5 闘志を燃やせ!
「これはこれは勇者様! ぜひ、見ていってください!」
俺は行商のところにいた。
店には村の人達が集まって、賑わいを見せている。
「勇者様、何か欲しいものがあるんですか? 俺に買える金額なら出させてください!」
隣にいた村人が、俺にきらきらした眼差しを向ける。
俺は笑いながら首を横に振った。
「いや、ちょっと見に来ただけだ。それに村人達を助け出した礼にって、村長さんが無理やり持たせてくれたやつも残っているから、俺の懐事情は心配するな」
俺は村人と笑い合う。
ふと、村人の隣にいる男に、優しい目を向けた。
容姿がいいその男は小首を傾げつつも、俺に礼をする。
村人たちは、俺にできる限り協力すると言ってくれた。
寝食忘れて考えた結果、俺は体勢を立て直すことにした。
やみくもに魔王の元へ行っても、なぜかいつも心を乱されてしまう。
今一度、初心に帰るべきだ。
俺は魔王を倒す。そのための旅だ。冷静になれ。魔王の顔を一旦頭から締め出すんだ。
「勇者様! 気になったものがあったら、ぜひ手にとってみてくださいね! 勇者様なら特別に値下げしてもいいですよ!」
行商は、雪国には似合わない脂の乗った笑顔を浮かべる。
「あはは、特別扱いなんてしなくていいんだぞ?」
「いえいえ! 勇者様が商品を買ってくれたというだけで、ほまれ高いというものです! なにか欲しいものはありませんか?」
「んー……そうだなあ……」
俺は並べられている商品に視線を走らせた。
食べ物から装飾品まで、持ち運びできるものなら何でもそろっている。
そのごちゃごちゃさが、なんとなく気に入った。
「ん? これは……?」
俺はある物を手にとる。
行商が目ざとくそれを見つけ、手をもんだ。
「おお! さすがは勇者様! お目が高い! それは魔牛の角でございます!」
「なんでこんな物が……?」
角を二本つなぎ合わせてできた置物は、見ただけでそこそこ高い値段がすると分かる。
変にでかいから場所を取りそうだし、こんな物、買うやつなんているのだろうか?
俺の疑問を見透かしたのか、行商は口を開く。
「ここら一帯では、角がとても人気なんですよ。今は持ってきていませんが、枝分かれした角の壁飾りなんて、この村にたどりつく前に売れてしまうほどです」
「へえ……そうなのか」
俺は角の置物に視線を落とす。
雪国特有の文化みたいなやつがあるのだろう。
「それ、俺の家にもありますよ!」
「へえ……」
うわの空である俺は、村人に生返事をする。
角の置物から目を離せない。まるで吸い寄せられるようだ。
俺は、魔王の頭にある二本の角を頭に浮かべていた。
魔王の角も、こんな手触りなのだろうか。
いや、魔王の角はこれよりもっと立派で、つややかであった。
きっと、これよりずっとさわり心地がいいのだろう。魔王の角は……
「……これ、いくらだ?」
行商と村人は目を輝かせた。
◇
俺は宿の主人に断りを入れ、宿の裏にある小さな庭に足を向けた。
つもっている雪を魔法でとかすと、木の枝にひもをくくりつける。
角の置物を木につるした。
俺は角から少し距離をとる。
と、その時。
「なにをしているのですか、勇者様?」
通りかかったらしいメアリーが、不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。
俺は剣を抜く。
「初心に帰ろうと思ってな。これを魔王に見立てて、訓練をするんだ」
「魔王に……?」
「メアリー、大丈夫だろうけど、ちょっと下がっててくれ。剣を振るから」
「はい」
メアリーが後ろに下がったのを確認し、俺は加減しつつ剣を振るう。
空気が引き裂かれた音とともに、角が真っ二つになる。
「まあ! すごいです勇者様! いつ剣を振るったのか分かりませんでした!」
「あはは、そうか?」
ほめてくれたメアリーに、俺は照れ笑いする。
ふと、地面に転がっている斬られた角を見やった。
あと何回この角で訓練できるだろうか? あっという間にこっぱみじんになってしまうだろう。
角が原型をとどめなくなったら、もう魔王を思い起こせない。
本番前に、俺は魔王に慣れておいたほうがいい。
「……もっと訓練しなきゃな」
◇
俺はそれから、角を買いあさった。
ただの角ではだめだ。魔王のあの角に似ていなければならない。
あらかた買い占めると、俺はみずから狩りに出た。
魔牛の王と言われる古牛と戦い、角を切り取る!
それが終われば、次の標的を竜に定める。
魔竜から聖竜まで角を切っては保管し、切っては大切に保管する。
「うおおおおおおおっ!」
俺は世界中を駆け抜けた。
盛大な前フリ




