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あたたか魔王  作者: 石山
7/20

↑の続き

 一方その頃、



「ふっふっふのふ~ん……♪」


 四天王の一人、スリープケインは雪山にいた。


 青年の姿をした魔物である彼は、ぐるぐる模様がある髪に、うずまきの目をしている。


 彼は魔法で、国一つを支配していたこともあった強大な魔物だ。


「ぐふふふふ……いってきます」


 スリープケインは、にたにた笑いながらそりに腰を下ろす。


 彼の背後には、魔王城があった。


 勇者に倒されたはずの彼が、なぜこんなところでそり遊びをしているのか。


 それはともかく、スリープケインはそりで雪山を滑る。

 その途中、巨大な雪玉が立ちふさがっていたが、気にせず乗り上げて通過した。


 ジャンプ台っぽくてスリープケインは楽しそうだった。



          ◇



「のわああああ!?」


 なぜか雪玉に衝撃が走る。


 俺は避ける暇もなく押しつぶされた。


 誰が押しやがったのか分からないまま、俺は雪玉に巻き込まれる。


 回転する視界の中、何かが前を走っている気がした。





 ……少しして、雪玉は魔王城に激突した。


 見張りの魔物の減少が招いた、悲しい事件であった……




          ◇



「ん……」


 俺は薄目を開ける。天井が見えた。


「ここは……魔王城か?」


 魔王城のどこかの一室で、ご丁寧に俺はベッドに寝かされていた。


 どうやら俺はあのまま気絶したらしい。


「手錠は……されてないな」


 俺はみずからの両手を見る。


 雪玉を魔王城にぶつけた犯人にはされていないようだ。


 胸を撫で下ろしたその時、部屋の扉が開く。


「あ……起きてたんだ……」

「!? ス、スリープケイン様!?」


 俺は上半身を起こす。


 中に入ってきたのは、四天王の一人であるスリープケインだった。


 死んだはずの彼がなぜ、という疑問があるが、それよりも、


「どうされたのですかその傷は!」


 スリープケインは頭から血を流していた。

 かなりの量で、顔が真っ赤に染まっている。


「あ……これ? たいしたことじゃないよ……魔王様に、雪玉を直撃させちゃったばつを受けただけだから……ぐふふ……」


 スリープケインは暗い笑みを浮かべる。


 そうか、雪玉に巻き込まれた時にちらっと見たのは、こいつか。


「君はえらいね……雪玉を押しとどめていたんでしょ……? 忠臣って、君みたいなやつのことを言うんだね……」

「は、はあ……」


 忠臣と言われると微妙な気持ちになるが、魔王を油断させられると思えばいいだろう。


 開け放たれた扉から、魔物達の騒ぎ声が聞こえてくる。ずいぶんとうるさい。



 スリープケインはにたりと笑う。


「ああ……四天王が二人も帰ってきて、お祭り騒ぎになんだよ……これ、飲む……?」


 スリープケインは小さな酒瓶を差し出す。


「あ、ありがとうございます」

 俺は受け取って、礼儀として少し飲んだ。

「! う、うまい!」


 あまりのおいしさに、つい俺はごくごく飲む。身に染みた。


 スリープケインはその間、ずっとにたにた笑っていた。


 ツーリアゲイトと仲がいいから俺も面識があるが、気味が悪くて、こいつ苦手なんだよな……


「といっても……魔物たちが勝手に興奮しているだけで、宴とかがおこなわれているわけではないけどね……まだ魔王様の目的は達成されていないから、そういうことは控えているんだ……だから、あんまり酔っ払ったらだめだよ……」

「は、はい。そ、それよりもスリープケイン様。勇者に倒されたのではなかったのですか?」


 俺は元上司に言ったのと、同じ質問をする。


 スリープケインはどんよりとした渦巻き模様の瞳で、ちらちらと俺のほうを見る。


「ああ……命乞いしたら見逃してくれて……別にボク、魔王様が怖いから渋々従ってただけだし……実は、今までずっと遊んでたんだ……」

「なら、なぜ今になって……」

「そろそろ最強の勇者が魔王様の元に来る頃かな……と。さすがにそろそろ戻ったほうがいいと思って……義務感っていうか、生き延びているのをばれたらまずいって現実が襲いかかってきて……」

「そうだったのですか……」


 俺はひらめいたことがあった。


 こいつ、使えるかもしれない。


 彼は、ツーリアゲイトのように、魔王へ絶対の忠誠を誓っているわけではない。


 それに、魔王にあんな目にあわされ、心の中では怒りがあるはず。


 そこをうまくつけば、味方に引きずり込める。


 しかもスリープケインが得意なのは、催眠魔法。

 相手を意のままに操ることができるといわれている恐ろしい術だ。


 使えるぞ。


 俺は提案を持ちかけようと口を開ける。


 だが、思うように舌が回らない。


 もう酔ったのか? いやまさか。あんな少量で酔うはずがない。


 ぎし、とベッドにスリープケインが手をつく。


「でも、戻らなきゃよかったかな……? この後、ロッゼに呼ばれてるんだ……魔王様は肉体的にきついお仕置きだけど、ロッゼって精神的にいたぶってくるから、嫌なんだよね……」


 スリープケインは俺の顔を覗き込む。


 嫌な笑顔が目の前に広がる。


 背筋に悪寒が走った。


「だから、お願いがあるんだ……君が雪玉をぶつけたってことに……してくれない?」



 こいつ、俺に罪を着せる気だ……!



 魔法をかけられる前に逃げなくては……


「ぐ……う……」


 だが、体が思うように動かない。


 しびれている……? 一体どういうことだ!?


「あはは……別にさっさと魔法をかけることもできるんだけど、ほら……ボクって用心深いから……もしもの可能性はすべてつぶさなきゃ安心できないんだよね……」

「く、そ……っ!」


 酒に何か入れやがったな!


 俺は力を振り絞って、酒瓶をスリープケインの顔めがけて放り投げる。


 だがあっさりと彼はかわす。


 酒瓶は、酒をこぼしながら部屋を横切って飛んでいき、


 こつん、とちょうど部屋に入ってきた者の頭に落ちる。


「なっ……」


 俺は思わず絶句した。


「どうしたの……って、え……?」


 俺の驚いた表情に、スリープケインは振り返る。


 そして、固まった。



 銀色の長髪に、ぽたぽた酒がたれている。


「…………」


 真っ赤な瞳が俺達を見た。


 スリープケインの全身が震える。


「まままま魔王様が、お酒をををををを」


 絶望的な状況の中、ふと俺は首を傾げた。


 なぜスリープケインは、魔王に酒をぶちまけたことよりも、魔王が酒を浴びたことを恐れているのだろう?


 そういえば、魔王の目が心なしか据わっている気が……



 魔王は足を一歩踏み出した。





 そこからの記憶はない。

 だが、俺は地道に魔王の下で頑張ろうと決めた。

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