つの疑問が湧く……外国人だから読ませてあげるとは……
翌日、とある警察署で死体が発見された。
死体は顔に大量の字が書かれていた。
(タケルが殺された。タケルの近くには十手がおいてあった。だが警察は十手を知らない。事件は迷宮入りした。日本に来たらわかるのに)
タケルの口から、時代劇でよくみる、十手が内臓を突き破りみつかった。
そして、タケルはあるメッセージを床に残した。
(がいこくじんだからよませてあげる)